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3. 大きさからのアプローチ
 
3.1 EPIRBの現状
 
 現行EPIRBの内部構造は図3.1.1に示すとおりである。
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図3.1.1 EPIRB内部構成
 EPIRBは浮揚し安定的な姿勢を保つ必要がある。よって図3.1.1に示すとおり、質量の大きな電池は下部に配置し、上部は浮力を得るために空気の容積が大きくなるように、図3.1.1からは判りづらいが、2枚の同サイズのプリント基板を中心から抱き合わせる様に配置している。
 これらの事から、EPIRBの大きさは電池によりほぼ決定し、その質量から安定した浮力と、安定した姿勢を保つための重りや空間や浮体が多く存在し、その結果として大きく重くしている。
 
3.2 PLBの方向性
 
 PLBはライフジャケットのポケットなどに入れて携帯されるものが、その使用法の大部分を占めると予想する。また起動も手動である。
 これらからPLBは、遭難時に遭難者が水中に落とすなどの事態は安易に想像でき浮揚する必要性はある。しかし、安定した姿勢を保つように自立して電波を発射する必要性は必ずしも必要と思われない。またEPIRBと同様に浮上させて安定姿勢を保った状態で電波を発射するには、別途浮体(場合によっては重り付き)を取り付ける構造とし、浮体を救命ボートなどに設置すれば、十分対応可能と考える。
 よって小型船PLBは次の方向で検討する。
 
・浮き得るが自立しない。
・自立させるには別途浮体を装着する。
 
3.3 電池の大きさ
 
3.3.1 現行EPIRBの電池
 
 現行EPIRBの電池は図3.3.1に示すとおり、単1サイズ×4本のパックで、質量は約480gである
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図3.3.1 現行EPIRBの電池
 
3.3.2 単2サイズ×3本案
 
 2項の通り、小型船PLB用電池は単2サイズを3本で考え、従来のEPIRB通りに電池が重りを兼ねる構造にすると図3.3.2の様な形状にパックすることになる。
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図3.3.2 小型船PLB用パック電池案1
 電池パックに図3.3.2の形状を採用した場合、小型船PLBは現行EPIRBの基部φ170mmに対して基部φ70mm程度のPLBが出来ると予想する。
しかし、電池パックにこの形状を採用した場合は、小型船PLBが円筒形もしくは三角錐形になり、携帯使用するのに適さない。ライフジャケットのポケットなどに入れることを考慮し、小型船PLBが携帯無線機などと同じ直方体になることを考慮して、電池パックは図3.3.3の形状を検討する。
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図3.3.3 小型船PLB用パック電池案2
 プリント基板のサイズを80mm×95mmで考えた場合(詳細は3.4項参照)、筐体サイズは隙間と肉厚で5mmを考慮すると幅90mm×奥行36mm×高さ163mm(528cc)となり、携帯型として好ましくない大きさになる。
 
 内部の奥行寸法が26mmあり、これだけの寸法があれば、プリント基板を2種類実装できる。1枚で検討したプリント基板を2枚に分けることで、高さ方向の寸法は押さえられるが、その分価格は上昇することになり好ましくない。
 
3.3.3 新技術を考慮した電池サイズ
 
 新しい技術として、昇圧型DC-DCコンバータにスーパーキャパシタを内蔵したものを開発し、通常の消費の効率を向上させ、バースト状の送信時はスーパーキャパシタに貯めた電力を使用する方式を検討する。このDC-DCコンバータは開発費が必要であるが、単3セル1本と同程度の価格で、かつ67%程度の容積(幅33mm×奥行21mm×高さ8mm)程度で実現可能と考える。
 このDC-DCを使用する場合、電池は二酸化マンガン・リチウム電池の単2サイズ×2本、もしくは塩化チオニール・リチウム電池の単3サイズ×4本が考えられる。本検討ではDC-DCコンバータ+スーパーキャパシタの実装場所を確保するため、図3.3.4の通り単3サイズ×4本とする。
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図3.3.4 小型PLB用パック電池外観図
 
3.3.4 採用した電池での121.5MHzの可能性
 
 塩化チオニール・リチウム電池で単3サイズ×4本を考慮する場合、その配置は2本直列を、2列並列にすることとなり、電圧7.2V、容量4.8Ahとなる。
 DC-DCコンバータを使用することを前提にしているので、単純にその消費から動作時間を算出する訳には行かず、効率を考慮する必要がある。DC-DCコンバータは406MHz送信系に12V(スーパーキャパシタ付き)制御系に5Vを出力するものとし、それぞれの効率を75%、85%で考える。
 12Vの平均電流は41.3mAであり、5Vの平均電流は18.7mAであり、効率を考慮した電池電圧における電流を計算すると、次のとおりとなる。
 
12V×41.3mA/75%/7.2V=91.6mA
5v×18.7mA/85%/7.2V=15.3mA
合計        106.9mA
 
 電池容量は-20℃時の動作で考え、常温の容量から-20%、さらに有効期限内の自己放電分-18.45%を加味すると、3.13Ahとなる。この容量での連続動作時間は、
 
