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◎ワバチを飼う道具◎
1 巣箱
 巣箱には丸太型の巣箱が大半を占め図[4][5]、そのほかに板の縦箱型図[6]や前あき箱型図[8]などが存在する。
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[4]家の敷地内の置かれた丸太型の巣箱(ゴーラ)。丸太下部の入口の周辺に働き蜂が留り、風を送っている。屋根の枯枝はスダジイである(古座川町松根 1994年7月28日)
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[5]ゴーラなどと呼ばれる丸太型巣箱の構造。ワバチの巣はゴーラの上部につく。※印は巣の最下部についた王台で、女王バチがおり、分蜂の時だけ先端が茶色に変色する。これを確認してからツリカワなどを準備する
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[6]山中で飛来したワバチの群れが入るのを待つために置かれた箱型巣箱。この事例ではハチの群れを誘引するためにハチミツをビンに入れて横に置いている(熊野川町畝畑)
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[8]前あき箱型の巣箱(ミツバコ)と木板型の分蜂群誘導具(熊野川町柳原)
呼び名…
巣箱はゴーラ(古座川町、古座町)、ゴーバ(古座川町)、ウトー(本宮町、古座川町)、ウロー(古座川町)、ミツダル(本官町)と呼ばれている。ワバチの群れが自然に入るのを待つために置く巣箱をとくに「マチ(待ち)ゴーラ」とか「マチウトー」、「マチダル」と呼ばれている図[6][9]。
材質…
中空のサクラの丸太が最も良いといわれている。また中空のクロキ註[4]も良い材料とされている図[7]。普通は手に入りやすいスギを用いる。マツやヒノキは蜂にとって不適である。一般に、若木でなければ三〇〜四〇年持ち、一度巣がかかったゴーラや古いゴーラほど明らかに棲み着き易い傾向を持つ。
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[7]ゴーラ本体の材料になる中空のトガ(=ツガ)(本宮町久保野)
作り方…
自然に穴のあいた木を使うが、最近はチェーンソーで丸太をくり貫いて人工的に中空を作ることが多くなった。ゴーラの直径は約三〇センチ、高さ五〇〜七〇センチのものが多い。上部を木でふさぎ、下にワバチが出入りするための隙間や小穴を下部にあける。屋根はトタン、板、笹などで作る。板で作った縦形の巣箱図[6]や百葉箱のような前あき箱型図[8]もあるが、熊野山系では少数である。マチゴーラの中にうすめた蜜をふきつけたり、蜜を近くに置くとハチが棲み着き易いという図[6]。
置く場所…
飼養の上で大切な要素であり、大木の根元や大岩の下が良く、また日当たりが良い所でなければならないというのが共通の意見である図[9]。そうした条件にあった所には必ずといって良いほど巣箱が置かれている。山中ではとくに入会のような取り決めはなく、設置は比較的おおらかである。ゴーラの下には木や石を置いて水平にし、丸太を縦に置き、下から水が入らないようにする。また自宅の横の庭先や畑の中に設置されている場合も多く、周囲がきれいに掃除されている図[4][10][11]。
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[9]日当りの良い岩の下に置かれたマチゴーラ。虫がつくのを避けるため、どこでも樹皮は剥がれている(古座川町中崎くぼ)
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[10]家の正面の垣根を切り開いて中央に置かれたゴーラ(同右)
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[11]屋敷横の茶畑の中の置かれたミツダル(=ゴーラ)(本宮町久保野)
管理…
新しいゴーラの設置は春で、明治の人は社日註[6]に、中の掃除は大安と決めていたと言う(古根川氏談)。スムシ(ハチノスツヅリガ)とシシバチ(スズメバチ類)の襲来に注意しなければならない。
蜜の収穫…
待ちゴーラの一〇〜四〇パーセントに巣がかかる。蜜切り(収穫)は、年に一回、盆前後に行い、巣の六〇パーセント以下を取る。これ以上切り取らないようにするのは群れが冬期に全滅するのを防止するためであり、セイヨウミツバチの旧式養蜂における皆殺しにして採蜜する方法文献[25]とは大きく異なっている。巣箱一つ当り最高で五升(七・二リットル)、通常は二〜三升(三・四−五・四リットル)採集され、群れによるバラツキが大きい。良質の蜜を採集するには、巣を圧しつぶしてから静置して一週間以上かけて自然流下させる必要があるという。








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