日本財団 図書館


1.2 まとめ
 
 以上からして、2001年半ば以降の各船種の解撤について、主に以下のような傾向が明白である。
 
・平均運賃収入が引き続き大きく落ち込んだことによる、油送船解撤の急増:中東湾岸/日本トレードのVLCCでは、すでに4q00の日率$76,000から2q01には$33,500と下落していた。しかし2001年後半から2002年前半にかけてさらに急落が続き、3q02の平均レートは日建わずか$9,500に過ぎない。タンカー解撤がいかに運賃市況に敏感であるかを示すもう一つの好例として、2002年11月に見られたタンカー運賃回復以降、スクラップ売船されたVLCCはわずか1隻に過ぎず、しかもこの1隻さえ損傷を受けたため廃棄されたのである。
 
・船齢の高い、シングルハルのVLCCおよびULCCの大量解撤:両者合せて2001年6月末以降にスクラップ売船されたタンカーの60%を超えている。
 
・バルクキャリアの一部の船型(主にハンディサイズ、さらにやや少数ながらパナマックス)におけるスクラップ売船増大:しかし2002年も月が進み運賃市況が堅調に向かうと共に、ドライバルクキャリアのスクラップ売船は若干鈍化した。
 
・油送船、バルクキャリア以外の船種でも解撤が若干増加:しかしdwtベースでは、これはまだ全体的な解撤量のうち限定的なシェアを占めるに過ぎない。
 
・インド亜大陸および中国の解撤事業者に対する大量売却の継続:逆にいえば、a)アジアにおける主要な解撤中心地および/またはb)主要工業国以外での解撤は微々たる量に過ぎなかったということになる。11これはバーゼル条約の規定や、有害廃棄物の発展途上国への輸出を阻止しようとする環境保護団体の努力もさしたる影響を与えなかったということになる。12同条約は135カ国と欧州連合(EU)が批准した国際協定である。(米国を例外として大半の主要工業国はその締約国である。13)1992年に発効し、危険物の国際的な移動がもたらす問題への対処を内容としている。その規定は特に有害物を締約国(主として工業国)が発展途上国へ輸出すること禁止している。しかし解釈の問題が存在し、例えばEUは欧州理事会規則259/93によりバーゼル条約の規定を加盟諸国に国内法制化させたが、14同規則の付属文書では、その適用外とされる廃棄物を定義し、それには「解撤される船舶」を明示的に含めている。15これに対してグリーンピース・インターナショナルは、発展途上国へのスクラップ船の売却は規則の抜け穴であって、その例外規定撤廃を主張している。
 
・インドにおける油送船解撤のめざましい復活:2001年には超低水準に落ち込んでいたが、現在の趨勢では、2002年の最終数値が1980年代のどの年をも上回るものと見込まれる。これはインド当局が1996年に設けた、解撤予定船の引渡し前の全面ガスフリーという要件を緩和したためである。
 
・ドックではなく海浜における解撤が引き続き広く実施されていること(これは周辺環境の汚染を大幅に悪化させる):アジアにおけるこの一般的慣行に対する主要な例外は中国である。中国は、環境意識の高い方法で所有船の処分を希望する船主から受注することを解撤事業者に奨励している。16ただしインドでも近くドックを利用する解撤設備が稼動する見込みである。
 
・主要工業国の船主の間で、安全な環境にやさしい船舶リサイクルのために最適の設備を具えた解撤事業者に老朽船を売却しようとする傾向が特に目立っているということはない。17それどころか、通年データが出てくれば、解撤作業が未だに主として単純に海浜で行われているインド亜大陸の解撤中心地へ売却されるタンカーの数が、2002年には増大したことが判明するものと思われる。
 
・以上の一般的趨勢にもかかわらず、一部の主要解撤中心地で、現役を退いた船舶の解撤について、現行より安全で汚染の少ない方法を採用する必要性を予期しているという兆しも若干見られる。
 

11
ヨーロッパで唯一、船舶解撤業界に存在を示しているのはトルコであるが、このトルコでさえ扱う対象はほぼ全面的に小型船である。大型船の解撤は殆ど全部がスエズより東の国で行われ、両アメリカ大陸、アフリカ、大半の欧州諸国では、取り上げるほどの解撤活動はない。
12
船舶に使用されている主要な危険物はアスベスト、重金属、炭化水素およびオゾン破壊物質である。将来安全な代替品が開発されればこれらの物質を船舶建造に使用することは削減可能になるが、しかし解撤される船舶の大半に危険物がなくなるのは遠い先のことであろう。
13
しかし米国の毒物管理法は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)類の国外輸出を禁じている。PCB類は廃船にかなりの量が含まれていることが多いので、このような米国所有の船舶は海外での解撤が許されないということになる。
14
これは「欧州共同体域内、向けおよび発の廃棄物の監督と規制に関する1993年2月1日付理事会規則第259/93/EEC」である。この規則はバーゼル条約の規定をEU域内にて施行するためのもので、廃棄物の3範疇を規定している。同規則付属文書IIは人間の健康または環境に脅威を及ぼさない廃棄物の「緑リスト」、リスクが限定された普通の廃棄物の「黄リスト」、さらに有害廃棄物の「赤リスト」を定めている。緑リストの物質は、受入体制があれば非OECD諸国に輸出することができる。当然のことながら、解撤国の政府は、それが雇用と税収を生むものであれば、解撤向け船舶を含めこの種の廃棄物を容易に受け入れがちである。備考:「緑リスト」の廃棄物の輸出を認めることもさることながら、この規則は仕向地における当該物質の処理について何も条件を課していない。これはリサイクル産業にとって障害を設けないようにとの趣旨ではあるが、同時にこの種の船舶を受け入れる解撤ヤードについて環境保護あるいは労働者の安全について何らの「最低基準」も設けないということでもある。
15
逆に、カナダのような国では、この条約が船舶自体だけでなく、その構造中に使用されている材料や、船上にある全ての物質にも該当するものと考えている。
16
中国の解撤事業者がドック内や岸壁際で作業を実施しようとする方向にもかかわらず、グリーンピースは中国が求められる条件を満たしていないと主張する。「グリーンピースでは中国の解撤ヤード数ヵ所を視察したが、実際のところ、条件はアジア全域の大半の解撤ヤードと同様であることが判明した。同じ毒物あるいは危険物を、労働者は適切な防護措置なしに扱っている」とグリーンピースは述べている。また「船舶から流出する毒物でクリーンな川が汚染されている」とも主張している。(出所:“Facing the Deadlines”−ロッテルダムにおけるApril 2002年4月のIntertankoの行事で発表されたペーパー)すなわち環境保護団体が船舶リサイクルの実施方法を改革させる国際協定の実現に成功すれば、それはアジアの他の主要船舶解撤中心地と同様、中国の解撤ヤードにも影響を及ぼすことになる。
17
それでも艦艇については1998年以降、米国は米海軍とMarAdの艦船をアジアの解撤ヤードに売却することを禁止した。安全、無公害な方法で解撤ができないという判断からである。しかし2002年12月初旬に、米国連邦議会は、米国予備役国防艦隊(NDRF)に属するMarAd運航艦船4隻を外国の解撤ヤードに売却することを認めたパイロット・プロジェクトへの支出を決定した。これはただちに環境団体の目にとまり、これが前例になれば大規模な類似の取引に発展する恐れがあると言う批判を呼んだ。現在NDRFには処分待ちといわれる艦船が既に100隻超も存在する。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION