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1. はじめに
 この節では、2001年半ばからの船舶解撤の再活発化につき、対象となっている主要な船種・船型および地理的配分を検討して、各種の商船の解撤に見られた主要な趨勢を明らかにする。近年の解撤量についてさらに詳細な分析を添付資料Aに示す。
 
1.1 1990−2002年の船舶解撤量
 
 下表が示すように、商船の解撤は1990年以来、大きく変動する傾向が見られ、その年間量は同年のわずか2.6mdwtから1999年の31.2mdwtに至るまで、山と谷の差が著しい。4解撤量のこの乱高下は主として各船種の市況条件の変化によるものである。一般に運賃市況、運航の収益が軟化すると解撤量が増加し、船腹需要、運航収入が堅調になると、1995年に見られたように、解撤は急速かつ大幅に減少する。
 
解撤量の船種別内訳、1990−2002年
  バルカー/鉱石船 タンカー/兼用船 その他   総計
mdwt シェア(%) mdwt シェア(%) mdwt シェア(%) mdwt シェア(%)
1990 0.8 29.0 0.8 30.2 1.1 40.8 2.6 100
1991 1.0 20.2 2.8 54.4 1.3 25.4 5.1 100
1992 3.1 18.7 11.8 71.3 1.7 9.9 16.6 100
1993 2.9 14.2 15.4 76.3 1.9 9.5 20.1 100
1994 4.5 18.8 17.5 72.5 2.1 8.7 24.1 100
1995 1.5 9.8 12.5 79.7 1.7 10.5 15.7 100
1996 7.0 38.0 9.0 49.0 2.4 13 18.4 100
1997 6.6 42.2 5.2 33.3 3.9 24.5 15.7 100
1998 11.7 48.7 7.6 31.7 4.7 19.7 24 100
1999 9.2 29.3 17.8 56.8 4.3 13.9 31.2 100
2000 1.5 7.3 15.5 76.8 3.2 16 20.2 100
2001 7.2 28.5 14.2 56.1 3.9 15.5 25.4 100
2002* 3.8 17.1 15.9 71.3 2.6 11.6 22.2 100
単位百万 dwt 
10,000dwt未満の船舶を含む
*1−11月の数値。解撤ヤード到着の報告が遅れた船舶があれば上記の数値は膨らむ可能性がある。
出所:Informa Ltd, LR-Fairplay, SSY.
 
 解撤量がこのように乱高下する傾向は、解撤が単に船齢の関数ではないことを示している。しかし船齢が高くなれば、市況条件が悪化したときに供給(売船)側の反応が前よりも迅速になるということはいえる。
 
 世界の解撤量は1998−99年に上昇した後、2000年に著しく落ち込み、2001年も春頃まで解撤市場は閑散としていた。しかし5−6月頃から市場は活気を取り戻し、解撤ヤードへの売船は急増した。SSY's Ship Sale & Purchase(S&P)Dept提供の数値によれば、スクラップ売船量は1−4月のわずか0.6mdwtから5−8月には9.5mdwtに上昇し、10−12月には13.2mdwtまで急騰した。この売船の加速は2002年にも衰えることなく、12月初頭の動向から見ると、通年の数値は過去3年間で最高の水準に達するものと思われる。1−11月の合計売船量(全船種を含む)はdwtベースで2001年同期を4.9%上回り、28.2mdwtに達した。
 
船種別解撤量:前ページの表から明らかなように、1980年代末からの解撤量では、油送船(すなわちタンカーと兼用船)が大宗を占めている。このパターンは2001年第2四半期(2q01)以降明らかになった解撤の活発化の過程でも継続している。SSY's Ship Sale & Purchase Dept提供のデータ(添付資料Aに示す)から見ると、2001年初では緩慢なスタートであったものが、年末までにはこの船種が156隻、計17.1mdwtもスクラップ売船されたのである。52002年1−11月の報告された売船実績に基づけば、油送船の解撤はさらに加速する模様で、そのまま推移すれば通年の解撤量は1999年の19.7mdwtを上回って、1980年代半ば以降で最高の年間数値に達する見込みである。これら売却された油送船の大半はタンカーであるが、兼用船船腹の累進的侵食はさらに進行し、2001年初以降23隻がスクラップ売船されている。6第3章に油送船スクラップ売船のさらに詳細な船型別分析を示す。
 
