II 早期退職優遇措置制度の導入状況
我が国の企業における経営環境は、長期にわたる不況により、ほぼ全産業において企業収益が減少を続けるなど非常に厳しい状況が続いている。このような経営環境の悪化に伴って、各企業においては人件費コストの高い中高年労働者の雇用の維持が困難になってきており、最近では希望退職者の募集など早期退職優遇措置制度を導入し、雇用調整の一つの手段としている企業が多くなってきているのが現状である。これらの状況を踏まえ、本年は、特に企業における早期退職優遇措置制度について、その導入状況、適用制限及び活用の状況について調査・分析を試みることとした。
1. 過去1年間における早期退職優遇措置制度の導入状況〔第7・8表参照〕
一般的に、企業における雇用調整の手段としては、まず残業の規制を行い、その後に中途採用の削減・停止、配置転換、出向等を実施し、一時帰休や希望退職の募集は比較的少ないと言われているが、最近の新聞報道等を見ると特に早期退職優遇措置制度を導入し活用している企業が多くなっているようである。そこで、平成12年10月から平成13年9月までの1年間におけるこの制度の導入状況、導入予定等を調査した。
その結果、回答を寄せた企業は270社で、そのうちこの早期退職優遇措置制度を「導入した」企業は30.0%と、この1年間だけでも3割の企業で導入していることが分かった。また、今後「1年間以内に導入の予定」の企業が2.6%、現在導入について「検討中」の企業が11.8%となっており、これらを合わせると44.4%にのぼっている。特に調べなかったが平成12年10月以前にすでに導入した企業も考慮すると、過半数の企業ではこの制度を導入し、または予定しているようである。この制度は長期にわたって運用することよりも短期間に人件費の圧縮を行うことに主眼を置くものであり、長引く景気低迷を受けて各企業とも経営の建て直しに努力している様子が伺える。
これらの状況を企業規模別及び産業別にみると、以下のとおりとなっている。
ア 企業規模別
導入状況について企業規模別にみると、「導入した」については「5千人以上」の企業が41.8%と最も割合が高く、以下「3・4千人台」が33.3%、「千人未満」が28.1%、「1・2千人台」が24.3%の順となっている。一方、「導入しない」とする企業は、「千人未満」で65.6%と6割を超え、以下「1・2千人台」が57.4%、「3・4千人台」が47.2%、「5千人以上」が45.5%となっていて、規模の大きな企業ほど早期退職優遇措置制度の導入に当たっての企業割合が多くなっていることが分かった。
第7表 過去1年間における早期退職優遇措置制度の導入状況
[1]企業規模別
項目\回答企業数\企業規模 |
計 |
5千人以上 |
3・4千人台 |
1・2千人台 |
千人未満 |
270社 |
55社 |
36社 |
115社 |
64社 |
導入した |
30.0% |
41.8% |
33.3% |
24.3% |
28.1% |
1年以内に導入の予定 |
2.6 |
1.8 |
5.6 |
3.5 |
− |
検討中 |
11.8 |
10.9 |
13.9 |
14.8 |
6.3 |
導入しない |
55.6 |
45.5 |
47.2 |
57.4 |
65.6 |
イ 産業別
導入状況を産業別についてみると、「農林漁業、鉱業、建設業」で「導入した」が35.7%、「検討中」が21.4%といずれも最も高い割合となっており、この2つを合わせると57.1%とおおむね6割に達している。次いで「電気・ガス・熱供給・水道業、サービス業」で「導入した」が27.8%、「1年以内に導入の予定」が5.5%、「検討中」が16.7%と合わせて50.0%となっている。一方、「運輸・通信業」は、「導入しない」とする企業の割合が77.8%と最も高く、「導入した」は22.2%で、「導入の予定」及び「検討中」とする企業はないなど、早期退職優遇措置制度の導入が一番少ない業種であった。
第8表 過去1年間における早期退職優遇措置制度の導入状況
[2]産業別
項目\回答企業数\産業 |
計 |
農林漁業、鉱業、建設業 |
製造業 |
電気・ガス・熱供給・水道業、サービス業 |
運輸・通信業 |
卸売・小売業、飲食店 |
金融・保険業、不動産業 |
270社 |
28社 |
144社 |
18社 |
9社 |
48社 |
23社 |
導入した |
30.0% |
35.7% |
32.6% |
27.8% |
22.2% |
25.0% |
21.7% |
1年以内に導入の予定 |
2.6 |
− |
3.5 |
5.5 |
− |
2.1 |
− |
検討中 |
11.8 |
21.4 |
9.7 |
16.7 |
− |
12.5 |
13.1 |
導入しない |
55.6 |
42.9 |
54.2 |
50.0 |
77.8 |
60.4 |
65.2 |
2. 早期退職優遇措置制度の適用制限〔第9・10表参照〕
早期退職優遇措置制度は、長期にわたる不況、急激な円高の進展などによる企業の経営環境の悪化に対応するため、多くの企業が人員削減も含めたリストラクチャリングによるコストの削減を余儀なくされ、特に中高年労働者の雇用の維持が困難となってきていることにより、その対策として早急に導入が図られてきたものである。従って、その適用に当たっては、導入の趣旨に沿ったものでなければならないので種々なる制限が設定されているものと考えられ、その適用の制限について調査してみた。
回答は、この制度を過去1年間に導入した企業及び導入を予定している企業のうち、86社から得た。その結果、適用制限を「年齢と勤続年数の両方」に設定している企業が52.3%と全体の過半数を占めており、「年齢制限のみ」が38.4%と適用に当たって年齢を条件としている企業が9割を超えていた。なお、「いずれの条件もない」は僅かに4.7%であった。従って、当初予測のとおり早期退職優遇措置制度を導入した企業の大半ではその適用に当たって、無制限に行っていたものではないことが明確となった。
これらの状況を企業規模別及び産業別にみると、以下のとおりとなっている。
ア 企業規模別
「千人未満」を除き、他の規模の全てについて、その適用制限を「年齢と勤続年数の両方」とするものが過半数を超えている。すなわち、「5千人以上」の企業で68.2%、「3・4千人台」の企業で50.0%、「1・2千人台」の企業で59.4%となっており、「年齢制限のみ」についてもこれらの規模企業はいずれも30%前後となっている。「千人未満」の企業では「年齢制限のみ」が61.1%と圧倒的に他規模の企業に比しその割合が高く、「いずれの条件もない」も同様に11.1%と他規模に比し高い割合となっている。なお、「5千人以上」の企業については唯一「いずれの条件もない」としている企業が無いことが目立っている。
第9表 早期退職優遇措置制度の適用制限の有無
[1]企業規模別
項目\回答企業数\企業規模 |
計 |
5千人以上 |
3・4千人台 |
1・2千人台 |
千人未満 |
86社 |
22社 |
14社 |
32社 |
18社 |
年齢制限のみ |
38.4% |
27.3% |
35.8% |
34.4% |
61.1% |
勤続年数制限のみ |
2.3 |
− |
7.1 |
− |
5.6 |
年齢と勤続年数の両方 |
52.3 |
68.2 |
50.0 |
59.4 |
22.2 |
その他 |
2.3 |
4.5 |
− |
3.1 |
− |
いずれの条件もない |
4.7 |
− |
7.1 |
3.1 |
11.1 |
イ 産業別
次に、これらを産業別についてみると、「製造業」以外は回答企業数が少ないため、確たることはいえないものの、その全てで「いずれの条件もない」と回答した企業が無く、適用に当たって制限を設けていないのは「製造業」のみという結果であった。
第10表 早期退職優遇措置制度の適用制限の有無
[2]産業別
項目\回答企業数\産業 |
計 |
農林漁業、鉱業、建設業 |
製造業 |
電気・ガス・熱供給・水道業、サービス業 |
運輸・通信業 |
卸売・小売業、飲食店 |
金融・保険業、不動産業 |
86社 |
9社 |
51社 |
6社 |
2社 |
13社 |
5社 |
年齢制限のみ |
38.4% |
44.4% |
39.2% |
16.7% |
50.0% |
46.2% |
20.0% |
勤続年数制限のみ |
2.3 |
11.2 |
2.0 |
− |
− |
− |
− |
年齢と勤続年数の両方 |
52.3 |
44.4 |
49.0 |
66.6 |
50.0 |
53.8 |
80.0 |
その他 |
2.3 |
− |
2.0 |
16.7 |
− |
− |
− |
いずれの条件もない |
4.7 |
− |
7.8 |
− |
− |
− |
− |
3. 早期退職優遇措置制度の適用制限の内容〔第11・12表参照〕
早期退職優遇措置の適用制限の有無については前記のとおりであるが、その制限の内容についても調査を行った。その結果は、当初に予想していたとおり、この制度の導入が人件費コストの高い中高年労働者の早期退職による人件費コストの縮減を目的としたものであることに鑑み、年齢制限ではその適用対象となる下限の年齢を「40歳以上50歳未満」の間で設定している企業が43.3%、「50歳以上」で設定している企業が45.9%であり、40歳以上の中高年労働者をその対象としている企業が9割程度あった。早期退職優遇措置制度を導入した企業では、人件費コストの高い中高年労働者の削減についていかに意を用いているのかが伺える。一方、勤続年数による制限についてはその適用対象となる下限の勤続年数を「勤続10年以上20年未満」の間で設定している企業が46.5%、「勤続20年以上」で設定している企業が37.2%あり、この2つで回答企業の8割を超えていた。退職金の割増などに代表される優遇措置を適用するに当たっては、少なくとも10年以上にわたって企業に貢献した者を対象として考えていることの現れであろう。
これらの状況を企業規模別及び産業別にみると、以下のとおりとなっている。
ア 企業規模別
企業の規模別に適用制限の内容をみると、年齢制限については、「千人未満」の企業では「50歳以上」で設定する企業が84.6%と他規模の企業に比し2倍以上の比率となっており、「40歳未満」で設定する企業は無いなど、小規模企業ではこの制度の適用者を特に高年齢雇用者に重点を置いている様子が伺える。他の規模の企業では中堅層ともいえる「40歳未満」で適用年齢を設定している企業が8.3〜15.8%あるなど、比較的幅広い年齢層で希望者を募っているようである。
次に勤続年数制限についても、回答企業数が少ないためはっきりとした傾向とはいえないが、「千人未満」の企業でその66.7%が「勤続20年以上」の者を対象とするなど、勤続年数の長い者を早期退職優遇措置制度適用の重点に置いていることが想像できる。他の規模の企業については「勤続10年未満」という比較的早い時期からこの制度を適用するなど、幅広く希望者を募っている様子が伺える。
第11表 早期退職優遇措置の適用制限
[1]企業規模別
項目\企業規模 |
計 |
5千人以上 |
3・4千人台 |
1・2千人台 |
千人未満 |
年齢制限 |
74社 |
19社 |
12社 |
30社 |
13社 |
  |
40歳未満 |
10.8% |
15.8% |
8.3% |
13.3% |
-% |
40歳以上50歳未満 |
43.3 |
47.4 |
58.4 |
46.7 |
15.4 |
50歳以上 |
45.9 |
36.8 |
33.3 |
40 |
84.6 |
勤続年数制限 |
43社 |
13社 |
8社 |
19社 |
3社 |
  |
勤続10年未満 |
16.3% |
15.4% |
25.0% |
15.8% |
-% |
勤続10年以上20年未満 |
46.5 |
53.8 |
37.5 |
47.4 |
33.3 |
勤続20年以上 |
37.2 |
30.8 |
37.5 |
36.8 |
66.7 |
イ 産業別
次に、適用制限の内容を産業別についてみると、まず年齢制限では、「金融・保険業、不動産業」では回答企業数が5社と少ないものの、全てが「40歳以上50歳未満」の間で設定しているのが目立っている。
第12表 早期退職優遇措置の適用制限
[2]産業別
項目\産業 |
計 |
農林漁業、鉱業、建設業 |
製造業 |
電気・ガス・熱供給・水道業、サービス業 |
運輸・通信業 |
卸売・小売業、飲食店 |
金融・保険業、不動産業 |
年齢制限 |
74社 |
8社 |
43社 |
5社 |
2社 |
11社 |
5社 |
  |
40歳未満 |
10.8% |
12.5% |
11.6% |
20.0% |
50.0% |
-% |
-% |
40歳以上50歳未満 |
43.3 |
25.0 |
39.5 |
20.0 |
- |
63.6 |
100.0 |
50歳以上 |
45.9 |
62.5 |
48.9 |
60.0 |
50.0 |
36.4 |
- |
勤続年数制限 |
43社 |
5社 |
24社 |
4社 |
1社 |
5社 |
4社 |
  |
勤続10年未満 |
16.3% |
20.0% |
20.8% |
-% |
100.0 |
-% |
-% |
勤続10年以上20年未満 |
46.5 |
40.0 |
45.9 |
100.0 |
- |
20.0 |
50.0 |
勤続20年以上 |
37.2 |
40.0 |
33.3 |
- |
- |
80.0 |
50.0 |
4. 過去1年間の早期退職優遇措置の利用者割合〔第13・14表参照〕
早期退職優遇措置制度を導入した企業について、過去1年間にこの優遇措置を利用して実際に退職した者の状況を調査してみた。
調査は過去1年間に早期退職優遇措置制度を導入し、同制度を利用して退職した者の人数と当該企業における正社員数との比率で行った。その結果をみると、この制度を利用して退職した者の人数は、正社員の「1%未満」と回答した企業の割合が28.8%と最も高く、次いで「1%以上2%未満」が27.3%となっており、2%未満の企業が56.1%と全体の過半数を占めている。反面、「5%以上10%未満」と退職者の比率が高い企業が10.6%あり、「10%以上」の企業も16.6%あり、正社員の5%以上に当たる人数の者が早期退職優遇措置を利用して退職している企業が回答企業の4分の1以上あるなど、意外にも両極端なものとなっていた。
これらの状況を企業規模別及び産業別にみると、以下のとおりとなっている。
ア 企業規模別
企業規模別では、「5千人以上」の大企業では、「1%未満」が33.3%、「1%以上2%未満」が40.0%といずれも他規模の企業と比べ最も高い比率となっているが、反面、「10%以上」では他規模の企業に比し最低の比率となっている。一方、「千人未満」の企業では「10%以上」が29.4%と他規模の企業と比べて最も高い比率となっており、規模が大きくなるほどその比率は小さいものとなっている。このことから、長引く景気の低迷が「千人未満」の小規模企業に与えた影響の大きさが垣間見られる結果となった。
第13表 過去1年間の早期退職優遇措置利用者割合
[1]企業規模別
項目\回答企業数\企業規模 |
計 |
5千人以上 |
3・4千人台 |
1・2千人台 |
千人未満 |
66社 |
15社 |
12社 |
22社 |
17社 |
1%未満 |
28.8% |
33.3% |
25.0% |
31.8% |
23.5% |
1%以上2%未満 |
27.3 |
40.0 |
16.7 |
18.2 |
35.3 |
2%以上3%未満 |
9.1 |
13.3 |
8.3 |
9.1 |
5.9 |
3%以上4%未満 |
7.6 |
6.7 |
8.3 |
9.1 |
5.9 |
4%以上5%未満 |
− |
− |
− |
− |
− |
5%以上10%未満 |
10.6 |
− |
33.4 |
13.6 |
− |
10%以上 |
16.6 |
6.7 |
8.3 |
18.2 |
29.4 |
イ 産業別
次に、これらを産業別についてみると、「農林漁業、鉱業、建設業」で優遇措置の利用者割合は「10%以上」とする企業の割合が42.8%と他の産業に比し最も高い比率となっている。回答社数の多い「製造業」については、「1%未満」の企業が33.3%と比較的高い割合であったが、その他の割合にも万遍なく分布している。なお、「金融・保険業、不動産業」については、回答社数が5社と少ないが、もっぱら4%未満に分散しているのが特徴となっている。
第14表 過去1年間の早期退職優遇措置利用者割合
[2]産業別
項目\回答企業数\産業 |
計 |
農林漁業、鉱業、建設業 |
製造業 |
電気・ガス・熱供給・水道業、サービス業 |
運輸・通信業 |
卸売・小売業、飲食店 |
金融・保険業、不動産業 |
66社 |
7社 |
36社 |
5社 |
2社 |
11社 |
5社 |
1%未満 |
28.8% |
28.6% |
33.3% |
20.0% |
−% |
27.3% |
20.0% |
1%以上2%未満 |
27.3 |
14.3 |
19.5 |
40.0 |
50.0 |
45.4 |
40.0 |
2%以上3%未満 |
9.1 |
14.3 |
11.1 |
− |
− |
− |
20.0 |
3%以上4%未満 |
7.6 |
− |
8.3 |
20.0 |
− |
− |
20.0 |
4%以上5%未満 |
− |
− |
− |
− |
− |
− |
− |
5%以上10%未満 |
10.6 |
− |
13.9 |
20.0 |
50.0 |
− |
− |
10%以上 |
16.6 |
42.8 |
13.9 |
− |
− |
27.3 |
− |