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4. 高速商船の船体構造に係わる技術課題
 
4.1 全般
 効率的な高速化を達成する為には構造の軽量化が必要である(無論、艤装品の軽量化も必要である)。但し投資コストとの兼ね合いで、軽量化のニーズ/結果としての程度は設定速度に依存する。例えば30ノット程度の設定速度であれば、排水量型船型で良く通常レベルの高張力鋼の部分的な採用でバランスする。一方、40ノット内外の設定速度となると、アルミ合金等の大幅な採用と併せて軽量化構造要素の採用が必要でありコスト的にも可能となる。大雑把に言えば高速商船に於ける軽量化ニーズは、航空機ほどではないが通常鉄道車両よりは高く、特に40ノット内外の高速船であれば、超高速鉄道車両並の軽量化ニーズがあるものと見られる。一方、SES船型などでは本質的に軽量化ニーズが高い。
 この様に、具体的な船型・速度によっては軽量化に関する技術課題が変わるので一律には定義できない。ここでは近未来に現実的なものとして想定された4船型の中で最もハードルが高いSESタイプをもカバーする観点から、広い範囲の技術課題を考える(SESタイプを超える超高速船の技術課題は対象外とする)。従ってより低位な船型開発に際しては、無用と化す課題を外して考えれば良い。
 軽量化の実現要素は(1)荷重予測、(2)材料、(3)構造及び、(4)建造法に大分類される。軽量化に伴い強度の低下をきたし、結果的に疲労・座屈・腐食等の問題を発生してはならない。就航率を高める為には構造の高強度化も必要となる。一方で振動・騒音の低減或いは火災・座礁・衝突など異常時の最終強度と安全性確保にも配慮は必要であり、軽量化と相反する面があるが、最適化を図る上で上記4要素の詰めは共通課題となる。また、構造強度アプローチとは別に、荷重制御ソフト・ハードの導入にも踏み込む場面もあり得る(乗り心地改善目的のみでは無く運動−荷重−構造応答制御を目的としたシステムの導入)。その場合には、船体運動・構造応答モニタリングシステムのとの連動が必要となる。
 以下では構造に関連する大分類別に現状技術のレビューを行い、先行する欧米に追随・凌駕するのに必要な研究開発課題の抽出に結びつける。
 
4.2 荷重関連課題
 縦曲げ・捩・横曲げ(全体強度に係わる)と共に衝撃荷重・圧力(局部強度に係わる)の推定精度向上が重要である。(小型)高速艇船型の場合には特に船体姿勢・運動との連成解析が必須となる。CFDを含めた現時点での非線形解析コードの適用範囲は限定的であり且つ、精度は不十分である。特に、微分値にあたる局部的衝撃圧力の解析は困難である。先行する欧米では解析コードの整備が始められているのと同時に、多くの就航船を基とした実船計測データによる検証・フィードバックが蓄積されており、規則化動向とも連動している。IMO或いは海外船級規則の具体的な整備を待っていては立ち後れるのは明らかであり、本分野での解析コードの高度化ニーズは高い。無論、実験船等による就航中モニタリングによる実績データ蓄積・統計処理も必須である。また、航空機主翼に作用する突発荷重に対する瞬時のカウンター制御等に倣い、動的な運動(予測)・荷重制御システムの開発も就航中モニタリングとの併用による効率的な全体強度安全性確保の観点から、望ましい。
 
4.3 材料関連課題
 今回想定する4高速船型で採用される(可能性の高い)構造材料は、軟鋼・高張力鋼及び舶用アルミ合金或いはそれらのハイブリッドである。高張力鋼の採用には一般的に疲労強度の問題が伴う。特に降伏点で460N/mm2を超える超高張力鋼では精査が必要であるが、溶接部の施工品質管理と疲労寿命解析精度とは未だに不十分である。超々高張力鋼を採用している潜水艦では荷重変動の繰り返し数が少ないので、比較にならない。無論アルミ合金でも疲労損傷報告は多く、短期的な解決が望めない構造設計共通の長期課題である。従って航空機・原子力発電設備の様に、定期的な検査と就航中モニタリング及び修繕・補修スキームの開発と確立のアプローチを採るのが、現実的な「主」解決法と考えられる。
 アルミ合金の場合、MIG等で溶接能率が悪い上に溶接部の軟化(強度低下)と歪発生が大きな問題点となっている。熱伝導率が高い事が相俟って、薄板の歪矯正には労力を要する。最近注目されている摩擦攪拌接合(FSW)はアルミ合金から実用化が始まった。摩擦熱で約400℃(アルミ合金の溶融温度未満)に達し変形抵抗がほぼ無くなった状態にて、強制的に攪拌する事により接合するので、疲労寿命を含めた強度低下が殆ど無く歪も発生し難い。後述の大型プレファブパネル化に際しても有力な接合法となるので、アルミ合金の優位性は当面更に高まると考えられる。但し、FSWの設備導入を各造船所が独自に行い接合ノウハウを開発するのでは非効率な面がある。欧州の事例では、同じく高エネルギー密度で入熱の少ないレーザー溶接を含めて人権費の低い旧東欧圏に専用接合工場を設け、供給先マーケットとして欧州全域をカバーする事でコストダウンを図っている。従って、国内供給体制の確立も解決課題の一つである(需要のマスと定期性がコストダウンには必須)。なお、国内アルミメーカーも近年FSW等の接合設備を有しており、或る程度の大型パネルの供給は現時点でも可能である。
 近年欧米では、アルミ合金押し出し材(成形パネル)の採用が多く、特に断面効率の良い中空型鋼の採用指向が目立つ。発泡材・樹脂材等を中空部の充填物としたパネルの開発試行例も見られる。一方で、変動荷重が少ない限定された航路に就航する高速船向けには、超高張力鋼(潜水艦向けの超々高張力鋼レベルでは無い)の採用研究も行われている状況にある。耐火性とメンテナンスミニマイズ両立の観点から、欧州フェリーでは耐腐食型SUS材溶接組立甲板パネルの採用も見られる。また、全鋼製溶接組立中空甲板パネルの採用も進んでいる。共に歪防止・構造要素としての深さ減・軽量化の相乗効果も指摘されている。摩擦攪拌接合及び成形中空パネルは、異種金属材料間の接合にも新たな解決法を提供する。これらに関し、国内特に舶用では系統的な研究開発に乏しいので、今後の課題となる。
 一方、単独の積層複合材は更に高コストで且つ、工作性・修繕性・耐火性面でも課題も多い。金属系材料とは異なり、本質的に固体別材料強度のばらつきが大きいのも効率的な構造設計に際しての問題となる。廃船時のリサイクル対策も解決課題である(大手化学メーカーが、全産業向け共通のリサイクル拠点網を整備し始めているが)。また、金属系材料の成形後の自由曲面加工実績はあるが、複合材系は一般的に伸びが無いので困難であるのも障害となる。今回想定する4高速船型での軽量化ニーズレベルでは、複合材の広範な採用は不要と考えられるので、ここでは技術課題抽出の対象外と判定する。
 
図−4.1 アルミ合金中空成形型鋼(国内)
 
図−4.2 海外フェリー車両甲板でのパネル採用事例
 
図−4.3
 
図−4.4 SUS車両甲板パネル採用事例
 
図−4.5 アルミ合金パネル採用事例(高速鉄道車両)
 
図−4.6 アルミ合金パネルレーザー溶接接合工場
 
図−4.7 アルミ合金パネル曲面加工事例
 
図−4.8 アルミ合金パネル摩擦攪拌接合工場
 
図−4.9 双胴船Side Wall向けの摩擦攪拌接合(開断面)大パネル例(左は陸上輸送状態)







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