日本財団 図書館


4.4 構造関連課題
 軽量化指向と(衝撃)荷重問題が並立するので、強度・振動・騒音面で種々の技術課題が存在する。旧の開断面小骨及び(接着・ろう付け)ハニカムタイプサンドイッチ構造要素は、構造の連続性面で弱点がある。成形中空(サンドイッチ)パネルの採用により、構造の連続性は改善するが、狭スペースでのパネル間接合部及び従来型構造との接合部の疲労強度信頼性に課題が残る。中空パネルには開断面パネルに比較して、一般的にピーク応力を同等未満に抑えられ(耐疲労強度改善)且つ高い耐座屈強度も維持し易いと言うメリットがある。充填材と併せて防音・防振・耐火・耐衝撃性面での相乗改善効果も指摘されている。但し、中空パネルの撓みは増加傾向にあるので、局部振動数の低下及び、ガラス窓等との取合い・アライメント設計には留意する必要性がある。実船採用で先行する欧州でも、まずは隔壁或いは可動ランプや可動車両甲板等、相対的に軽荷重環境で且つ主船体構造から分離独立しており高応力伝達が無い部分から採用が始まり、徐々に固定車両甲板等へ適用拡大を図ってきたとの経緯がある。ごく最近では、連続固定で大型バスを積載する甲板にも採用されているので、軽量化高強度化追随技術の一環として、注目が必要である。欧州では高速船のみならず一般のフェリー・客船への採用実績も進んでいる建造コスト低減の他に、復原性能面からの上部重量軽減目的或いは美観の観点もあり)。なお、成形中空パネルに関しては国内外他産業向けと共通化を図るのがコストダウンの観点からは有望となる。
 過渡振動応答解析を含む衝撃荷重に対する局部・全体構造応答解析法の整備・高度化も望ましいが、未解明状況下でも高速船の開発・就航実績はあるので、必須とは言えない。
 
4.5 建造法関連課題
 超高張力鋼採用に際しては溶接施工前後処理に課題が生じるが、通常船と比較して特別な研究開発課題とは考えられない。一方、成形中空材を採用する場合には、船台・渠中での溶接法及び切断法(孔明け含む)を確立しておく必要性がある。歪低減と高速溶接の観点から、MIG以外にレーザー(ハイブリッド)溶接設備の導入と溶接法・品質管理法の確立も望ましい。但し、先行する欧州主力造船所は過去10年のEU 協同研究の中で、レーザー溶接設備の導入と溶接品質管理法に関するノウハウを蓄積しており、我が国が短期間で追いつくのは容易では無い。中空成形パネルでは、歪フリーと高強度とが大きな目玉であり、造船所で施工される接合部の歪や疲労クラックの発生は採用意義を無くす。レーザー(ハイブリッッド)溶接はこの問題を一部解決する。摩擦攪拌接合も有望であるがアルミ合金以外では未だ確立されておらず課題が残る。アルミ合金であっても曲面或いは隅肉は研究段階であって、適用範囲は限定される。無論固定専用設備が必要なので屋外での施工は事実上無理である(可搬型のFWS装置の開発は試行されている)。またレーザー溶接同様、高度な開先精度の管理も求められるので、研究課題とまでは言えないが設備投資のハードルは高い。
 これに対し、組立場所を選ばず機動的な修繕・改造にも適する代替法として、航空機・高速鉄道車両、バス車体等では機械接合の採用実績が長い。接着との併用によって信頼性を向上する事例も見られる。ボルト・リベット接合以外に、種々のはめ込み接合も実用化されている。溶接接合に比較すれば疲労強度のばらつきが大幅に改善されるので、最適設計を指向し易い。局部的に見れば重量増加となるが、防歪対策を含む全体としては軽量化に結びつく。船舶でも一部ながら客船の内装関連等で採用済実績がある。組立工数の低減及び組立場所・設備の削減効果も期待される。欧米では近年、接着を含む機械接合技術への関心が強く、信頼性確認と基準作成の為の協同研究が実施されている。また、接着を含む機械接合部に関する詳細強度解析モデル・ツール及び設計用簡易ツールの整備が推進されている。建築・土木のみならず、振動・動揺等の変動荷重が作用し人命に直結する輸送機器での採用実績が豊富なので、これら他業界との技術交流によって効率的な短期間開発が可能となり得る。高速船ではまず軽荷重で非密封境界構造を対象として検討する事が考えられる。船級規則関連ではDnV事例等、機械接合指針の整備を進める動きが見られるが、一般論に留まる傾向があり具体的な評価・施工ノウハウは独自に開発する必要性がある。
 
図−4.10 アルミ合金中空成型パネルの摩擦攪拌接合
 
図−4.11(接着+リベット)接合事例
 
図−4.12 バス車体接着併用はめ込み機械接合事例 20
 
図−4.13 はめ込み機械接合事例
 
図−4.14 ボルト併用機械接合事例
 
4.6 構造関連課題リストアップ
 以上の現状分析を踏まえると、競争力のある高速船開発に「特に」必要な構造関連研究開発(新規或いは精度向上)課題は以下に纏められる。
 
構造関連技術課題;
 
・「軽量構造モジュール」性能設計(開発)技術
全体/局部荷重−圧力推定技術(含、運動連成解析技術)、最終強度/疲労寿命/防振防
音性能/耐火性能等解析技術、判定基準設定・詳細/簡易設計ツール整備
・「軽量構造」(火災・座礁・衝突)異常時サバイバビリティー評価技術
・「軽量構造モジュール」製造技術(含、生産/供給体制)
・「軽量構造モジュール」曲げ/切断/孔明け加工技術(含、設備計画)
・「軽量構造モジュール」歪制御/矯正技術
・「軽量構造モジュール」間接合技術(接合法及び疲労強度改善策)
・「軽量構造モジュール」−既存構造間接合技術(接合法及び疲労強度改善策)
・「軽量構造モジュール」への艤装品取付技術及び設計基準
・「軽量構造モジュール」搬送/保管技術
・「軽量構造モジュール」修繕/復旧/改造技術
・「軽量構造モジュール」リサイクル技術
・異種材料間接合技術
・船体運動/構造応答モニタリング技術
・保守/点検スキーム(基準)整備
・船体運動(予測)/荷重制御(ハード・ソフト)技術
 
 高速船の就航実績増加に伴い、火災・座礁等の事故(異常事態)発生も経験されている。構造様式・材料差による耐性の定量的評価と、事故発生後の残存性(サバイバビリティー:浮力とStability)などの観点から、欧米主体で各種船型・区画配置の模索を実施すると同時に国際規則(例えばIMO HSCコード)の更新が継続されている。軽量化・高速化技術レベルを把握した上で安全性向上との現実的な妥協点を探っており、現行規則及び直近の改正規則(案)を満足するのに必要な関連先端技術の把握・所有が、国際的な競争力(差別化技術)保持に必須となっている点に、留意が必要である。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION