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5.2 特定の船種の需要に影響を及ぼす要因
 クロアチア造船業が近年特化の傾向を強めている船種に関して、以下のことがあげられる。
 
◆ パナマックス以下のタンカー(原油及び製品双方)について、大量の代替需要が見込まれる。これは、現下の極めてタイトな需給関係、IMO及びOPA90によるダブルハル規制の期限が差し迫っていること、現在の手持工事隻数が限られていることが原因となっている。予想されているハンディマックス及びハンディサイズの新造船需要の伸びは、ハンディサイズタンカー船腹の船齢構成が老齢化していること注53 及び黒もの石油製品の輸送における近代的な船舶の用船需要の最近における著しい高まりによるものである。これは、1999年12月にフランス大西洋岸で発生したエリカの油濁事故への直接の反応である。老齢船が燃料油(重油)輸送に用いられる傾向がある(このため、事故の危険性も高い)との認識が広まったため、用船者はより新しい船舶を好むようになったが、最近建造された船舶でタンク内塗装をしていない船舶は非常に少ない。このため、タンク内塗装を有する新しいダブルハルタンカーが大量に燃料油輸送に投入されることとなっており、小型パナマックスによる黒もの石油製品のスポット輸送におけるこうした高仕様船舶の割合は、1999年の69%から2000年には82%に増加している。こうした中には35,000DWTの新造船を白ものではなく黒もの石油製品輸送に直接投入する事例も出ている。注54
 
◆ ダブルハル規制により、ここ2、3年にパナマックス以下の老齢タンカーの大量のスクラップが予想されている。これが、この市場分野の好調な市況とあいまって、タンク内塗装を有するタンカー、有しないタンカー双方の代替需要を創出することとなるであろう。更に、アジアから大西洋向けなどの長距離輸送の継続的な増大を含め、予想される石油製品・ばら積ケミカルの海上輸送の伸びが、この市場分野の新造船需要を押し上げることとなろう。2001年〜2 006年に発注されるハンディサイズ・ハンディマックスタンカーの隻数は、現存船腹の維持に必要な隻数を容易に超えることとなろう。一方、白ものタンカーの黒もの輸送への投入は、白ものタンカー市場の船腹需給バランスを引き締め、ハンディサイズ・ハンディマックスのプロダクトタンカーの運賃上昇に結びついている。
 
 ハンディサイズ(27,000-37,999DWT)及びハンディマックス(38,000-49,999DWT)タンカーの現存船腹の船齢構成によれば、2001年〜2006年までの間に以下の隻数のシングルハルタンカーが25歳の船齢制限に達することとなる。
  ハンディサイズ ハンディマックス  
2001年 40 13  
2002年 28 3  
2003年 11 7  
2004年 11 3  
2005年 13 4  
2006年 27 13  
130 43  
 この他に、既に25歳以上の船齢に達している船舶が存在している。(ハンディサイズ91隻、ハンディマックス25隻)従って、2006年までにハンディサイズの船腹の49%が、また、ハンディマックス船腹では16%の船舶が、ダブルハル規制により使用できなくなる。
 
 論理的には、クロアチア造船業は、こうした増大するパナマックス以下のタンカーの建造に最適である。第4章で述べたように、クロアチア造船業は、この市場分野で営業を続けている。
 
◆ 最近ではニッチマーケットとなっているパナマックスタンカー市場では、用船需要の伸びが見られるが、新船の供給は限られており、エリカ号事故以降この種の船舶の運賃は大きく増大している。現存船腹の大部分は1980年以前に建造された船舶で、ダブルハル規制による余命は限られたものとなっており、大幅な新造船需要が期待できる。3 Maj及びUljanikでは、このパナマックスタンカーの最近の建造実績を有している。注55
 
◆ ダブルハル規制の適用で、期近の日韓の船台が埋まるため、クロアチア造船業にアフラマックス及びスエズマックスタンカー受注の可能性がでてき得る。しかしながら長期的に見れば、この市場分野で競争力を維持するのは困難であろう。注56 従って、クロアチアにおけるアフラマックス及びスエズマックスタンカーの建造の増大がこの十年の後半も持続するとは見られない。
 
◆ ケミカルタンカーの現存船腹は、20歳以上の船舶が多くの割合を占めている。注57 老齢ケミカルタンカーのフェーズアウトを促進する新たな規制は存在しないが、高い燃料油価格、いくつかのルートで見られる大型の最適船型への移行といった市場要因が、老齢タンカーの解撤の増加をもたらし、ケミカル輸送の増大とあいまって、クロアチアで盛んに建造されているハンディマックスケミカルタンカーの発注の増大を生むこととなろう。
 
◆ 老朽化により解撤される老齢の主としてハンディサイズバルカーの代替需要により、ハンディマックスバルカーの発注が続くと予想される。解撤及び新造船発注の度合いはパナマックス以下の船型の運賃市場及び燃料油価格の状況に左右されることとなろう。燃料油価格強含みの傾向があれば、全ての船種で燃費の悪い老齢船の解撤の傾向が強まることとなる。いくつかのマイナーバルク貨物の海上荷動きの継続的な伸びも、用船料の大幅な増大をもたらし、ハンディサイズバルカーの発注意欲を増大させるであろう。しかしながらこの船型の極東の低船価のために、この市場分野がクロアチア造船業にとっての重要な市場となるとは見られない。いずれにせよ、こうした需要量の大きい市場ではクロアチア造船業の新造船による影響は限られている。
 
◆ 陸上輸送よりも車両の海上輸送の増大をもたらす環境条件(渋滞の緩和など)が整えば、欧州域内のro-ro船、ro-paxの建造需要は、伸びるであろう。バルチック海、地中海のレジャーサービス向けにro-paxの需要も、伸びるであろう。これらの船種については、競争相手はイタリア及びスペインとなると考えられる。
 
◆ 石油価格が堅調な間はより急速なペースで進むと見られる海洋石油・ガス鉱床の継続的な開発により、在来型のプラットフォーム・リグやFPSO向けの関連機器の発注が増大するであろう。もし、クロアチア造船業がこの分野で成功すれば、既にこの分野で活発に事業を行っているスペインや北欧の造船所は厳しい競争に直面することとなろう。








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