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II アメリカ合衆国における租税概念の変遷
 
(1)課税権の根拠規定
 アメリカ合衆国の連邦憲法の中には、租税に関するいくつかの規定があるが、連邦議会の課税権の根拠規定は、連邦憲法第1条第8節第1項である。すなわち、連邦憲法第1条第8節第1項は「連邦議会は、次の権限を有する。合衆国の債務(debts)の弁済、共同の防衛(common defense)および一般の福祉(general welfare)の目的のために、租税(taxes)、関税(duties)、輸入税(imposts)および消費税(excises)を賦課徴収すること。ただしすべての関税、輸入税、消費税は、合衆国を通じ均一でなければならない」と規定している。
 taxes、duties、imposts、excisesをどのように日本語訳にし、それがどのような意味を持つかということ自体が問題であるが、連邦議会が広範な課税権を有していることは文理上明白である。
 しかしながら、課税権の目的は3つ、すなわち「債務の弁済」、「共同の防衛」、「一般の福祉」であり、課税権はこれら3つの目的を越えて行使することはできない。
 これら3つの目的をどのように理解するか、すなわち、租税は収入を得ることを目的として課税されることについては、大方の異論はないと思われるが、収入目的のみに限定されるべきなのか、さらに、収入目的以外の目的のために課税される租税は租税といえるのかどうかについて、広狭の解釈の変遷がある。この点についてアメリカの判例を眺めることとしたい。
 以下の文章は、石島 弘・現岡山大学法学部教授が発表した、論説「課税権の機能と租税概念−アメリカ連邦憲法租税条項との関連で−」(甲南法学、第21巻、第3・4合併号、甲南大学法学会)を全面的に引用させていただいたものであることをあらかじめ明確にしておきたい。ただし、(2)の[3]〜[6]の判決の要旨については、田中 英夫著「アメリカ法の歴史」(上)(東京大学出版会)PP、239、240、247、249、453から引用させていただいたものであり、また、(2)の[1]、(3)の[1]、[2]、[9]〜[11]の判決の要旨の文責は筆者にあり、その他の判例についても石島論説に一部加筆訂正させていただいたところであることをあわせて記しておきたい。
 
(2)狭義の租税概念
 最高裁判所は当初、目的税を否定し、租税はすべて普通税でなければならないとした。
 
[1]Schechter Poultry Corp.v.United States,295U.S.495(1935)
 最高裁判所は、ニューディール政策の柱である全国産業復興法(the National Industrial Recovery Act)に基づいて制定された家禽法(the Live Poultry Code)の規定が、執行部に過度な委任立法を認めようとしていることと、最低賃金や最高労働時間を規制しようとする規定が州際間の通商には間接的にしか関係が出てこないような州内間の取引を規制しようとしていること、に対して違憲無効の判断を下した。
 
[2]Bailey v.Drexel Furniture Co.,259 U.S.20(1922)
 課税権を制限的に解し、児童労働課税法(Child Labor Law)を違憲としている。1916年に制定された同法は、commerce clauseを基礎として、14才未満の児童を雇用もしくは労働に従事させて生産された商品または14才以上16才未満の児童を雇用し、1日8時間、1週6日を越えてもしくは午後7時以後午前6時以前に労働に従事させて生産された商品は州境を越えて輸送されてはならないとした。同法は、収入を得ることを目的とするのではなく、州内で児童の雇用を規制することを目的としているが、これは連邦憲法下で州の排他的権限であり、修正第10条で州に留保された権限である、ことを根拠にその違憲性が主張された。これに対し、それは単なる消費税であり、憲法第1条第8節第1項で連邦議会に付与した広汎な課税権によって賦課されたものであると抗弁した。最高裁判所は、租税と処罰(penalty)の区別は困難であり、しかも両者を区別すること自体は必ずしも重要ではないとし、租税は、議会の裁量によって適正な課税を選択し第1次的に収入を得ること、付随的に規制の目的で賦課することができる。租税は、付随的目的を有することで租税でなくなるものではない。しかし、本件の租税は、禁止的、規制的効果および目的をもっていることは明白であり、租税という名のもとに児童の労働時間を規制しようとするものであり、このような規制権すなわちポリス・パワー(police power)は州に留保された権限であるから、連邦はそれを行使することはできないと判断し、課税権をポリス・パワーとして使うことに制限を加えた。つまり、憲法で認められている連邦議会の課税権の枠を超えるものであるとした。
なお、ここでいうポリス・パワーとは、州が州民の健康・安全・福祉を守るために立法をなしうるという意味の福祉権能の意味であり、日本でいう警察権という意味とは一致しない。
 
[3]United States v.Constantine,296 U.S.287(1935)
 州法に違反した酒類小売人に課される1,000ドルの特別連邦消費税(印紙税の形式をとっている)は、その唯一の目的が処罰(ペナルティー)であり、収入を目的としていないこと、また、連邦憲法によっても連邦に帰属せず、州に留保されたポリス・パワーの権限を犯すものであると判断された。
 
[4]United States v.Butler,297 U.S.1(1936)
 ニューディール政策のもう一つの柱である1932年の農業調整法(Agricultural Adjustment Act)を、違憲無効とした。同法は、主要農産物の生産を減ずることによって農産物の価格を引きあげ、農家の購買力を高めることを目的とし、綿・タバコ・小麦およびその他の農産物を減産した農家に援助金を支給することを定めていた。その援助金の原資を、肉かん詰業者や織物業者など農産物加工業者に対する課税に求めたところ、加工業者が同税の賦課に異議を述べ訴訟に及んだものである。最高裁判所は、租税を一般的理解および憲法上の用語では、政府経費のための強制課徴金を意味するとし、徴収された税収(processing taxによる税収入)は、一般財源にあてられなければならず特定のグループのために使用することはできない、また、本来連邦が規制できない事項に対して課税と支出という形でタッチしようとするものであるから、憲法が連邦に与えた課税権の適正な行使とはいえない、として同法を違憲と判示した。目的税を否定し租税はすべて普通税でなければならないとしたものと解される。それは、BaileyケースやConstantineケースで宣言された連邦課税権の狭い解釈を採用したものといえる。最高裁判所は、同法が農産物の規制を目的とし、租税は規制目的に付随しているにすぎないと結論した後に、連邦憲法第1条第8節第1項について検討し、課税権は収入を得ることのみを目的として行使されると解することが正しい解釈であり、一般の福祉を増進するために規制的課税を認めるものではないと解されるから、一般の福祉の増進のために農産物に課税し規制するための法律を同条項を根拠に制定することはできない、ときわめて狭く解した。
 
 しかしながら、(2)の[4]の判例には、Stone、Brandeis及びCardozoという著名な裁判官の次のような反対意見が付されている。この反対意見は、目的税を承認した意見である。
 「多数意見は、農産物加工業者に対し消費税を賦課する権限を連邦議会は憲法上付与されているかについて何等検討せずに、当該課税を無効としている。しかし、現在の農業不況状態は、その範囲および効果において全国的なものであるから、加工業者に課税し、公金を農家援助のために支出することは一般の福祉のために租税を賦課徴収する連邦議会の権限内にないと断ずる根拠はない。課税し支出する権限は公金を支出することによって、全国的経済不況を打開する権限も含む」と反対意見はいい、課税権を広く解した。連邦議会の課税権は、課税物件を決定することについては明文の規定で禁じられた輸出課税を除き、無制限であるから、農産物加工業者に消費税を賦課すること、同租税からの収入すなわち国庫収入から経済政策を実現するために農家に援助金を支給することは、憲法に反するとはいえないと解しているのである。
 
(3)広義の租税概念
 ニューディール政策がその後次第に認められていく過程で、上記の少数意見は、次第に支配的見解になっていき、Butlerケースの制限的租税概念は、その6ヶ月後の次のケースにおいて大幅に修正され、その後も連邦の課税権は広く積極的に解釈されるようになっている。
 
[1]Steward Machine Co.v.Davis,301 U.S.548(1937)
 1935年の社会保障法(Social Security Act of 1935)の失業手当条項及びそれに基づく雇用税(tax on right of employment)は消費税(excise tax)でもなく、各州間に均一的に課税されていないのではないかということが争われた。つまりこの税の目的は収入ではないこと、また、連邦憲法によって留保された州権限を侵害するのではないかと主張された。
 最高裁判所は、収入のみを目的とした税ではないことを認め、また、正当な理由による例外を除いて各州間に均一に課税されていることを認め、しかも、この1935年社会保障法は、留保された州権限を侵害するものではないとして、合憲の判断を下した。
 
[2]Helvering v.Davis,301 U.S.619(1937)
 社会保障法第2章及び第8章の高齢者年金条項、すなわち、特別の目的のための独立信託基金に使われる失業補償税(Unemployment Compensation Tax)および社会保障税(Social Security Tax)の合憲性が問題とされた。下級審では、雇用者に対する課税は、連邦憲法制定時に考えられていた消費税(exice)には該当しないとしたが、最高裁判所は、連邦議会は連邦憲法第1条第8節第1項でいう「一般の利益」のために税収を使うことができるのであり、その理由として、多くの人が高齢になり扶養されるようになっていくと、それに必要な唯一の方法は、連邦議会が一般の利益にかなうように合衆国全体に及ぼすことができるこのような保障立法をする権限が与えられているとみるべきであり、連邦憲法修正第10条で州に留保されている権限を侵すものではないと判断した。
 
 つまり、これら二つの判決において、課税権は連邦の歳入を図るためにのみ行使しうるという従来の立場が改められ、連邦のSocial Security Actが社会保障制度を設けその運用のための税を創設したのが、合憲とされた。連邦の課税権が広く積極的に解釈されるようになったのである。
 
 次に、収入目的以外の目的、ひいては、規制目的のための租税について、アメリカの判例はどのように解釈しているのであろうか。
 租税を賦課することは不可避的に規制的効果を生じさせる。Stone判事は、「あらゆる租税は、ある程度、規制的要素を内包する。租税は、課税されない経済活動と課税される経済活動を比較すると、後者にある程度障害となる」といっている。
 これは、租税がその行使主体にとって収入目的以外の目的のために課税されることを意味する。
 保護関税が、国内工業を保護・育成し、国内市場を創出・拡充するために必要であると主張された18世紀末から、現在に至るまで、租税は収入目的以外の政策遂行のために利用されてきている。
 租税は、経済現象として様々な社会的、経済的機能を果たしているから、課税権の行使は、必然的に社会的・経済的効果をもたらすことになる。租税の目的は、収入を得ることであるが、必ずしもそれだけに目的を限定されるのではない。一般に消費税の分野においては、議会は、課税することによって、ある事項を規制しようとすることが多い。
 酒類やタバコ等の物品に高率の租税が課税されてきているが、その課税目的には、これらの物品が非必需品であること、有害であること、罪悪であること等を理由にして規制しようとすることも含まれている。
 
 ここで、時代はかなり遡るが、次のような判例の変遷をたどることとしたい。
 
[3]McCulloch v.Maryland,4 Wheat,316(1819)
 McCullochは、合衆国銀行(Bank of the United States)のボーティモア支店の出納責任者(cashier)であったが、銀行券発行の際メアリランド州所定の税を支払わなかったという理由で、メアリランド州裁判所で制裁金(penalty)を課せられた。
 この税は、メアリランド州の法律によって設立されたものを除き、同州内に事務所を置くすべての銀行は、銀行券発行の際に所定の率で印紙を貼る義務があり、この義務に反した銀行の頭取、出納責任者、取締役その他の役員は、1回の違反ごとに500ドルを没収(forfeiture)されるとするメアリランド州法によるものである。
 McCullochは、連邦最高裁判所に上訴。連邦最高裁判所は、全員一致で、この制裁金を科す根拠となったメアリランド州法は連邦憲法に反するものであり無効であるとし、州裁判所の判決を破棄した。
 連邦憲法第1条第8節第18項は、連邦議会は「上記の権限およびこの憲法により連邦政府またはその部門もしくは官吏に対して附与された他のいっさいの権限を実行に移すために、必要かつ適切な(necessary and proper)すべての法律を制定すること」ができるとしている。この条項の元来の意味も、極めて曖昧である。それは、憲法が明示的に掲げた個々の権能を実施するために、「適切」であると同時に「必要」な最低限の立法のみを許す趣旨か。それとも、それより広く、憲法が連邦に与えた権限を総合的に眺め、憲法が連邦に期待しているところを推測し、それを実行するために「適切」なものは「必要」でもあるという解釈を許すものなのか。
 連邦憲法には、連邦が国立銀行を設けうる旨の明文がないことを根拠とする反対論もあったが、最高裁判所は、この事件の判決で、連邦の立法権には、憲法の明文で認められたもののほか、黙示的に認められた権能(implied powers)があるとして、国立銀行設立法を合憲とした。
 また、連邦憲法第1条第8節第3項は、連邦議会は「外国との通商(commerce)並びに各州間及びインディアンの部族との間の通商を規制すること」ができるとしている。
 しかし、連邦憲法修正第10条は、「憲法によって合衆国に委任されず、また州に対して禁止されていない権限は、それぞれの州又は人民に留保される」としている。
 また、連邦憲法第9条第2項は、「この憲法、これに準拠して制定される合衆国の法律、(中略)は、国の最高法規である。各州の裁判官は、州の憲法または法律中に反対の定めがある場合でも、これらのものに拘束される」としている。
 州の課税権との関係で、国立銀行に対しメアリランド州が課税することは、許されるか。
 マーシャル主席裁判官は、次のような理由で、メアリランド州による国立銀行に対する課税は許されない、とした。
 「連邦憲法とそれに準拠した法律は至高のものである。それは、各州の憲法と法律を規制し、各州の憲法と法律によって規制されることはない。ここから…他の命題が論理的帰結として抽き出される…第一に、創設する権利は、保持する権利を含む。第二に、破壊する権利は、それが他の者の手に掌握されているときは、創設し保持する権利に敵対的なものであり、これと相容れない。第三に、このような矛盾が存するときは、上位の権威が支配すべきである…」
 「課税する権限は、破壊する権限を含む。破壊する権限は、創造する権限を破り、これを無用のものとする。」従って本件でメアリランド州による課税を有効とすることは、連邦を至高のものとする代わりに州を至高とする結果になろう。このような課税を認めることは、連邦のすべての活動に対する課税の道を開くことになるからである。このようなことは、連邦憲法に反する。
 連邦も州も競合的に課税権を有するとする者があるが、それは誤りである。「すべての州の人民が、中央政府を創り、これに一般的な課税権を与えた。すべての州の人民およびこれら州自身が、連邦議会に代表され、その代表を通してこの権限を行使するのである。連邦が州によって法人格を与えられた機関に課税するときは、連邦は、その構成員に課税するのである。…しかし、州が連邦政府の活動に課税するときは、州は、その構成員によって創設された機関に課税するのではなく、州が規制しえない[合衆国の]人民によって創設された機関に課税するものである。」
 「州は、連邦政府に与えられた権限を実施するために連邦議会が制定した法律で合憲的なものの作用を、課税その他の方法により、阻止し、妨害し、負担をかけ、その他これを規制してはならない。このことは、憲法の宣明した[連邦法が]最高法規[たること]から必然的に出てくる結果であると、われわれは考える。」
 
[4]Brown v.Maryland,12 Wheat,419(1827)
 この判決の中でマーシャルは、その後長く"original package doctrine"と呼ばれた原則を打ち出した。本件では、外国からの輸入品の卸売業者は州から(手数料を払って)免許を受けねばならぬとするメアリランド州法の合憲性が問題となった。マーシャルは、この法律は、連邦憲法第1条第10節第2項にも、commerce clauseにも反するとして違憲とした。前の点について彼は、同項が州は"imports"に課税してはならないとしているのは、輸入する行為に対する課税を禁じたのみならず、輸入品に対する課税を禁じたものであり、輸入後も、輸入された商品がその輸入の際の梱包を解かれて州内の一般の物品に混じるまでは、州はいかなる形でもこれに課税することは許されないとし、本件で問題となった輸入商に対する課税は、輸入品に対する課税が形を変えたものにすぎないとした。
 次に、Commerce clauseについて、マーシャルは、「輸入の対象[たる商品]を販売することは、外国や他州との交流の重要な内容をなす……。……輸入者としての資格で商品を販売することに、どのような形であれ制裁を課すことは、輸入を認めた連邦の法律に反するものである。この国の他の商品の中にこの[輸入]品を導入し混入させることに対して、どのようなものであれ負担をかけるということは、連邦議会に与えられている通商規制権に敵対するものである。というのは、このように[輸入品を他の商品の中に]導入し混入させることが、この通商の規制の本質的な部分であり主な目的であるからである」として、通商に対する妨害を強く排除する立場を示した。
 
[5]Licence Cases(営業免許事件),5 How,504(1847)
 Thurlow v. Massachusetts;Fletcher v. Rhode Island;Pierce v. New Hampshireの(同時に判決された)三つの事件の総称。この事件で問題となったのは、これらの州の法律で、酒類の小売りについて許可制をとり、かつこれに課税することを定めていたのが、州外から移入される酒の販売に適用されるときは,interstate commerceを阻害する立法として無効とされるべきではないか、ということであった。最高裁判所は、結論的には、これらの法律を有効と判決した。
 
[6]Passenger Cases(旅客事件),7 How,283(1849)
 Smith v. Turner;Norris v.Bostonの二つの事件の総称。この事件は、外国から港に着いた旅客に対する課税を定めたニュー・ヨーク州とマサチューセッツ州の法律を、外国との通商に対する侵害であるとして、5対4で違憲としたものである。少数意見に廻ったトー二首席裁判官は、州は、直接連邦の立法に抵触しない限り、外国との通商に関しても立法をなしうるという立場を繰り返すと共に、本件のような措置は、外国から病人や貧民が入ってくるのを防ぐためにも必要であるとした。
 
[7]License Tax Case,5 Wall 462(1867)
 1867年の歳入法は、酒類販売や富くじの販売業に従事する者に、連邦の鑑札(national license)の購入を義務づけた。有名なライセンス・タックス・ケースは、同法の合憲性についての判例であるが、最高裁判所は、この中で、同鑑札は特別税であって、酒類販売等に従事することを認める許可ではないから、州法の禁止を解除するものではない、と判示した。
 
[8]Head Tax Case,112U.S.580(1884)
 1882年法は、船長を納税義務者とし、アメリカへ移民として入国する者一人あたり50セントの人頭税(head tax)を課したところ、同税は憲法条項がいう債務の弁済、共通の防衛および一般の福祉の目的に該当しないことを理由にその違憲性が主張された。最高裁判所は、これに対し、ここで連邦議会が行使した権限に基づく同税収入は、行政経費の前払いの性質を有するものであるとし、手数料あるいは特別負担金を租税概念に含めている。この判決は、州際通商や外国通商を規制する目的で物品に租税を賦課することを、最高裁判所が支持していることを示すものである。
 
[9]McCray v. United States,193 U.S.27(1904)
 最高裁判所は、無着色マーガリンに1ポンドにつき4分の1セントを賦課し、バターに似せて着色した黄色マーガリンに対し1ポンドにつき10セントの高い租税を賦課した実定法を支持している。農民に熱狂的支持を得た同租税は、主にバター保護のためにオーレオマーガリンの生産や販売を抑制することを目的としていた。同法についての違憲主張は次のようになされた。
 (1)憲法が議会に付与した課税権は、収入を得ることに限定されるが、同法による租税は収入を得ることを目的とせず、課税物品の製造・販売を抑制することを目的にしていることは明白である。(2)当該物品の製造・販売に対する規制権は、連邦に付与されているのではなく州に留保された権限である。(3)本件の税率は、課税物品の製造や販売を否定するほどの高率であるから課税権の範囲をゆ越している。(4)課税物件の決定は差別的になされており平等原則に反する。(5)課税権は、明文の制限規定の拘束を受ける以外は無制限の権限であることは認めるにしても、修正第5条および修正第10条の制限を受ける。(6)課税権は、広汎な権限であることは認めるにしても、本件の場合はきわめて負担が過重でかつ没収的であり、自由社会で常に保護を受けるべき基本権を侵害するから無効である。
 最高裁判所は、当該法律が議会の課税権限内にあるかについての決定が先決だとして、その範囲および効果について検討し、次のように述べた。課税権は破壊権を内包する。この権限は、議会に付与された他のすべての権限と同様に、それ自体完全な権限であり、その最大の範囲で行使しうるものであるから、憲法上の明文の制限規定に服する以外は無限の権限である。課税権が課税物件に対し抑圧的に行使されるにしても、それは、裁判所の問題ではなく、議会の責任において処理される問題である。議会は、例えば、憲法が付与した通貨統制機能に付帯する権限で州銀行の証券の流通を規制することができる。議会は課税物件などの決定について無限の権限を有するから、課税物件の選択や税額の決定の妥当性について裁判所が判断することはできない。修正第5条は、憲法が明文の規定で議会に与えた課税権を撤回する条項ではないし、またそれを明文の制限規定と解することはできないとして裁判所は、租税が抑圧的であるとか、議会の権限外の物件に間接的に効果を及ぼすとかを理由にして課税権の行使を無効とすることはできない、と判断した。議会の課税権は明文の制限規定および恣意的制限規定による制限を受けるとする判例もあるが、この判例は、明文の制限規定のみの制限を受けるとし、また、間接的制限であれば議会の権限外の、すなわち州のポリス・パワー的機能も内包するとし、課税権をきわめて広汎に解したものである。
 
[10]United States v. Doremus,249 U.S.86(1919)
 この事件は、ある内科医が個人にヘロインを売ったのはハリソン麻薬取締法(the Harrison Narcotic Drug Act of 1916)違反であるとして訴えられたものである。この法律は、何人も、合法的に認められた事業や職業の遂行のための使用、売買、配布以外のいかなる目的のためにも麻薬を取得することは違法とするものである。下級審は、麻薬に対する消費税(excise tax)は、収入を目的としているものではないし、州に留保されたポリス・パワーを侵害するがゆえに違憲であるとした。これに対して最高裁判所は、この法律に基づく課税は全く租税収入を目的とするものではないが、かかる消費税を課税する権限は連邦憲法上、連邦議会の権限の範囲内であり、合憲であると、判断した。
 
[11]Nigro v.United States,276U.S.332(1928)
 連邦議会が麻薬取締法(the Anti-Narcotic Act of 1914)を制定し、一定の麻薬の売買に租税を課することとし、後一部改正をして、いかなる売買においても政府が交付する様式に記録しておかなければならないとされた。被告は、自分は法律上の販売者ではないから様式違反にはならない、として争った事件である。最高裁判所は、特別の様式の使用を強制することは租税回避を困難にするためであり、この方式は課税権の合法的な行使に含まれるし、また、課税することは、かかる薬品の売買を抑制するという附随的な作用をもつとしても適法であり、このような作用があるからといって租税が租税の性格を失うものではないとした。また、対象物が課税されることによってその使用が付随的に抑制されるからといって連邦議会が州の権限を侵害するものではないとした。
 
[12]Sonzinsky v.United States,300 U.S.506(1937)
 この判決は、火器法(the National Firearms Act)に基づいて火器を扱う商人に対してライセンス税(年税)を課することについて、租税とは何か、裁判所の判断が立法政策の是非にまで及ぶかどうかについて争われたケースであった。
 最高裁判所は、この租税は何らかの収入を生むものではあるが、裁判所としては議会の立法目的の是非に立ち入ることはできないとしつつ、この税は火器の積極的な規制を伴うものではなく、また、この課税は連邦課税権の範囲内にあるとした。
 
 以上のように、判例の流れをみてくると、課税権は、19世紀末には、収入を得るためだけでなく、連邦議会の他の権限行使を補助する目的、行為や物品を規制するなどの広汎な目的のために行使されるようになっており、連邦議会は、さらに、通商条項に基づくポリス・パワーを拡充する過程で、課税権を規制手段として利用してきていることが分かる。
 
[13]United States v. Kahringer,345 U.S.22(1953)
 1951年の賭博師職業税法(Gambler's Occupational Tax Act of 1951)の制定に伴う事例である。同税法は、賭を課税物件とし、賭博を業とし賭を受領する者を納税義務者と規定し、納税義務者に前もってその業を内国歳入庁収税官に申告する義務を課していた。プロの賭博師Kahringerは、業の申告義務および租税の納付義務を履行しなかったことにより、同租税の合憲性が争われることになったものである。地方裁判所は、同法を制定することによって連邦は、修正第10条によって州に留保されているポリス・パワーを侵害しているとして違憲判決を下した。これに対して、最高裁判所は、着色オーレオマーガリン規制課税、麻薬規制課税、火器やマリファナ規制課税などの判例で裁判所が規制的課税を支持していることは明白である。連邦消費税は、課税物件(課税客体)に規制的影響を与えることを理由として、その効力を否定されたことはない。また、収入源としては無視しうる程の少額の税収しか得ることができない租税をそのことを理由にその有効性が否定された例もない。同法は州内において違法な賭博行為を課税のかたちで処罰することを唯一の目的とするものであると被上告人は主張するが、前述したように、すでに有効性が是認されている消費税と同じく、本件の租税も規制的効果をもつ。それにも関わらずこの租税は一定の収入をもたらすことを考慮に入れると、麻薬規制課税や火器やマリファナ規制課税などに比較し同税を無効とする根拠はない。連邦議会の課税権は広汎な権限であるから、それでもって、一般の福祉の増進のために不要もしくは有害な事業などに破壊的効果(crushing effect)を与えることも可能であり、麻薬取引などを課税物件にする場合のように、租税の賦課徴収が困難なものを課税物件としてそれを行使することもできる。このようなことは自明の理(axiomat)である、と述べている。
 なお、1974年のCity of Pittsburgh v. AICO Parking Co.でも最高裁判所は、広汎な課税権を認め、租税が過重なため事業の採算がとれなくなるとか、事業としてなりたたなくなるという事実で租税を違憲とすることはできないし、また裁判所は、そのような事実から推論して、議会が課税権にみせかけて、憲法で授権された以上の権限を行使しようとするものと判断してはならないと判示している。
 