 これに対してドライバルクキャリア(鉱石船を含む)のスクラップ売船は1990年後半には比較的高水準であったが、この船種の解撤量は2000年にはそれまでの5年間の最低である、わずか1.5mdwtに落ち込んだ。2001年には、船腹の増大と貨物需要の緩慢な伸びが重なって運賃が下落したため、スクラップ売船は一部で反騰した。しかし2002年に用船市場が持ち直すと、バルクキャリアの解撤は全般的に鈍化した。現時点までの2002年の数値から見ると、この船種の売船は2001年の7.2mdwtから5.3mdwt前後まで落ち込んでいて、売船の減少はどの船型にも見られる。ただし、この表面的な「減少」は、本章で後述するような理由から、今年の中国におけるバルクキャリアとタンカーの解撤実績が過少に報告されていることが一部影響している可能性がある。
 
 その他の船種の解撤もやはり2001年前半から伸びているが、その大きな原因はコンテナ船とLPG船の処分が増加したことにある。前者の解撤は、船腹の著しい純増と平均用船料の急落により、2001年には2倍を上回る増加が報告され、2002年も現時点までの数値が既に2001年の通年値を上回っている。正に今年のコンテナ船解撤量は記録的水準に達するものと思われる。そうなれば、54隻8万TEU相当が解撤された1998年の記録を破ることになる。一方LPG船についてみると、2002年には既に20隻66万m3相当が解撤され、年度の途中で年間記録を更新している。
 
主要解撤国別解撤量:2q01以降の解撤量増加分は、そのかなりの部分がバングラデシュのヤードで解撤された。同国における商船解撤量は、2000年の4.1mdwtから翌年には8.7mdwtと2倍以上の伸びを示した。これはバングラデシュの解撤ヤードが1999年に達成した従来の最高記録にほぼ等しい。その結果バングラデシュはタンカー解撤で世界最大の中心地としての地歩を確立した。さらに、同国で解撤されたタンカー船腹の大半はVL/ULCCである。72002年初以降33隻のVL/ULCCがスクラップ売船されたが、うち23隻はバングラデシュの解撤ヤード向けであった。
 
解撤国別船舶解撤実績1990−2002年
  インド 中国 バングラデシュ パキスタン その他 合計
1990 1.9 0.0 0.4 0.1 0.3 2.6
1991 1.3 0.7 0.8 1.3 1 5.1
1992 3.6 7.1 2.5 2.2 1.2 16.6
1993 3.3 9.5 2.6 2 2.7 20.1
1994 6.0 3.1 3.9 5.6 5.5 24.1
1995 5.9 0.8 4.8 3.3 0.9 15.7
1996 8.5 0.2 5 4.2 0.6 18.4
1997 8.0 0.1 4.2 1.8 1.7 15.7
1998 9.8 0.9 5.9 4.5 2.8 24
1999 11.6 4.4 8.7 4.8 1.8 31.2
2000 9.9 4.7 4.1 2 0.5 20.2
2001 7.1 3.8 8.7 3.6 2.3 25.4
2002* 9.8 2.4 7.5 2.2 0.4 22.2
単位百万 dwt 
10,000dwt未満の船舶を含む
*1−11月の数値。解撤ヤード到着の報告が遅れた船舶があれば上記の数値は膨らむ可能性がある。
出所:Informa Ltd, LR-Fairplay, SSY.
 
 大型タンカーの解撤がバングラデシュに集中した結果、2001年に同国はインドを抜いて世界最大の船舶解撤国となった。インドのタンカー解撤量が2000年に比べて大きく落ち込んだことから、2001年には世界的に解撤量が増加したにもかかわらず、同国における解撤量が過去6年間で最低水準に落ち込んだ。インドはそれまで油送船の解撤では一大中心地であったが、解撤前のガスフリーを義務づけた政府の新措置により、同国におけるタンカー解撤が著しく減少したのである。この新たな法的要件は2001年に緩和され、その後インドにおけるタンカー解撤は目立った増加を示した。実に2002年には、インドでは油送船の解撤が回復したことに加えて、バルクキャリアも引き続き大量に解撤されたのである。
 
 以上の推移からして、今年の最終データが出てみれば、インドは世界の船舶解撤業界における以前の主導的地位を回復するものと思われる。それは1994年以来インドが占めてきた地位である。ガスフリー規制の緩和以外にも、最近のインドにおける解撤の再活性化に寄与した要因がもう一つある。それはまもなく、ドックを備えた新解撤ヤードがピパヴァヴで稼動する見込みで、この設備は公称年間処理能力3mdwt、報道によればVLCCを毎年12隻解撤することができるものである。このような設備が建設されたことは、老朽船解撤を安全かつクリーンな方法で実施するという課題に取り組むインドの意気込みを示すものである。インドでもまだ解撤事業の一部は海浜(干潟)で実施しているが、数社は乾ドック内や岸壁沿いで作業を行っている。
 
 以上の他に、グジャラト海事局は、管轄地域の解撤事業改革に向けた新ガイドラインを導入する方針を発表した。これについては第4章にさらに詳説する。
 
 中国では既に、解撤能力全体に対してドックや岸壁で昇降機器を利用し、比較的機械化が進んだ解撤作業の比率が高い。これに対して亜大陸では解撤事業における資本集約化の水準は一般に遥かに低く、単純に船を浅瀬に乗り上げて行う、素朴な労働集約的作業が大きな比重を占めている。
 
 中国の解撤量は1990年代半ばには非常に低い水準に落ち込んだが、2001年には3.8mdwtと世界第3位に復活した。8これは2000年の水準より低く、2002年も現在までの数値では更なる低下が見込まれる。しかしながらこの見掛けの趨勢は若干誤解を招きやすい。そこには中国政府が2001年4月に制定し、2002年1月1日から施行した新立法の影響がある。この新法は中国に本拠を置く企業が所有する外航タンカーについては船齢31年、バルクキャリアについては30年で解撤を義務づけたものである。これらの船齢に達した船舶はもはや登録も、船級や運航免許の取得もできなくなると伝えられている。これにより中国所有船の国内解撤量が増加したものと思われる。これらの解撤処分がすべて国際市場に報告されるとは限らないので、今年の中国における船舶解撤に関する公表数値は実勢を下回る公算が高い。
 
 中国における2002年の解撤データが過少評価と考えられる理由は他にも存在する。すなわちインドと同様、中国においても2001年に解撤能力が増大したため、解撤量も減少より増加の方が可能性が高いということである。この解撤能力増大は、上海の近く揚子江岸に開設された新設備による。その年間処理能力は3mdwt、VLCCの解撤が可能で、ヨーロッパ船主P&O Nedlloydが設備を含め環境保全の支援を行っている。安全で、環境基準に従った解撤が行われるように、同社が技術指導をしている。
 
 船舶解撤が現在活況を呈している中で、パキスタンもVL/ULCCに至るまで各種のタンカーを引き続き処理して、世界第4位の船舶解撤の中心としてその地位を維持した。しかし解撤向けに流入する大型タンカーの隻数は近年減少し、パキスタンは亜大陸の他の解撤ヤードとの競争力維持に腐心している。92002年の初め頃に2隻のULCCを取得したが、その後のスクラップ用買船は殆ど全面的にタンカー以外の船種に限られ、これら乾貨船の獲得でさえ、近年の水準よりかなり低下している。
 
スクラップ船価添付資料Bの数値が示すように、タンカー、バルクキャリアともスクラップ船価は2001年半ば以降も以前と同様に引き続き変動した。10タンカーは一般に他の船種より平均価格が高いが、それはa)再生可能な鋼板の歩留まりが平均して高いことと、b)内部構造が複雑な他の船種に比べて解撤作業が容易なためである。価格は2001年央の$180/lwt前後(基準はアジアのヤードの相場)からわずか6ヵ月後には$135に下落し、2002年にも部分的な回復を見たに過ぎない。平均してタンカーのスクラップ価格は2002年の現時点までで前年同期比約10−12%低下、バルクキャリアについても同様の下落が見られる。
 

4
この点は添付資料Aに掲げる各種の図表でさらに詳しく示されている。
5
添付資料A中の表「年次別船腹解撤量1990−2002年」参照(備考:20,000dwt未満の船舶はその多数が船主の本拠国内で解撤されるので、報告された売船量に関するSSYの数値は一般にこの船型を除外したものである。従ってこの船型の売船は、その多数が国際市場では報告されない。)
6
うち2001年の売船は9隻、残りの12隻は2002年に売却された。2002年分は添付資料Aにその一覧がある(表「兼用船スクラップ売船、2002年」参照)。
7
各国での解撤量の船型・船種別構成についてさらに詳しくは添付資料A参照。該当する表のタイトルはそれぞれ「船舶解撤:解撤国別・船種別、1985−2002年」「バルク運搬船解撤船種別・解撤国別」および「コンテナ船解撤、船型別、2002年12月現在」。
8
1995−98年の超低水準は、中国国内の鋼材需要の低下と、スクラップ向け輸入船に政府が3−6%の輸入税と17%の付加価値税を課したためである。
9
これはパキスタン当局が解撤会社に高率の租税と関税を課したためである。10年以上にわたって、同国政府は船舶解撤の振興に意欲を示さなかった。
10
添付資料B中の「解撤価額−月末現在」と付随するタンカー、バルクキャリアの月間・年間・平均スクラップ価格のグラフ参照。







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