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第2 施策の基本的方向性
 
(1)目標と視点
 平成9年大綱の目標年次を迎えた今、平成9年大綱で示された3つの基本的目標の達成に向けて政府として努力を継続することはもちろん、顕在化してきた新たな課題を克服し、21世紀を迎えた我が国経済社会にふさわしい新たな物流システムの形成を目指していく必要がある。
 このため、国際的に遜色のない水準のサービスを目指す姿勢から、新大綱においては、一歩踏み込んで、物流分野において、コストを含めて国際的に競争力のある水準の市場が構築されることを目標として、総合的な施策を推進する。同時に、環境問題の深刻化を始めとする社会的課題への対応や豊かな国民生活の実現が強く求められていることを踏まえ、物流の利便性及び効率性の向上等に加え、環境負荷を低滅させる物流体系の構築と循環型社会への貢献を目指すこととする。これらの目標を、可能な限り早期に、遅くとも平成17年(2005年)までに達成することを目指して、今後の物流施策を講じることとする。
 その際、施策の優先度を明確化し、重点的・効率的な施策を展開することが重要であり、政府は、以下の視点に基づき、速やかに施策の推進を図ることとする。
 
[1] 政府及び民間の関係
 国内外における競争の一層の激化、物流分野における規制改革の進展等にかんがみ、民間セクターにおいては、自由で公正な競争を通じた様々な創意工夫等により、効率的な物流システムの実現に重要な役割を担うことが期待される。その際、物流コストの明確化や企業内・企業間における情報共有化等を通じた無駄の排除を一層進めることが重要であり、物流コストのより正確かつ適切な把握、情報化・標準化を活用した効率的な手段の積極的利用、過度な多頻度小口・時間指定配送の是正等の効率的な商慣行の構築、共同化・集約化の推進等の取組などが必要である。
 一方、政府においては、民間セクターの活力が発揮されるためのハード・ソフト両面の環境整備を行うとともに、都市部における渋滞や環境問題等民間セクターのみでは解決できない社会的課題の解決に向けた取組を行う。
 
[2] 国及び地方公共団体の関係
 国・地方公共団体の適切な機能分担・連携の下、施策の推進を図ることが必要である。全国レベルでの効率的な物流ネットワークの構築・維持に向けた施策の推進、輸送機器の規制レベルの整合性の確保等については国が責任を持ってこれを行う一方、物流システムと地域社会との調和や循環型社会の構築の必要性が高まっていることにかんがみ、都市内の交通需要マネジメント(TDM)など地域内物流に係る分野においては、国と連携しつつ、地方公共団体が重要な役割を果たすことが期待される。
 
[3] 公正かつ競争的な物流サービス市場の構築
 我が国の物流システムの効率性を高め、新規参入が進み新たな業態・サービスが生み出されるような国際的にも魅力的な活力ある事業環境を創出するためには、残された規制の見直し等制度面からの取組とともに、情報化の推進、商慣行改善に係る施策等総合的な活性化施策の取組を通じて競争を促進し、公正かつ競争的な物流サービス市場の構築を図ることが必要である。
 
[4] 物流関連社会資本の重点的・効率的な整備等
 物流の利便性、効率性等の向上、環境負荷の少ない物流体系の構築等に資するため、各輸送モードの効率化と相互の乗り継ぎ利用の円滑化に資する社会資本の整備に積極的に取り組む必要がある。
 この場合、我が国財政の置かれた厳しい現況を踏まえて、徹底した費用対効果の検討を通じた重点化・効率化を図るとともに、新技術の導入、運営方式の改善等による既存施設の高度かつ効率的な利用を進めることが重要である。
 
(2)施策の方向性
 
[1] 国際競争力のある社会実現のための高度かつ全体効率的な物流システムの構築
 国内物流・国際物流それぞれについて、リードタイムの短縮、定時性の確保等の利便性の向上及びトータルコストの低減に向けた環境整備に努め、高度かつ荷主、物流事業者双方にとって全体効率的な物流システムの実現を図る。
 
(ア) 高度かつ全体効率的な物流システムの構築
 民間セクターの活力が発揮されるためのハード・ソフト両面の環境整備を図るとともに、高度かつ全体効率的な物流システムを構築する観点から、所要の施策を講じる。
 具体的には、物流の共同化・情報化を進めるとともに、特に都市部における受荷主を中心とする効率的な物流システムにより過度の多頻度輸送を改善した事例なども踏まえた、非効率な商慣行の改善等に向けた荷主、物流事業者の自主的な取組を促進する。
 加えて、民間事業者が事業活動を弾力的かつ円滑に行うことができるよう、物流分野における規制改革や行政手続の簡素化・効率化を図る。また、物流システムの高度化・効率化に資するための所要の技術開発やモードを超えた総合的な物流サービスの提供を促進する方策の検討を行う。
 また、作業効率性の向上を図り、高齢者や女性にも適した作業環境を整えるためには、パレタイズ可能貨物についてはパレット利用を作業の標準とする必要がある。このような考え方に立ち、平成17年までに、パレタイズ可能貨物のうちのパレタイズ比率を約9割に上昇させるとともに、標準パレットの比率を欧米並にすることを目指す。標準パレットの利用促進やプールシステムの普及等により、一貫パレチゼーションを中心としたユニットロード化を進展させる。
 国内の地域間物流においては、多様な輸送モード間の競争と相互の連携、利用者の自由な選択を通じて適切な役割分担がなされる交通体系の構築を目指すマルチモーダル施策を推進し、効率化を図る。トラック輸送については、全国的な幹線道路ネットワーク整備、物流拠点整備、幹線共同運行の促進等による効率化を進める。内航海運については、船舶の大型化・高速化等による効率化を進める。また、海上輸送の効率性と船舶航行の安全性とを両立させた海上ハイウェイネットワークの構築を進めることとし、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの拠点的整備等により、陸上輸送半日往復圏の人口カバー率を21世紀初頭までに約9割まで上昇させる。貨物鉄道については、主要幹線鉄道の貨物輸送力強化と所要時間の短縮を進める。さらに、各輸送モード間を相互に連結するアクセス道路と結節点施設の整備を進め、21世紀初頭までに自動車専用道路等のICから10分以内に到達可能となる主要な空港及び港湾の割合を約9割にすることを目指す。
 都市内物流においては、深刻な交通渋滞を緩和して、トラック輸送の定時性と速達性を高めるため、環状道路の整備等による交通容量の拡大とTDM施策に積極的に取り組んでいく。併せて、物流行政、都市行政、道路行政等が連携して、幹線輸送と都市内集配輸送の積替え機能を有する物流拠点の適正配置や都市内集配拠点の整備を推進する。これらにより、21世紀初頭までに、三大都市圏における人口集中地区の朝夕の平均走行速度を25キロメートル毎時に改善するとともに、トラック全体の積載効率を50%に引き上げることを目指す。
 
(イ)国際物流拠点の機能強化等
 我が国の国際競争力の維持・向上の観点から、ボトルネックを解消し、国際物流拠点の機能強化等を図る。
 このため、中枢・中核国際港湾及び大都市圏拠点空港、高規格幹線道路等の幹線道路ネットワーク並びにこれらを相互に連結するアクセス道路や関連する物流施設を重点的に整備するとともに、ITS等の新技術を活用した既存施設の管理運営の高質化・能力向上を推進する。
 また、ソフト面では、港湾物流分野について、引き続き、利便性の向上、リードタイムの短縮を推進する。具体的には、港湾荷役の効率化やサービスの向上を図ることに加え、官民両セクターが連携して、24時間フルオープン化に向けた取組を行う。輸送結節点である港湾・空港においては、輸出入や施設使用に関する多くの行政手続が必要とされ、また、多くの関係者間で多様な取引が行われることから、情報化の程度が、国際物流の効率性を大きく左右する。このため、輸出入及び港湾諸手続に関する電子化(ペーパーレス化)を平成15年度までに実施し、引き続き、できる限り早期に、ワンストップサービス化を完了する。
 さらに、貿易関連手続については、適正さを確保しつつ、より簡素化・効率化するため、通関手続等の各種行政手続の改善を行うとともに、民間におけるEDIの導入を促進しつつ、官民間の情報ネットワークの相互接続等に取り組む。
 これらの措置により、船舶が入港してから申告までに必要な時間などを短縮し、平成17年度までに、輸入コンテナ貨物について、入港から貨物がコンテナヤードを出ることが可能となるまでに必要な時間を2日程度にすることを目指す。
 
