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2. 価格面からのアプローチ
 
2.1 現行EPIRBの原価解析
 
低価格PLBを実現するために、現行EPIRBの原価解析を行う。
図2.1.1に現行EPIRBの原価解析を示す。
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図2.1.1 現行EPIRBの原価解析
 図2.1.1の通り「OCXO(Oven Controned X'tal 0scillator)」、「電池」、「水圧センサー」の3つの部品で、原価全体の約40%を占めている。
 従って、設備の低価格化には、これらの部品の価格低減が早道であるので、これら3点の部品を中心に可能性を検討する。
 
2.2 OCXOの検討
 
 EPIRBは高精度の位置測位を求められているため、発信する電波には高い周波数安定度が要求されている。そのため-20℃〜55℃の広い温度範囲において10-9オーダーの周波数安定度を確保するOCXOの価格を押し上げることになっている。本来、沿岸を航行する小型船舶は、高精度での測位より遭難の通報自体が重要であると考えられ、普及のための低価格化には一般的にOCXOより周波数安定度性能は多少劣るが、廉価であるTCXO(Temperature Controned X'tal 0scinator)を用いても良いと考える。現在のTCXOの周波数安定度の実力は0℃〜55℃の温度範囲で10-8オーダーのである。これら、温度範囲の見直しや緩和された周波数安定度の検討は今後の課題であり、近い将来に0℃〜55℃の温度範囲で周波数安定度が10-8オーダーの新しいクラスの導入に期待するが、新しいクラスの導入には国際規格から見直す必要があり、早急な実現は困難であると思われる。よって本検討では従来の規格に基づいた仕様で検討する。
 
OCXOは恒温槽制御の発振器であり、現行EPIRBのOCXOは約75℃に内部温度をヒートアップし一定温度を保つことで周波数の安定を図っている。そのため、槽内を常時75℃に保つのに多大な電力を必要とし、EPIRB全体の3割以上の電力をOCXO単体で消費している。加えて、外気温が急速に上昇する場合に恒温槽内部が75℃以上に上昇するのを防ぐために、恒温槽の密閉度を低くしており、常に電力を熱に変換し75℃保っている。これは、いわば電力の使い捨てである。従って、この消費電力を低減することは、OCXO以上に、機器の価格に影響する部品である電池に関係する。
 
 近年は、このような恒温槽を使用せずに、発振器内にマイクロ・コンピュータを組み込んで周波数安定度を制御する新しい技術が確立されつつある。現行EPIRBの恒温槽を75℃に保持するのは、発振に用いる水晶振動子の周波数変動が、この温度近辺で一番少ないためである。従来のTCXOはサーミスタなどで温度を検出し、75℃以外の温度では、周波数変化分を補正するためインダクタンスやキャパシタンスを変化させて周波数安定度を向上していた。よってTCXOでは細かな曲線変化する周波数-温度特性を完全に補正することは出来なかった。
 
新しい技術は、サーミスタなどで温度を検出するまでは同じであるが、その検出された温度毎にあらかじめ記憶された補正値でインダクタンスやキャパシタンスを動作させるもので、この技術は従来から考えられていた。現在のEPIRBを開発した時にもその技術の利用を考慮し、-20℃〜55℃の温度範囲において15℃ステップで6点の補正値を記憶させ実施したが、EPIRBに使用可能な周波数安定度は確保できなかった。また、この方式では、補正値を更に細かく記憶させることが必要で、当時のマイクロ・コンピュータ技術で実現するためには、OCXOよりも大きな容積のマイクロ・コンピュータと多大な電力を必要とした。現在では、処理スピードが早く、記憶容量も十分で安価なマイクロ・コンピュータが存在するので、これらを使用することで、-20℃〜55℃の温度範囲において0.1℃ステップで750点の補正値を記憶させる事などが可能となり、低消費電力で小型の発振器の実現性が見えてきたところである。しかし、これらの発振器は新しい製品で、まだ流通量も少なく、呼称もMCXO(Microcomputer Controlled X'tal Oscillator)やDTCXO(Digital Temperature Controlled X'tal Oscillatorの略)等と統一されておらず(本報告書ではMCXOと称する)現時点ではあまり一般的ではないが、昨年頃からは、MCXOで高周波数安定度の製品の開発も始まっており、今後使用が期待できる発信器である。
これらの特徴として、以下が考えられる。
 
・消費電力が少ない(現行OCXOの約18%で良い)
・周波数が安定するまでの時間が短い。
・恒温槽が不要になるので小型である。
 
 今後の検討課題の一つであるが、周波数が安定するまでの時間が短いため、PLBの動作の大部分を占める休止時に、MCXOの電源を切ることで、さらに消費電力を減らす事の可能性も考えられる。この特徴は小型船PLBには最適であり、今後はOCXOに代えMCXOを使用した検討を行う。
 
2.3 電池の検討
 
 凍結した海水や、氷のような冷水海域で使用する設備は、機能を維持するための対策をとる必要があり、結果的に高価な設備となることがある。EPIRBでは、これらの環境には、基準のクラスIIが要求されているが、小型船用の機器にはとても厳しいこととなる。さらに、48時間の動作を確保するためには、特殊で大容量の電池を必要とする。
 一般に電池は化学反応で発電するため、低温になると反応が妨げられ、容量は著しく低下する。そのため、EPIRBの一部で単1サイズのリチウム電池を12ヶ使用している例もあるが、製造メーカが少なくまた、特殊な電池であるため、機器の低価格を妨げているのが現状である。
 0℃で12時間運用の機器として、一般市場で使われている電池を用いた機器の仕様で検討したいが、今回は、国際規格の最少時間である24時間で検討する。現行EPIRBは容量10AHのDサイズ(単1サイズ:φ33.3mm×60.5mm 容積527cc)の二酸化マンガン・リチウム電池を4本使用している。
図2.3.1に現行EPIRBの部分別消費電力を示す。
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図2.3.1 現行EPIRBの部分別消費電力
 
多大な消費電力を使用するOCXOは2.2項の通りMCXOを使用することにより低減できる。ここでは表示灯と121.5MHz送信機について検討する。
 
[1] 表示灯
 キセノンをストロボ状に閃光させる表示灯は2つの機能があると考える。ひとつは捜索するときにその光を目印にすることであり、もうひとつはEPIRBが正常に動作していることを遭難者自身に確認させ、安心感を持たせる物である。
 しかし、この表示灯は晴天夜間で見通しの利くところならば5kmほどの視認性を有するが、昼間はほとんど見えず、また夜間でも荒天時や波間に入るなどの妨害があり、効果に疑問がある。
 現在の小型船EPIRBの基準には、表示灯の義務化はないので、小型船PLBには動作をしていることが確認できるパイロットランプ(LED)で十分であると考える。
 
[2] 121.5MHz送信機
 現在121.5MHzを用いたPLBが運用されているが、このサービスは、2009年で衛星での処理を中止することが決定しており、今後は、徐々に利用が減少し、何れは406MHzの周波数を用いたPLBに移行していくものと予想する。
 一方、EPIRBにおいては、121.5MHzをホーミング信号に用いており、406MHzでの測位後の最終的な捜索にSARTと共に有効な信号であり、本開発のPLBへの組み込みが必要である、との意見が強いが、本検討では組み込まない事で検討を行なうが、決定する電池容量と、間欠送信などの方法で、電力消費を押さえる事を含めて、電池の決定時点で再検討する。
 
 これらでの消費電力削減により、現行EPIRBと小型船PLBの消費電流は図2.3.2に示すとおり、現行EPIRBと比較して半分以下となる。
 
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図2.3.2 現行EPIRB-小型船PLB消費電流比較
 この消費電流で24時間動作するためには、RTCM規格に基づく、18.45%の保存期間における自己放電率を含めて、-20℃で1.44AHの容量が必要である。
 現在PLBに使用することが可能で最大容量を持つ塩化チオニール・リチウム電池を用いれば、単3サイズで2.4AH(常温での容量)のものがある。しかし、単3サイズでは瞬間に取り出せる最大出力電流は約500mA程度であり、図2.3.3に示す50秒に1回の406MHzによるバースト状の送信時に必要な電流、約2.24A(現行の11.2V時)を取り出すことが出来ない。
これらを解決するには次の方法等が考えられる。
 
・瞬間に大電流を取り出せるサイズの電池を使用する。
・電池の本数を増やして電圧を増し、電流を押さえる。
・高効率のDC-DCコンバータを用いて電圧を昇圧させ、消費電流を押さえる。
・最近の技術進歩がめざましいスーパーキャパシタに電力を充電し、バースト状の送信時はその充電された電力を使用する。
 
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図2.3.3PLBの消費電流-時間推移
 海外製の小型PLBではAAサイズ(単3サイズ:φ14.5mm×50mm容積83cc)に比べて直径が若干大きい2/3Aサイズ(φ17mm×28mm容積64cc)のセルを6本使用している例もある。またCサイズ(単2サイズ:φ26mm×50mm容積265cc)のものを1/2や2/5に長さ方向を縮めたサイズの電池も存在する。
 これらの特殊サイズの電池は、仕様的に小型船PLBと合致するが、その特殊性から流通量が少なく一般的なサイズの電池と比較すると割高になる。例えば前述した1/2Cサイズや2/5Cサイズは通常のCサイズより高額である。
 
 価格面から判断した場合、小型船PLBにはCサイズの電池3本を使用することが最適と思われる。しかし、大きさの面でポケットに入る大きさにするには不都合があり、本項では決定を避け大きさの項目で検討する。
 
2.4 水圧センサーの検討
 
 現行EPIRBの水圧センサーは自動離脱装置に利用しているが、小型船EPIRBには自動離脱機能の規程は無いので普通取り付けられていない。今回検討する小型船PLBは携帯を考慮に入れているため自動離脱機能は不要であり、よって小型船PLBには水圧センサー、自動離脱装置とも付加しないものとする。
 
2.5 価格検討の総括
 
 アンケート調査により、EPIRBを装備しても良いとされている価格は5〜6万円であるとの結果がある。そのため、この価格での可能性を検討したが、現在までの検討では、義務船用のEPIRBと同程度の生産規模では10万円を少し下回る位にしかならないと予想される。これは、主たる部品が全て海外製で、少数の購入では価格が下がらないことも一因である。従って、更に価格を下げるためには、生産台数を10倍程度までの規模に増加させること、技術的には、前述した10-8オーダーの周波数安定度や0℃〜55℃での使用温度範囲並びに12時間の連続動作時間など、従前以上に基準を緩和した新しいクラスの導入や、現行EPIRBの原価の8.1%を占める出荷毎の検定料や検定承認、型式検定の検討が必要である。
 また、現行EPIRBは免許申請後に指定される識別符号の決定後、都度工場で書き込み出荷することとなっているため、一括生産しても一台毎の出荷作業となるため生産工程が分断し生産効率が悪くなることで価格を上げる要因になっている。更にこのため、代理店や販売店などでの店頭販売が不可能であり、気軽な購入の妨げになっている。そのため、小型船PLBは国際的に認知されているシリアル番号制度とすることが望まれる








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