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概要その1:要旨
1. 「電子商取引」とは事業活動の遂行に電子的手段を利用することと定義され、最も広義には電話、ファックス、Eメールの使用も含まれる。しかし、その一方で、第三者が事業活動を行える「バーチャル」市場の創設など、一層高度な概念も含まれる。
2. 電子商取引が発達してEメール、各企業のウェブ・サイト、オンラインによる製品カタログの伝送、インターネット経由の製品やサービスの発注、さらにはデータのダウンロードなども行われるようになった。
3. 電子商取引の主要な利点としては、a)情報伝達の高速化、b)アクセスし得るマーケットの拡大、c)コスト節減、d)対応の高速化、それによる顧客サービス向上などが挙げられる。
4. 電子商取引の有効活用により、企業はi)従来の事業手法ですでに行っている顧客との対話を一層緊密化し、ii)インターネットを利用した新商品を開発し、かつiii)一層広い範囲の見込客にアクセスすることによって既存の市場を拡大することができる。
5. 将来において電子商取引は、既存の市場を拡大して一層広範囲の見込客取込みを狙った新商品の開発に結び付くと共に、新たな事業手法と見込客との関係緊密化に役立つに違いない。
6. 情報技術(IT)は明らかに世界規模で急速な進歩を遂げている。海運と貿易はこの変化の最前線にあり、特に海運は世界貿易の拡大において中心的な要素である。
7. 海運業における電子商取引の根本は、それが各船社の消費する資源量の削減に役立ち、したがってコスト削減につながるという前提にある。
8. 電子商取引は組織の大小を問わず、従来不可能であった節約を可能にするものであり、それはオンラインによる事業活動が、地理的あるいは言語的障壁にあまり妨げられないためである。
9. 電子ベンチャーを成功させるには様々な必須の要因がある。そのプラットフォームが容量、アクセス可能性の点で信頼度が高いこと、操作の容易性、システムのセキュリティーなどが挙げられる。流動性(すなわち営利事業として成り立つだけの[取引量])を確保することが最も重要である。電子商取引という概念を業界が受け入れるということも決定的な要件であり、さらにシステムを利用する要員を適切に教育、訓練することも欠かせない。
10. 電子商取引を基盤とする組織は、その本質からして、システムの故障やコンピューター「ハッカー」、すなわち企業のコンピューター・システム保護のためのセキュリティー手段をかいくぐって侵入してくる第3者に対して脆弱である。この問題は、企業にシステムのセキュリティー、保全、信頼性の向上を要求することになる。
11. 電子商取引はさらに、従来のビジネス手法のみでは不可能であった、時間と費用の効率化をもたらす付加価値を提供しなければならない。
12. 今日までの経験からして、海運業のある種の側面は他の側面と比較して明らかに電子商取引を利用しやすく、従来のビシネス手法に代えてオンライン方式を採用しやすいものである。これは新しいビジネス手法に対する関係先の受容性などの要因にもよるが、その採用により期待できる利益の大小にも依存する。
13. 電子商取引の受容は、海運の他のどの部門よりもコンテナ船部門において顕著であるが、これはコンテナ輸送の高度にロジスティックス集約的性格と、コンテナ船社が早期にコンピューターを導入したという事情を反映している。
14. 化学製品の輸送においても、海事産業の他の大半の部門と比較して、Eビジネスの手法が大幅に採用されている。この種の貨物の輸送では、やはりロジスティックス集約性が相対的に高いことの反映である。
15. 舶用燃料油のオンライン調達が、海事産業におけるEビジネスで最初に採算の取れるものとなった。取引量は急速に拡大し、2001年8月にはOceanConnect社だけで2百万トンを超える燃料油をオンラインで販売するに至ったと報じられている。
16. 既存の造船関連各種取引ポータルサイトはいずれも、ベスト・プラクティスの採用と造船関連各種業界の協力強化を通じて、効率向上を目指している。
17. この種の取引プラットフォーム利用による効率向上は、1隻の船を建造するのに必要とされる期間を1−2ヵ月短縮する効果をもたらすという触込みであるが、建造船種、その技術的難易度、艤装に使用される機器、造船所自体の能力など、建造期間を左右する要素は様々であるので、この主張には異論の余地が少なくない。
18. このようなプラットフォームを利用してコスト削減が実現したとしても、それは資機材の調達費用で大幅な節約が生じるというよりも、サイト効率の向上と運営手順の合理化による効果である可能性が高い。すなわち、ポータル経由の取引であっても、機器メーカーとしては採算の取れる価格で売らなければならないからである。
19. 初期の海運関連Eベンチャーが破綻した例が多いことについては、様々な要因が挙げられる。一例として、一部のサイト・オーナーは、既存の市場プレイヤーの事業運営をもっと効果的にできるツールを提供するのでなく、自らが既成勢力に取って代わることができると思い込む過ちを犯したのである。
20. 2000年から2001年にかけて破綻したEベンチャーの中には、サイトの機能性あるいはコンテンツが不備な上に、採算を確保するのに必要な「取引量」を確保できないために行き詰まったところもある。
21. オンライン取引のセキュリティーに関する不安に加えて、そもそも新技術を信じて貰えないために、業界になかなか受け入れられないことも、一部の海事Eビジネスにとって克服できない障壁となった。
22. 最近の兆候からすると、生き残っているEベンチャーは、自らが果たすべき役割と、今後のターゲット市場に対する認識を深めているようである。今や中立性(すなわち海運界のあらゆる関係者の利益に合致する能力)こそ成功の鍵であると見られている。
 
概要その2:今後の展望
海運・造船における電子商取引の将来の展望は、以下のような要因に掛かっている。
 
1. 海事Eビジネス業界は市場発展の初期の段階において「人口過剰」に陥ったが、現在では統合が進んでいる−このプロセスは今後も継続しなければならない。
 
2. 長期的視点から見ても、海運業の一部の部門では、市場仲介者の排除(「脱仲介化」)の余地がどの程度あるのか、その判断はむずかしい。
 
3. 初期の海事電子商取引ベンチャーが多数破綻に陥ったことから信用が失墜したにもかかわらず、海事産業のオンライン・ビジネス志向は高まっており、今後もその趨勢は続くことが見込まれる。Eソリューションの提供者が、各社の既存の社内システムに全面的に取って代わるのではなく、その能力を高める役割を自覚すれば、このプロセスは促進されることになる。
 
4. 共通のフォーマットを提供するアプリケーションは、異なったシステムを使用している企業間の対話を促進する。標準化を二層進める必要性は今なお高く、これはMeCAが目指している目標である。
 
5. 新規ユーザーが利用可能な新技術を自社の既存システムと統合することができれば、社内スタッフにとって新技術は一層受け入れやすくなり、また当初の設置費用の低減にもつながる。







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