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3.4 複胴型高速RoPaxフェリーの推進システム
 
3.4.1 複胴型高速RoPaxフェリーに装備された推進器の荷重係数の分析
 複胴型高速RoPaxフェリーの船長、船幅、喫水、航海速力、主機馬力、推進器の種類、軸数、載貨重量、総トン数等を調査した。収集したデータは84隻分で、全て双胴船である。これらの双胴船のうち、プロペラを装備しているものは4隻(うち2隻が同型船)のみで、他は全てウォーター・ジェットを装備している。
 荷重係数を計算し、荷重係数と載貨重量及び航海速力との関係をそれぞれFig.3.4.1およびFig.3.4.2に図示する。荷重係数が0.003以上を高荷重と考えるならば、84隻中7隻が高荷重となる(うち2隻は同型船)。プロペラ装備船の3隻(同型船は合わせて1隻とみなす)のうち、荷重係数の低い2隻は載貨重量が50トン以下、残りの荷重係数の高い1隻はこれら2隻よりは載貨重量が200トン程度と大きめであるが、全体からみれば小型の部類に属する。荷重係数と載貨重量の相関は明確ではない。また、プロペラ装備船の航海速力は3隻とも35ノット以下で、全体からみれば低速の部類に属する。特に、荷重係数の最も高いプロペラ装備船は最も低速に近い。荷重係数と航海速力の相関は明確ではない。
 
Fig.3.4.1 載貨重量と荷重係数の関係
 
Fig.3.4.2 速力と荷重係数の関係
 
 次に、プロペラ装備船の荷重係数が同等のウォーター・ジェット装備船と比較してどのような大小関係にあるかを調査する。排水量が不明なので総トン数が近い船を同等とみなした。プロペラ装備船をP1、P2、P3とし、これらと同等とみなせるウォーター・ジェット装備船をWJ1、WJ2、WJ3として、Table 3.4.1に荷重係数の比較を示す。P1及びP3の荷重係数は、同等とみなしたウォーター・ジェット装備船の荷重係数より大きくなっている。P2の荷重係数は、同等とみなしたウォーター・ジェット装備船の荷重係数より小さい。しかしながら、サンプルデータ数が少ないこと、同等とはみなせない船を比較している恐れがあること等から、何らかの結論を示すことは差し控えたい。なお、荷重係数の大きな双胴船P3がプロペラを装備しているのはランニングコストを低くおさえるのが目的である。しかし、速力を30ノットより高速とする場合にはウォーター・ジェットが選択されている。
 
Table 3.4.1 荷重係数の比較
船名 総トン数(t) 船長(m) 船幅(m) 喫水(m) 馬力(kW) 軸数 速力(kt) 載貨重量(t) 荷重係数
P1 149 24.2 9.0 1.8 1099 2 30 20 0.001168
WJ1 273 40.2 9.3 3.6 4000 2 39 47 0.000301
P2 528 40.1 11.2 1.7 3152 4 33 40 0.001060
WJ2 673 44.0 12.0 2.4 3960 2 29 80 0.001922
P3 1687 72.0 12.9 2.0 7850 2 30 204 0.003256
WJ3 1481 55.0 15.0 2.0 5680 2 38 570 0.001764
 