  3.13Ah/106.9mA=29.3時間となり24時間に対して若干余裕がある。
 
 ここで、電池容量から121.5MHzを付加することを考慮する。121.5MHzは5V系で行い、その消費電流は25mAで検討する。
 連続送信の場合5Vの消費電流は43.7mAとなる。
 
   5V×43.7mA/85%/7.2V=35.7mA
 
となり、合計の消費電流は127.3mAであり連続動作時間は
   3.13Ah/127.3mA=24.6時間
 
となり、24時間に対して121.5MHzを付加しても、かろうじてクリアする。
 
 しかし、定期点検時の電力消費は加味されて無く、DC-DCコンバータの効率も概算であるため、DC-DCコンバータの効率が5%下がれば時間は24時間を切ることとなってしまい、余裕が無いこととなる。
 
 121.5MHzは、現行EPIRBでは406MHzが送信している前後2秒間は、送信を停止することが許されている。しかし、2秒停止しても動作時間は9分しか延びない。
 
 そのため、121.5MHzホーミング信号の間欠動作を提案する。
時間は検討する余地があるが5〜10秒程度動作し、同時間休止する方式を採用した場合、121.5MHzに必要な電力は半分で済む。
 また、この電力であればDC-DCコンバータの効率が現在の予想より5%悪化しても、また、定期点検時の積算動作時間を1時間とした場合でも、かろうじて24.004時間と、規格を満足している。よって、この間欠動作での121.5MHzを付加することとする。
 
3.3.5 市販電池採用の可能性
 
 本報告書の消費電力検討は電子回路部に現行EPIRBの回路を使用するとの条件で行った。しかし、現行EPIRBの設計は1994年であり7年以上経過した現在、根本から設計を行えば回路自体の消費電力を削減できる可能性が高い。
 それらの期待値を考慮した場合、カメラ用に市販されているCR123など電池を使用できる可能性がある。CR123は市販価格で300円〜600円程度であり、公称電圧3Vで容量は-20℃時に大幅に減るが公称値で1.3Ahである。6本構成で考えた場合に現状回路の消費電力でも、動作時間の12時間もしくは動作温度範囲が0℃〜55℃のどちらかが認められれば十分に使用可能である。
 参考までにCR123を6本構成にした場合の外観を図3.3.5に示す。
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図3.5.5 CR123×6本外観イメージ図
 
3.4 プリント基板の大きさ
 
 現行EPIRBには2枚のプリント基板を用い、寸法は幅75mm×高さ160mmである。これは前述したとおり、浮揚時の姿勢を安定させるため重量バランス良く配置するため2枚にした理由が大きい。また、浮力を得るための空気空間を大きく取る必要があり、それぞれのプリント基板の実装は密になっていない。プリント基板の内、一枚は制御系回路が構成されており、その半分の面積は表示灯(キセノン閃光灯)用の回路に使用されている。もう一枚は送信系回路が構成されている。
 送信系回路に使用されているOCXOは幅30mm×奥行30mm×高さ22mm(容積19.8cc)と大きく、現在開発を予定しているMCXO幅20.8mm×奥行13.2mm×高さ8.2mm(容積2.3cc)を使用するだけで、プリント基板のサイズは小さくなる。
 現行OCXOと開発予定のMCXOのサイズを図3.4.1に示す。
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図3.4.1 現行OCXO-開発予定MCXOの寸法比較図
 
 現行EPIRBの2枚のプリント基板を1枚で構成することを考慮し、削除するように検討した部分を削除してOCXOをMCXOに置き換える。プリント基板は最初に検討した単2×3本使用したパック電池と同じ幅80mmで検討すると図3.4.2の大きさで実装できる。
注: 図3.4.2は実装面積を検討するために片側に制御系の、もう片面に送信系の部品を配置しただけものであり、実際のプリント基板とは異なります。
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図3.4.2 単2×3本の電池使用時のプリント基板実装面積検討図
 
 最終的に検討した、単3サイズ×4本の幅60mmでは、DC-DCコンバータとスーパーキャパシタの実装位置が必要である。この部品は金属シールドが必要で重くなり、筐体上部に実装することは浮揚時に自立するための浮体を装着しても、好ましくない。
 電池は幅が15mmと薄いため、プリント基板を延長し、電池と共に筐体下部に実装するものとする。
 
 これらの検討を踏まえた、プリント基板イメージ図は図3.4.3の通りである。
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図3.4.3 プリント基板実装イメージ図
 
3.5 アンテナの大きさ
 
 アンテナに関しては、406MHzと121.5MHzの2周波に対応する必要があり、筐体のモデルを作成し、海水との結合を検討しなければ、実際には決められない。
 PLBは携帯されることから、現行のEPIRBの様に常にアンテナが突き出ている方式は好ましくない。またPLBは手動で使われることから手動で引き延ばすことも可能である。実現の可能性は実験を含めて検討しなければならないが、現状では携帯電話のアンテナ構造を利用した伸張式のアンテナで考える。








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