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6. 結論
 明らかに、業界本来の保守主義にもかかわらず、海運界は電子商取引革命を少なくとも部分的に受け入れている。受け入れたのは、効率の増進とコスト削減を達成できる可能性を認識したからである。そこでは二つの目立った趨勢が見られるようになった。すなわち a)従来の事業活動を補完するための、既存企業によるEビジネス手法の利用と b)未だに電子商取引が提供する可能性を受け入れようとしない、旧態依然たる組織に戦いを挑む、専業Eベンチャーの設立である。海運の一部の部門、特にコンテナ部門と化学品輸送は、その市場構造からして、電子商取引の可能性を採用する上で他より優れていることが判明した
 技術の進化、姿勢の変化、そしてインターネットの利用拡大とともに海運の変容は継続する。電子商取引は時間と費用の節約をもたらして、効率向上に寄与するに違いない。それがさらに、個別の海運・造船企業の今後の事業展望を改善するに違いない。
 
6.1. 主要な調査結果の要約
 本報告書における分析から、以下の点が明らかになった。
 
□ 近年、多数のオンライン・ビジネスが設立され、その意図する機能は多岐にわたっている。その機能としては各種の製品またはサービスの直接販売、データの提供、運航管理、用船業務などがある。しかし一部の企業はあまりにも手を広げすぎ、あまりにも多くの業務を手掛けたたため、いずれも成功といえるほどの結果が上がらなかった。これは、この種のベンチャーが目標、事業種目をもっと絞る必要があることを示唆している。
 
□ 電子商取引の海事部門はその発展の初期の段階で乱立の状態に陥り、多数の企業が重複して同じ役割を果たそうとした。そのため過去2年間に多数の合併、買収、破産の事例が発生したが、このプロセスはまだ続かなければならない。究極的には、取引プラットフォームの数が減少し、それぞれのプラットフォームが明確に定められた役割を果たす方が、海事産業の利益につながる。これについては海運業が提供する市場の規模が、比較的限られていることもその一因である。例えば、船主業界はわずか数百社から成るに過ぎないが、これに対して、他の業界では全体の市場が数百万、数千万のユーザーから成るところもある(例えば銀行の個人取引サービス)。
 
□ 電子商取引の形態を問わず、在来の関係ではなく電子的手段で業務を行うことによる「付加価値」が決定的に重要である。この点に関して、ポータルが情報の単なる「手形交換所」以上の役割を果たすことが不可欠といえる。効率の向上やコストの節減も促進しなければならない。
 
□ 「中立的」なサイトは、そうでないサイトよりも中長期的に生き残れる公算が高い。この中立性は海運・造船のあらゆる部門を通じて最も広くアピールする公算が高いので、多数の既存ベンチャーはその公平性を強調している。逆に、海運業界の一部の業種又は他を犠牲にして厚遇するように見られる企業は、バランスのとれた顧客層を引き付けることがそれだけむずかしい。
 
□ 従来の誤りを避けるためには、Eベンチャーにさらに多数のサプライヤーを組み込むことが必要である。この種のポータルを設立する当初のラッシュの時期には、E調達サイトのオーナーはサプライヤーを概ね無視し、結局、顧客として迎え入れられたのは少数のサプライヤーに過ぎなかった。買手となる見込みのある業種がそれほど重視されたのである。
 
□ コンテナ部門は電子商取引を極めて受け入れやすいことが判明した。恐らく現在までのところ、この点では海運の他のどの部門よりも電子商取引に向いているようである。これは複雑なロジスティック管理を必要としたコンテナ部門がすでにコンピュータに大きく依存していたことによる。42
 
□ 電子商取引採用の成功例は燃料油調達の分野において特に著しく、現在オンラインの取引量は高水準に達している。それにもかかわらず、海事電子商取引のこの部門では、2000年9月というごく近過去と比較してもなお、少数への集中が顕著である。2000年9月には6社がE燃料油供給サービスを提供していたが、今日までそのうち2社−BunkerworldとOceanConnectが生き残ったに過ぎない。
 
□ E調達の主要な効用は管理費の節減にある。舶用品をオンラインで購入する場合の割安価格よりも、この面での効用が著しい。サプライヤーとしては商業的に採算の取れる価格で機器を販売する必要があることから、これは当然の成り行きともいえる。
 
□ 一部の適用例ではE調達が成功を収めているとはいえ、あらゆる分野におけるその可能性を過大評価してはならない。電子商取引の積極採用論者でさえ、この点は認め、「E調達はある種の顧客/サプライヤー関係では役に立つが、それが唯一のソリューションではないし、恐らくあらゆる顧客/サプライヤー関係において最善のソリューションでもない」という観測を示している43
 
□ E調達にはいくつかの成功例もあるが、これと比較して「E用船」分野ではまだ開発の初期段階にとどまっている44。これは明らかに、市場に影響を及ぼす主要なブローカー会社の参加姿勢を反映していると思われる。例えば、H. ClarksonがLevelSeasに関わってはいるが、他の大手船舶ブローカー会社は一般に、ベンチャーに参加しない道を選んでいる。これはLevelSeasシステムを使用した場合に、同システムに委ねた情報の守秘について不安を抱いていることが主因となっている。
 
□ これまでに発足した各種のオンライン用船ベンチャーには、a)荷主と船主が直接交渉できるようなフォーラムを開設しようとする試みから、b)ブローカーが互いに直接取引し、情報の交換や更新を行えるような仕組みに至るまで、さまざまなものがある。
 
□ 「脱仲介化」(仲介業務のオンライン化)にはそれなりの限界があり、電子商取引でブローカーの役割がなくなるものではないということを、現在では多数の識者の見解が一致している。事実、E用船プラットフォームは、既存のブローカー業務を高度化するツールとして発展する可能性の方が大きくなっている。この種のサイト45のオーナーでさえ、ブローカー業界を疎外するわけには行かない。むしろその支援を引き付けたいと認めている46
 
□ 各種の形態のEベンチャーはそれぞれ、自社のプラットフォームヘのアクセス料金をユーザーに賦課するための最も適切な手段を決定する必要がある。 a)加入料金制か、それとも b)成約に対する手数料制かの選択は、海運業の部門毎に異なるものと思われる。
 
□ 各種の電子商取引ベンチャーの成功の証拠が積み重なれば、一部の船社に存在した、新技術採用に対するためらいはなくなるに違いない。
 
□ 海澤業界内部の人員の一般的コンピユーター利用率が向上すれば、電子商取引アプリケーションの利用はさらに増加するものと期待できる。
 
□ 海運業界が電子商取引を利用しようとする意欲は、フォーマットの標準化進展とともに高め、これは最初にEソリューションを実施に移す際に企業が遭遇する混乱等の恐れなど、緩和に役立つであろう。また使用システムが異なる企業間の対話促進にも役立つものと思われる。
 
□新規ユーザーが自社の既存システムと新たに利用可能になった技術とを統合させるためのアプリケーションは、最も成功の公算が高い。これは初期コストが低いことと、社員がすでに慣れ親しんでいる既存システムを放棄する必要がないためである。
 

42
海事電子商取引協会事務局のPhilip Van Bergen氏は次のように指摘している。「最も進んでいるのは明らかにコンテナ船オペレーターである。すでに多年にわたってメーンフレームを使用しているし、またコンピューター・リテラシーにしても長い実績がある。」しかしその一方で次のような観測も示している。「コンテナ船社がやっていることで、厳密に『電子商取引』と定義できることはあまりない。コンテナ船社がこの技術を利用するのは主としてロジスティックスや資産管理だ」(出所:“Fairplay,”7 March 2002)。
43
出所:Mr Davis Maton, Sigma Coatings
44
2000年のある段階では、35社前後のE用船ベンチャーが存在していたようだが、倒産、合併、買収の結果、その数は大幅に減少している。
45
OOCLのC.C Tung氏は、電子商取引一般について次のように指摘している。「企業にとっての効用は技術自体から生じるものではなく、すでに専門知識、経験が確立している分野へその技術を応用することから生じる。」(出所:“Digital Shipbroking London”conference, October 2001におけるプレゼンテーション)
46
これらのポータルが提供する技術は、ブローカー会社が受け取る膨大な量の市場情報を管理するための、極めて貴重な手段となり得る。







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