日本財団 図書館


3.2 船舶探知
 衛星の広域性を利用して、海洋監視、とりわけ船舶の動静監視は安全保障上の利用のみならず漁船の不法漁業取締まり管理の目的で古くから研究され、現在はノルウェー、カナダ等で実利用されているものである(1)(2)
 前出の図4の例に見るように、光学画像では船体形状などを鮮明に判読することは可能であるが、昼夜・全天候下で監視できるためには光学では不十分で、合成開口レーダによる必要がある。図5は電波が海面に反射し、あるいは船体に反射する様を模式的に表している。海面は電波の良好な反射体であり、海面に反射した電波は鏡の面で反射するように前方に反射してしまうため反射波が戻って来ず、したがって画像でみると海面は暗く見える。電波の照射域に船舶があると海面で反射した電波が船体で跳ね返って元来た方向に反射され、画像では暗い海面中に明るく輝いて見ることができる。合成開口レーダによる船舶撮像例を図6(a)に示す。衛星高度から釣り舟が暗い海面中に明瞭な輝点として認めることができる。なお陸地、特に市街区域は建築物など電波の良好な反射・散乱体が多くあるため、図のように明るく観測される。同図(b)はほぼ同時間帯に撮影した同地域の航空写真である。
z0001_05.jpg
図5 海上船舶からの電波の反射状況
z0001_06.jpg
(a)                    (b)

図6 合成開口レーダ画像例(左)(オスロ湾)
 陸地と停泊中の船舶との識別は一般にはデジタル地図を画像に重ね、画像中の陸地部分をマスクすることにより、容易に船舶だけを検出することができる。なおこの船舶は停泊中であるが、航行中においては航跡が肉眼で見える距離の数倍から10倍の長さにわたって画像化し捉えることができるので、目で捉えるにはまず航跡を見つけ、その先に船体を見出すことにより容易に船舶を判読することができる。船体はこの例に示すように明瞭な輝点として撮像される場合が多く、簡単な画像処理で船舶を抽出することができる。また航跡から針路を検出することができる。
 
 船舶が自動検出されると、検出船舶が既知船舶なのか不審船なのかの判別をしたいわけであるが、カナダの船舶監視システムVMS(Vessel Monitoring System)の例を示すと、図7に示すようなGPS測位した自船位置と識別コードを自動発信するトランスポンダを船舶に搭載しておく。既知船舶は位置がGPSにより10m級の精度でわかるので、検出した船舶画像から既知船舶をマスクすることで不審船を判別することができる。カナダではこのシステムにより、経済水域に不法に侵入する他国船舶をリアルタイムに検出し、沿岸警備隊との連携で取り締まるシステムを運用中である(3)
z0001_07.jpg
図7
 最後に船舶の形状による自動分類技術の開発状況を示す。合成開口レーダ画像は目標物の構造に応じた反射強度分布を有している。図8にその1例を示す(3)
z0001_08.jpg
図8 船舶画像(右)の強度分布プロファイル(左)
 同図右は船舶画像を拡大したもので、甲板上構造物の配置を反映した強度分布が画像で認められる。同図左はこの強度分布を数値的に3次元表示したものである。既知船舶のこれらパターンを事前に登録しておくことにより、観測したパターンから対象船舶の船種、場合によっては船名を識別することが可能となる。現実にすべての船舶のこのようなデータを衛星画像から収集するのはたいへんな労力を要し不可能に近いので、現実には船舶図面(3面図)から3次元CADにより3次元モデルをあらかじめ作成し、これを元に合成開口レーダシミュレータと称する特殊なシミュレーション器材により、種々観測条件下(観測方位、周波数、偏波など)の「見え方」をデータベース化し、これと観測結果とを自動比較する方法が採られている。尤もこの方法においてもシミュレーションモデルをより現実に近づけるためには日々の業務に併行して実データを収集し、モデル見直しによるデータベースの維持・改定を地道にしていく必要がある。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION