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3. 高速商船の船型、プロペラの開発課題
 第1章に記載されている各種船型の内、載貨重量7,000トン、速力30ノットの通常の排水量型船型の所要馬力、プロペラについて検討する。この種の船は、今後、日本近海、東アジア地域でデイリーサービスを行うRO/RO船、フィーダーコンテナ船として有望である。船型、推進方式としては、
(1)従来のブラケットタイプの2軸船型
(2)ツインスケグタイプの2軸船型
(3)ウオータージェット推進
(4)ポッドタイプの多軸推進
が考えられるが、ここでは、主に(1)のブラケットタイプの2軸船型について検討する。4.1に記載されている各種船型の内、40〜50ノットの高速船の場合は、ウオータージェット推進ないしスーパーキャビテーティングプロペラが選択されることになろうが、速力30ノットの通常の排水量型船型の場合は、これらの推進方式の利点が現れるには至らない領域であるとともに、従来の通常の推進法では問題が多い領域である。ここでは、この種の船型について、馬力推定とプロペラ試設計の結果を見ながら、通常のプロペラで対応する場合の開発課題について検討する。
 
 想定した船の要目は、
長さ LPP 220m
幅 B 25.0m LPP/B=8.80
喫水 d 7.2m B/d=3.47
排水量 △ 19,000t CB=0.468
載貨重量 7,000t
主機出力 35,000ps×2
 
である。主機は、現在使用できる最大馬力の中速ジーゼル機関をギアダウンして使用するものと想定した。船の大きさを変えて性能を計算する場合は、要目比(LPP/B、B/d、CB)を同じにして相似な船型で計算した。馬力推定、プロペラ設計の条件を図−3.1に示す。これらは、日本造船技術センターの水槽試験データ等を参考に求めた。プロペラは6翼の固定ピッチプロペラFPPを想定した。プロペラ直径は、船体とのクリアランスを確保するため、多少の余裕も見て、1軸船の場合は船の喫水の70%以下、2軸船の場合は60%以下に制限した。プロペラ設計には日本造船技術センターのPDプロペラ設計システムを使用した。プロペラの翼面積等は同システムの標準的手法で決定した。PDプロペラ設計システムは、プロペラ翼面上圧力分布が平坦になるようなプロペラを設計する設計システムであり、バリルの方法などでプロペラ翼面積を決める場合に比べて、比較的翼面積の小さなプロペラが設計されるプロペラ設計システムである。
 
 なお、図−3.1には、プロペラ設計条件の厳しさを比較するための参考データとして計算した超大型コンテナ船(12,500TEU、△=194,000t)及びその半分の大きさの船の計算条件も示してある。
 
 計算結果を図−3.2に示す。横軸は排水量、縦軸は馬力を一定にした場合のサービス速力Vs[knots]、および設計されたプロペラの展開面積比aEである。サービス速力は、85%MCR出力、25%シーマージンの条件で計算した。本図には、参考のため、主機馬力を25,000psとした場合、1軸船とした場合も示してある。また、本図には、前述したように、比較のため、最近よく話題に上る大型コンテナ船に関する計算結果も示してある。この場合の主機馬力は、現在使用できる低速ジーゼル機関の最大馬力110,000psとした。
 
(1)図−3.2によると、排水量△=19,000tで主機馬力が35,000ps×2の場合の速力は28.9ノットとなっている。25%のシーマージンは過大とも考えられるが、外洋の航海で、かつかなり厳しい定時運行を要求される船舶なので、この程度のシーマージンは見込んでおきたい。30ノットを得るためには10%程度の馬力削減が必要である。
 
(2)△=19,000tの場合の船の長さをLPP=220mとしたが、我が国等の港湾状況を考慮すると全長を200m以下とするのが望ましい。排水量ないし載貨重量を確保するためには、その分だけ船幅を大きくする必要があるが、本検討の対象外として検討しなかった耐候性の確保という面からも船幅増が望ましい。この場合、船の長さ幅比L/Bが小さくなるため推進性能が悪くなるので、推進性能の面から更なる船型改良が要求される。
 
(3)ここで検討の対象とした船舶は、数百海里程度の航路のデイリーサービスを想定しているので速力性能にも余裕が必要である。また、30ノット程度の排水量型船舶は、載貨重量に比べて燃料消費量が多くなり、船舶の抵抗揚比の利点が薄れてくる領域でもあるので、船型改良による速力向上ないし馬力節減が重要である。
 排水量△=19,000t、主機馬力35,000ps×2で30ノットという目標は、達成不可能な目標とは考えられず、研究開発によって実現可能な範囲と考えられる。
 
(4) 図−3.2の上図によると、この△=19,000tで主機馬力が35,000ps×2の場合のプロペラの展開面積比aEは、約1.5となっており、キャビテーション性能を確保するためにはかなり大きい翼面積(図−3.3参照、投影形状)が必要になる。図−3.2には、参考のため、大型コンテナ船の計算例も示してあるが、この場合のプロペラの展開面積比は、△=194,000tで約1.0となっている。展開面積比が1.0という値もかなり大きな値であり慎重な設計を必要とするが、1.5は更に大きい。
 
(5)さらに、ここで検討の対象とした船舶はデイリーサービスを想定しているので、操船性の面から、可変ピッチプロペラCPPを使用したい。図−3.3の6翼FPPプロペラを設計したのと同様の設計条件にて、4翼CPPプロペラを設計してみた。翼数を少なくすると展開面積比が減少するが、CPPの場合、変節時に翼が重なってはならないという条件が加わる。
 設計結果を図−3.4に示す。翼面積が増えても翼が重ならないようにするためチップ付近の翼弦長が大きい翼輪郭としたが、結果としては、翼の重なりがぎりぎりの限界となっている。更なる高速や直径制限など、設計条件がより厳しくなる場合は翼が重なってしまい、CPPとして使用できなくなってしまう。
 大翼面積のCPPは実績も少なく開発研究が必要であるとともに、より小さい翼面積でキャビテーション性能の優れたプロペラを設計する方法の開発等が望まれる。
 
(6)また、最適直径が小さいプロペラ及びプロペラ一個当たりの翼面積が小さいプロペラとして、二重反転プロペラの採用も考えられる。二重反転プロペラは、大型船用としては低速肥大船での実績はあるも、大型高速船の実績は無いので軸受けの問題等、すぐ採用できるか否か検討する必要があるが、プロペラ効率向上による推進性能向上も期待できるので、研究開発の価値は大きい。
 
(7)上記の検討ではブラケットタイプの2軸船型を想定したので、プロペラ直径を喫水の60%と制限した。これが大きな展開面積比の主因である。船型を工夫することによってプロペラ直径をもう少し大きくすることも可能であるが、最初の選択肢で記述したように、ツインスケグ船型の採用も考えられる。ツインスケグ船型は、フェリーでの実績が多い船型であるが、1軸船と同じようにプロペラ直径を喫水の70%程度にすることが容易であるばかりではなく、抵抗増加を招くこと無く船尾付近の水線面積を大きくし易い船型なので、耐航性能の向上、デッキエリア確保の面からも有利である。
 
 以上、日本近海、東アジア地域のデイリーサービスに供する載貨重量7,000トン、速力30ノットの単胴排水量型船型のRO/RO船、フィーダーコンテナ船に関して、船型及びプロペラに関する開発課題を挙げたが、今後の同地域の物流需要の増大及び我が国造船技術の優位性確保の必要性を考慮すると、ぜひ取り組んで行きたい課題である。
 
 
抵抗係数 1軸船 上図
  2軸船 10%増
 
自航要素 RO/RO 大型コンテナ船
  1軸船 2軸船 1軸船
伴流係数1−Ws 0.81 0.95 0.78
スラスト減少係数1−t 0.85 0.90 0.83
船後プロペラ効率比ηR すべて1.00  
 
プロペラ 6翼FPP    
  直径制限 1軸船 Dp<70%d
    2軸船 Dp<60%d
図−3.1 馬力推定・プロペラ設計の条件
 
 
 
図−3.2 排水量〜速力、展開面積比
 
図−3.3 6翼FPPの設計例(aE=1.49)
 
図−3.4 4翼CPPの設計例(aE=0.95)







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