日本財団 図書館


3.衛星による海洋監視
 衛星に高分解能の画像センサを搭載し、これにより地上の動静を監視することは安全保障の世界で古くから利用されてきた。近年は技術の進展と情報公開により、防災、国土開発計画、環境監視など従来の枠組を越えたさまざまな局面において広く利用されるようになってきた。本章以降ではこの宇宙からの監視の概要を説明するとともに、従来の地上をベースとした監視・警報技術の難点を克服するものとして、宇宙をベースとした新たな手法SBSS(Space-Based Surveillance System)を提案するものである。この宇宙からの監視技術は、冒頭に述べたように諸外国においては不法漁業活動の監視や海上原油流出、タンカー洗浄海水の不法垂れ流し監視などに有効活用されているものである。 SBSS技術を使うことにより、SHIPLOCまたはAIS端末が海賊により不幸にして破壊された場合においても、ハイジャック船舶を最後まで追いつめ検挙することが可能となり、海賊抑止に大きく貢献できるものと考えている。
 
 以下ではまず衛星リモートセンシングの概要を述べ、海洋における主たる応用である船舶探知、海上油汚染監視及び北方航路開拓における海氷監視について実例を交え現状技術を示す。
3.1 衛星リモートセンシング
 衛星リモートセンシングとは観測機材を衛星に搭載し、地球表面を観測・監視する技術をいう。航空機に同機能の機材を搭載する航空機リモートセンシングも衛星を補完するものとして現在も運用されている。衛星を利用することのメリットは、地球を周回する軌道を採ることにより地球のほぼ全域が観測できること(広域性)、また軌道で定まる周期で定期的に同一地域が監視できること(周期性)である。衛星は軌道高度で分けると、静止軌道衛星GEO(Geo-stational Earth Orbit)と低軌道衛星LEO(Low Earth Orbit)の2つのタイプに大きく分けることができる。前者の例としては気象衛星ひまわりが有名であり、衛星放送でおなじみの放送衛星、通信衛星もGEOに含まれる。後者では地球観測衛星ランドサットや、周回型気象衛星ノアがそうである。GEO衛星は赤道上空36,000kmを24時間かけて地球1周するため、地上からみるとあたかも静止しているかのように見える。このためいつも同じ方向にアンテナを向けておかないと困るような放送衛星、通信衛星はGEO軌道となる。常時日本周辺の気象状況を観測していたい気象衛星ひまわりも同様である。GEO衛星は同じ場所を連続的に監視するメリットがあるが、地表面までの距離が36,000kmもあるため現実的には精々がんばっても数百メートルより細かく地表面を観測することができない。こういった理由から、監視・観測目的ではGEOではなく、高度が500〜700kmで南北両極上空付近を通過する地球周回低軌道LEOが採用されることになる。このとき衛星は地球を約100分で一周し、この間地球も西から東に約25度自転するので、衛星が一周して戻ってきたときには地球は赤道上2,800kmほど東に自転しており、地上からみると衛星は反対に西に2,800kmずれた地点上空を通過するようにみえる。
 
 図2に示す白い破線は地上に投影した軌道のフットプリント例(米国周回気象衛星NOAA 14衛星例)を示す。軌道フットプリントは衛星周回に地球自転の動きが合わさって図2に示すように正弦波状となる。なお衛星を中心に描いた楕円状の線はNOAA 14の視野範囲を表している。
z0001_02.jpg
図2 LEO衛星周回軌道の地上ストップリント例
 このLEO軌道衛星が地上を見分けることのできる能力である地上分解能は、観測センサ技術の進歩により時代とともに向上してきた。1980年代から1990年代後半までは数10メートルであったものが、いまや数〜1メートルに向上してきている。このような高分解能になったことで、画像に写っているものが何でどのような状態であるかを解析し判読することが大変容易となってきた。図3は商用観測衛星画像例を示す。(a)は従来から多用されてきた光学衛星画像(フランス スポット衛星画像、地上分解能20m)による東京湾オイルタンカー ダイアモンド・グレース号座礁時の海上油汚染状態を示す画像である。(b)は合成開口レーダ衛星画像(カナダ レーダーサット衛星画像、地上分解能20m)による能登半島沖オイルタンカー ナホトカ号事故による海上油漂流状況を示す画像である。合成開口レーダとは特殊な方式によるレーダで、飛行しながらマイクロ波を地上に照射、反射波を受信し、信号処理することにより、開口が1〜2kmにも及ぶアンテナと同等の分解能を実現する方式である。電波は雲を透過するので、冬季日本海の厚い雲に覆われて光学画像では観測できなかった状況下でも図に示すように原油漂流状況を黒い帯状として鮮明に捉えることができる。図4は前述の高分解能化の例として、商用高分解能光学衛星であるイコノス衛星画像を示す。地上分解能約1mで、船舶の形状、地上建造物の構造まで鮮明に判読できることがわかる。
z0001_03.jpg
(a)                    (b)
図3 商用衛星画像例
z0001_04.jpg
図4 商用高分解能光学衛星画像例
 衛星画像の今後の動向は、光学画像においては航空機画像の置き換えを狙った地上分解能30〜50cm級の高分解能化と、ハイパースペクトルと称し、可視〜中間赤外域を100〜200チャンネルに分割、各チャンネル画像を組合わせて利用する波長の多波長化である。また合成開口レーダ画像においても光学画像ほどではないにしろ、1〜3m級の高分解能化と、多波長化に相当する電波の多周波化、及び電波特有の送・受信偏波の組合わせ利用がある。詳細は本論の域を越えるので今後の機会に譲るとするが、地表の状態をより細かく観察する(高分解能化)とともに、地表面被覆状態(鉱物資源分布、土壌の質、農場地・森林など植生分布、水系を含めた環境汚染状況など)をより詳しく分類・分析することが可能となる。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION