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3.3 海上油汚染監視(4)(5)(6)(7)
 衛星による海洋監視のもう一つの好例は海面における油垂れ流し及び流出事故の監視である。海上油汚染は統計的に見ると流出事故より不法な垂れ流しの方が多く、北海油田を有するノルウェーやオイルタンカーが頻繁に通過するマラッカ海峡など東南アジア海域において重大な問題となりつつある。現実には油汚染を常時監視し取締まるだけの技術的及び体制的な実力を持つノルウェーなどでは不法船舶取締まりの効果を挙げているが、これらを有しない東南アジア海域沿岸国では被害評価すら定まらず、海洋汚染がなされるがままに放置されている状況にある。
 衛星による海上油汚染検出は実績から周波数Cバンド(5.3ギガヘルツ帯、波長約5cm)の合成開口レーダが多用される。油の不法垂れ流しは、船倉底に溜まった油を海水で洗い流し、そのまま夜間など人目につかない時間帯に投棄することから、監視には昼夜・全天候性の合成開口レーダが必須となる。合成開口レーダで海面を見ると、特に電波の入射角度が小さい(海面に対しより垂直に近い状態)場合は前出の図3(b)のように海面は波浪による散乱で白く輝いて見える。海面が油膜で覆われると油の表面張力でその海面部分が幾分滑らかとなり、電波が鏡面反射に近い状態となって後方散乱が減少するため、同図に示すように油流出個所は暗い帯状に観測される。
 図3はタンカー事故による大量の油流出例であったが、欧州での海上油監視サービスによる報告例を図9に示す(3)(4)。これによると、バルト海で1999年1月、レーダーサット衛星(Cバンド)によって22km×1.5kmの範囲にわたって油流出が観測され、オランダ船舶がサンプルした流出油の化学的特徴がMissapeia号のビルジ油(船倉底に溜まった油)のサンプルと一致したとのことである。
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図9 海上不法油流出検出例(白矢印部が流出油)
 ノルウェーでは図10に示す海域を日々合成開口レーダ衛星で監視している。衛星画像は北緯69.5度の北極圏に位置するトロムソ市で受信・処理・解析し、油流出海域など結果画像をノルウェー通信衛星でオスロ市近郊にある海上汚染監視機関に中継する。連絡を受けたコーストガードが合成開口レーダを装備した航空機で現場海域に出動し取締まる仕組みになっている。この例での衛星対航空機コスト比較は、0.07対0.1ユーロ/km2で、衛星は広域監視に加えて経済的でもあることを示している。
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図10 ノルウェー北海油田海域監視
 同様な例はノルウェーの他カナダでも前出の不法漁労監視と併行して運用されており、自国の海洋資源の保全に大きく貢献している。この例に見るように海上油汚染監視は現状技術で既に実用的なレベルに達しており、タンカー往来の激しい東南アジア海域のみならず経済活動が行われている他の多くの沿岸諸国での海洋環境・海洋資源の保護に一層の活用が望まれる。
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図11 ノルウェー海洋油汚染監視システム








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