[2] 社会的課題に対応した物流システムの構築
(ア)地球温暖化問題への対応
 「京都議定書」の温室効果ガス排出削減目標の達成に向け、物流分野においても排出抑制策を強化する。
 このため、輸送機関単体の燃費面での性能向上を図るほか、トラック輸送の効率化の観点から、車両の大型化、情報化・共同化を促進するとともに、幹線道路の改築等による交通円滑化、物流拠点整備支援等の施策を推進する。
 また、鉄道の輸送力増強・所要時間の短縮やモーダルシフト船の整備等を促進するとともに、環境負荷の少ない大量輸送機関である鉄道貨物輸送・内航海運の活用(モーダルシフト)を推進し、モーダルシフト化率(長距離雑貨輸送における鉄道・内航海運分担率)を向上させ、平成22年(2010年)までに50%を超える水準とすることを目指す。
 さらに、荷主や物流事業者が、自らの物流に係る事業活動による二酸化炭素排出量の把握や環境負荷の少ない輸送システムヘの転換を行うこと等、民間セクターに期待される自主的な取組が促進されるよう所要の環境整備を行う。
 
(イ)大気汚染等の環境問題への対応
 大都市における粒子状物質(PM)、窒素酸化物(NOx)等の環境問題に対応するため、関係機関が連携して、地域毎の特性に合わせた物流システムの改善に取り組むことが重要であり、発生源である自動車単体の排出ガス規制の強化、低公害車・クリーンエネルギー自動車等の開発・普及等や、積載効率の向上等のトラック輸送の効率化、環状道路の整備等による交通容量の拡充、TDM施策等の施策を総合的に推進する。
 さらに、都市中心部のトラックの通過交通を回避する輸送手段として、鉄道等の活用につき検討する。
 
(ウ)循環型社会実現のための静脈物流システムの構築
 地方公共団体とも連携して、今後のリサイクル拠点の配置にも対応しつつ、循環型社会の実現に貢献する新たな物流システムを構築していく。
 具体的には、効率的な物流システムの検討、必要な施設の整備等の環境整備を行うとともに、静脈物流の環境負荷を極力小さいものとする観点から、鉄道・海運の利用の推進に取り組む。
 
(エ)事故防止等物流の安全問題への対応
 運送事業者の運行管理の充実や大型トラックの速度抑制等、事故の未然防止や拡大防止のための施策を強化する。一方で、技術の進展等を踏まえ、安全基準の適時適切な見直しを行う。
 
[3] 国民生活を支える物流システムの構築
 高齢化やeコマースの進展に即応した付加価値の高い物流サービスなど国民生活の多様化に的確に対応したサービスの提供を促進するとともに、物流事業に関する大幅な規制改革の下で、このような創意工夫に満ちた商品の開発が期待されているが、その場合においても、事後チェック型の適切な市場の監視を行うことにより、安定的かつ円滑な物流システムの確保や消費者利便の保護を図る。
 また、都市部において、作業空間が十分に確保されていないため、物流作業が市民の通行等の障害となり、また、作業効率の低下を招いている場合がある。このような点にかんがみ、国民生活を支える物流が快適な都市生活と調和するよう、街づくりにおいて物流の円滑化にも配慮した取組を行う。
 さらに、災害等の緊急時への対応など国民生活を支えるために必要な物流機能を確保する。
 
(3)今後の推進体制について
[1] 国における推進体制
 省庁再編により、物流に関わる各種行政がより連携して、施策を実施することが可能になる体制が発足したが、関係機関がこれまで以上の緊密な連携を図り、新大綱に基づき、総合的かつ一体的な物流施策を推進する。さらに、施策の着実な実施を図り、実施状況を広く国民に知らせるため、年1回程度のフォローアップを実施し、その成果を公表する。
 
[2] 地域における推進体制
 国の出先機関、地方公共団体、物流事業者、荷主等による地域の実情に応じた連絡体制の下、引き続き総合的な施策の推進を図る。
 その際、地域毎の課題に応じて、取組を重点化するとともに、必要に応じ他の地域と連携する等により、効果的な施策の実施を図る。








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