3.4.2 多胴船の造波抵抗推定手法
 前項で示した通り、複胴型高速RoPaxフェリーの推進システムとしては、ウォーター・ジェットを装備した例が圧倒的に多く、プロペラを装備した例は極めて少ないため、推進器の設計ツールについて記述することは困難である。従って、ここでは高速船を対象としていることを考慮し、双胴船並びに三胴船について高速域で問題となる船体による造波抵抗の推定手法を調査することにする。
 超細長双胴船SSTH(Super−Slender Twin Hull)の開発ではTUMMAC−IVと呼ばれるCFDコードが用いられた[4−1]。TUMMAC−IVはNavier−Stokes方程式あるいはEuler方程式の直交座標系による差分解法で、時間進行により支配方程式を解く。自由表面条件は厳密に自由表面上で満足させており、船体表面上ではfree−slipの境界条件を課している。双胴船の最適船型は単胴の最適船型をベースとしている。
 単胴船のCpカーブを細長体理論により最適化した後に、船体前半部の線図の改良がTUMMAC−IVによる数値計算結果をもとに行われている。このようにして最適化した船型を要素とする双胴船を再度TUMMAC−IVによる数値計算結果をもとに改良し、最終的には実験により抵抗特性を確認している。TUMMAC−IVによれば、造波抵抗を少なくとも定性的には予測できる。即ち、船型差を表すことが可能であることが実験値との比較により示されている。論文には船型の最適化の手法についての具体的な記述はないが、本手法による数値計算と模型試験により設計された高速カーフェリーが実際に建造され、就航している実績があることから、本手法は実用に供し得るものと言える。
 双胴船並びに三胴船の造波抵抗の推定にランキンソース法が用いられる例が多い。ランキンソース法は定常造波問題の数値解法であり、船体表面及び静水面をパネル分割し、それぞれのパネル内に吹出し(ランキンソース)を分布させて船体まわりの波流れを表す方法である。吹出し分布は、船体表面における物体表面条件と静水面における自由表面条件及び波は後方にのみ伝わるという放射条件より決定される。吹出し分布が求まると、船体表面上の圧力分布や波高が計算できる。
 2種類の双胴船まわりの高速域による自由表面流れをランキンソース法により計算し、船体まわりの波形、船体のトリム及びシンケージを求めた例がある[4−2]。さらに計算で得られた波高の横切法による波形解析を行った。このようにして得られた波のスペクトラム及び波形抵抗は、水槽試験において計測された波形を縦切り法により波形解析して得られたものと良く一致している。また、同様な計算が三胴船を対象にして行われている[4−3]。
 国内においても三胴船まわりの自由表面流れの計算が行われている[4−4]。水上自走標的と呼ばれる両弦に主船体船長の約70%に及ぶ船長のアウトリガーを有し、さらに各胴の中央横切面形状がそのままトランサム船尾断面形状になっているという排水量型高速三胴船型用のランキンソース法コードが開発されている。標準状態とされる胴配置のみについて行われた水槽試験による剰余抵抗と計算による造波抵抗の間には定量的な差があり、かつハンプ位置に若干の差が認められる。これは、計算には船体の姿勢変化が考慮されていないこと、対象とされた船型は上述のように特異な形状であることが原因と考えられる。開発された計算コードを用いて、主船体とアウトリガーの最適配置の検討が行われたが、水槽実験による検証は行われていない。
 三胴船の造波抵抗の低減に簡便な計算法を用いた例も発表されている[4−5]。第一段階として勾配法に基づく最適化手法により、中央船体及び外側船体の造波抵抗が最小となるようにそれぞれの船体形状を独立に最適化した。ここで、0次の細長船近似に基づく造波抵抗推定法が用いられている。中央船体に対して外側船体の位置を船長方向に4ケース変化させた場合の造波抵抗を計算によって求め、実験により得られた剰余抵抗と比較したところ、定性的かつ定量的に良好な一致が得られている。第二段階として、第一段階で求められた最適化された中央船体及び外側船体を用いて、中央船体に対する外側船体の最適配置を求めた。このようにして、造波抵抗を大幅に低減することができることが示された。なお、水槽実験による検証は行われていない。
 
3.4.3 まとめ
 複胴型高速RoPaxフェリーの推進システムとしてはウォーター・ジェットを装備した例が圧倒的に多く、プロペラを装備した例は極めて少なかった。プロペラを装備した3隻の船の荷重係数を、それぞれと同程度の総トン数をもつウォーター・ジェット装備船の荷重係数と比較したが、はっきりとした特徴は見出せなかった。
 複胴型高速RoPaxフェリーの推進器の設計ツールについての調査は困難であるため、高速船を対象としていることを考慮し、双胴船並びに三胴船について高速域で問題となる船体による造波抵抗の推定手法を調査した。造波抵抗の推定手法としては細長体理論、ランキンソース法及びCFDの3手法があり、計算精度は総じて良好のように見受けられた。これらの推定手法のうちからどの手法を選択し、どのように設計に活用するかは設計者の考えに委ねられているように思われる。







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