(4)小括
 連邦憲法の課税権条項を中心とした課税権の憲法原則について、次のように解釈されている。連邦議会の課税権はきわめて広汎な権限である。それは憲法で授権された権限であり、それには一つの禁止と二つの条件が付されているに過ぎない。憲法は、輸出に課税することはできないとする課税物件に対する一つの禁止を定め、直接税の賦課に関する配分原則(rule of apportionment)及び間接税の賦課に関する均一原則(rule of uniformity)の条件を付しているが、これらの制限内であれば議会は、いかなる制限も受けることなしに課税権を行使することができる。議会は自由裁量によって課税権を広汎に行使することができる。
 唯一の課税物件の禁止条項である連邦憲法第1条第9節第5項は、「各州から輸出される物品には、租税あるいは関税を賦課することはできない」と規定し、直接税の賦課に関する配分原則について第1条第9節第4項は、「人頭税その他の直接税は前(第2節第3項)に規定した調査あるいは計算にもとづく割合によるのでなければ賦課することはできない。」とし、第2節第3項は、「……直接税は、連邦に加入する各州の人口に比例して、各州の間に配分される」と規定している。第2節第3項については、修正第16条において「議会は、いかなる源泉から生ずる所得に対しても、各州の間に配分することなく、また人口調査もしくはその他の人口算定に準拠することなしに、所得税を賦課徴収する権限を有する」と規定しているため、所得課税には配分原則の適用は排除されている。均一原則について第1条第8節第1項但し書きは、「すべての関税、輸入税、消費税は、合衆国全土を通じて均一でなければならない」と規定している。
 このような規定の下にこれまでの判例を概観した結果、課税権の授権規定はきわめて包括的であり、憲法はしかも税率を制限する規定も有しないから、課税権は、収入目的ではなく、福祉増進のために規制的に行使することができるとする考え方が支配的であることが分かる。この考え方は、課税権をポリス・パワーとして行使しうることを認めるものであり、有害な物件や経済活動を破壊することを目的として行使することができると解されている。しかも、課税権は、憲法の明文の制限規定および判例で確立された制約に拘束されるほかは何の制限も受けず、議会の自由な裁量で行使することができる。
 このような考え方の基になるものとして、最高裁判所は、「課税権は、破壊権を内包する(the power to tax involves the power to destroy)」とする課税権についての基本的理解に依っているわけである。
 以上のようにみてくると租税は、公権力が政府の維持、規制もしくは特定の社会的目的を促進するために、個人または法人から強制的に徴収する強制分担金(compulsory contribution)であると定義される。従って、目的税、手数料および受益者負担金も租税概念に含めて考えているといえる。また、利子税や加算税などの附帯税も租税に含まれることになる。
 Musgrave教授は、憲法の租税条項を概観したあと、配分原則は修正第16条で事実上除外されているから、課税権を拘束する規定は均一原則条項だけであり、そして、租税(taxation)は規制目的のために行使されることは、ますます、明白になっている、といい、租税は、購買に対する任意な支払ではなく、どのような租税法が制定されようとその規定に基づいて、納付することが求められている強制的負担(mandatory impositions)である、と定義している。
 
〔参考〕附帯税について
 わが国の実定法において、附帯税とは、一定の事由に該当する場合に本税に附帯して納付しなければならない延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税をいう。その額の計算の基礎となる税額の属する税目の国税とされている(国税通則法第2条第4号、第60条第4項、第64条第3項、第69条)。なお、この外に印紙税法上の過怠税の税目は印紙税であり、これも広く附帯税と解され、国税の一部とされている。
 地方税の場合には、地方税法において、国税におけるような附帯税という名称は用いられていない。地方税法では、国税の延滞税に相当するものが延滞金と呼ばれ(同法第72条の44第2項〜第4項、第72条の45、第72条の45の2、第326条、第327条、第369条)、国税の加算税に相当するものが加算金(同法第72条の46、第72条の47)と呼ばれている。
 延滞税ないし延滞金は、納税義務者が法定納期限内に国税ないし地方税を納付しない場合に、その不納付税額及び不納付期間に応じて課されるものであるが、それは納税義務の不履行に伴う損害賠償たる性質の遅延利息であり、また利子税は申告期限の延長、延納などが認められる場合にその延長又は延納の期間に応じて課されるもので、延長又は延納を認められない納税義務者との負担の均衡を図るための単なる利息としての性質を有するにすぎない。したがって、これらは制裁として課されるものではない。
 加算税ないし加算金は原則として、申告納税方式が適用される場合に、納税義務者が法定申告期限内に正しい申告をしないで申告義務に違反したときにそれに対する行政上の制裁として課される行政罰の一種である。また、不納付加算税ないし不申告加算金(同重加算税ないし同重加算金)は、申告義務違反に対してではなく、租税の納付義務ないし納入義務(源泉徴収納付義務ないし特別徴収納入義務)違反に対して課される。なお、印紙税法上の過怠税は不納付加算税と同じように印紙税の納付義務違反に対する行政罰である(但し、滞納税額相当分は除く。)。
 上記の附帯税ないし附帯債務は、国税の場合は税と呼ばれているが、本来の意味における租税ではなく、実定法上これらの附帯債務が租税とされているのは本税と合わせて附帯税を徴収するのが便宜に合するからである、と説明されている(金子 宏「租税法」(第八版、弘文堂)、滝永 敬次「税法」(第五版、ミネルヴァ書房))。








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