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新総合物流施策大綱
平成13年7月6日
閣議決定
第一部 基本的考え方
はじめに
 
 政府は、平成9年4月に「総合物流施策大綱」(以下「平成9年大綱」という。)を策定し、平成13年を目途に、関係省庁が連携して第1に掲げる3つの目標の実現に向けて、諸施策を着実に実施してきた。
 他方、平成9年大綱策定以降の我が国経済を巡る情勢は、世界経済のグローバル化、情報化が一層進展する等の中で、国際的に魅力ある事業環境及び生活環境の創出並びに我が国産業競争力の強化に向けて効率的な物流基盤の整備を進める必要性が依然として顕在していることに加えて、環境問題の深刻化、循環型社会の構築等物流を巡る新たな課題への対応が求められている。
 このため、昨年12月に閣議決定された「経済構造の変革と創造のための行動計画(第3回フォローアップ)」においても、平成9年大綱改定の方針が示されているところである。
 かかる状況を踏まえ、平成9年大綱を見直し、今後も手を緩めることなく、新たな課題にも積極的に対応した物流システムを構築すべく、新たな総合物流施策大綱(以下「新大綱」という。)を策定する。
第1 平成9年大綱の評価と新大綱策定の必要性
 
 物流分野においてコストを含めて国際的に遜色のない水準のサービスの実現を図ることを目指して策定された平成9年大綱は、3つの目標を掲げたが、現時点において、その実施状況を振り返れば、以下のとおりである。
 「アジア太平洋地域で最も利便性が高く魅力的な物流サービスの提供」という目標に関しては、関連施策が着実に実施され、一定の効果を上げてきたものの、アジア太平洋地域において先進的な国際港湾等の整備も進み、我が国と比べコンテナ貨物の取扱量を大きく伸ばしている中、我が国の国際港湾においては、コンテナ貨物取扱量の伸びは低位にとどまっているほか、船舶の大型化や港湾のフルオープン化への対応や輸出入及び港湾諸手続に関する電子化・ワンストップサービス化の実現による一層の簡素化・効率化の必要性も依然として指摘されている。また、国際港湾等と高規格幹線道路網との接続は逐次改善されてきているものの、道路、港湾、空港等の物流関連社会資本等の機能強化と各輸送モード間のアクセスの改善、都市内交通の円滑化、物流システムの一層の標準化・情報化、非効率な商慣行の改善等が依然として課題となっている。これらの事情から、アジア太平洋地域との相対的な関係を変化させるまでには至っていない。
 また、「産業立地競争力の阻害要因とならない水準のコストでの物流サービスの提供」という目標に関しては、我が国の物流コストはわずかではあるものの低下傾向にあり、例えば、米国と比較しても必ずしも高いとは言えない水準にあるが、アジアの先進港湾に比べ港湾諸料金は概ね高い水準にあり、あらゆる面で国際的な競争が従来以上に激化している中、我が国の国際競争力を高めていくために、引き続きその低減に努めていくことが重要である。
 さらに、「物流に係るエネルギー問題、環境問題及び交通の安全等への対応」という目標に関しては、物資輸送の円滑化のためのハード・ソフト両面のインフラの整備やトラックの自営転換の推進、交通事故抑制対策等を進めてきたが、大気汚染物質の排出削減の課題や、地球環境の保全、循環型社会の構築といった新たな課題への対応のための重なる取組が求められている。
 以上を踏まえるとともに、次のような課題に対応するため、新たな大綱を策定し対応することとする。
 
[1] グローバル化の進展に対応した国際競争力の更なる強化
 世界経済のグローバル化は一層進展し、調達・生産・販売活動も国境を越えて広く展開されているが、国家として、国際競争力のある経済主体と、それを支える経済社会システムを備えているか否かが国際経済社会の中における地位に決定的な意味を持つ時代であることから、物流分野も含めて、我が国の経済社会システムを一層競争力のあるものにしていかなければならない。
 このような中、近年のアジア諸国からの輸入の急激な拡大等に伴うコンテナ貨物の増大や、外航船社間の競争激化等に伴う船舶の大型化が進むとともに、国際航空貨物輸送も拡大を続けており、これらに対応するため、中枢・中核国際港湾及び大都市圏拠点空港の整備が進められてきた。しかしながら、先進的な国際港湾等近隣諸国における主要な物流拠点の整備が進み、その取扱量が大きく伸びている中、我が国の国際港湾においてはハード・ソフト両面の一層の改善が要請されていることからその機能強化を図るとともに、大都市圏拠点空港の整備を時機を逸することなく進めることが必要である。
 さらに、外資系企業の国内市場への参入等の進展に伴い、流通構造を巡っても欧米型の新たなビジネスモデルヘの対応が求められるなど、国内物流面でもグローバル化の進展は看過できない状況にある。
 これらを踏まえ、我が国の国際競争力を一層向上させ、経済の持続的な発展をもたらすためには、物流分野においてもグローバル・スタンダードを意識しつつ、効率化を図る必要がある。
 
[2] 環境問題の深刻化、循環型社会の構築等社会的課題への対応
 平成9年12月の「気候変動に関する国際連合枠組条約」第3回締約国会議で採択された「京都議定書」の目標達成を図る必要があるが、物流を含めた運輸部門の二酸化炭素排出量は、年々増加傾向にあることから、今後の年間排出量を減少させることが必要である。
 また、大都市における大気汚染等の環境問題が深刻な状況にあり、これに対応するためには、発生源である自動車単体の排出ガス規制等自動車そのものの低公害化の推進、環状道路の整備等による渋滞の解消が必要である。しかし、これらの抜本的対策が効果を発現するには長期間を要し、これらの施策だけでは当面する課題を直ちに解決することができないことにかんがみ、輸送需要に働きかけていく施策を併せて積極的に進めていくことが必要である。
 さらに、各種リサイクル法の制定・施行等が進められる中、循環型社会における有用性が着目されている循環資源の効率的な環流ルートの形成が求められており、循環型社会の実現に貢献する新たな物流システムを構築するための環境を整備することが必要である。
 上記のほか、依然として大型トラックによる事故が高速道路における追突事故を始めとする重大な事故につながっている等の現状にかんがみ、物流分野における事故防止対策は重要な課題である。
 
[3] 情報通信技術の飛躍的進展への対応
 情報通信技術(IT)は著しくかつ急速に発展し、大量の情報の収集・加工・流通やネットワークの形成を容易にしている。物流面でも、ITを活用して安全、円滑、快適な道路交通環境をつくる高度道路交通システム(ITS)等のインフラの高度利用に資するシステムの導入・開発が進められてきている。また、既に一部の企業では、物流EDI(電子データ交換)の導入が進んでいるほか、サプライチェーンマネジメント(SCM)の考え方を導入・実践し、具体的な成果を得ている等、情報化への対応が企業の競争力に大きな影響を与える状況となっている。しかしながら、物流の全体最適化の観点からみた場合、個々の企業におけるITの導入の遅れや、企業間あるいは輸送モード間での情報共有化・オープンネットワーク化が進んでいない等、ITがもたらす効果が必ずしも十分に発揮されていない。このため、次世代情報通信技術にも積極的に対応しつつ、物流分野における情報化を一層加速化することが求められている。
 
[4] 国民ニーズヘの対応と国民生活との調和
 日々の暮らしに必要な物資が海外や全国各地の生産地から家庭まで届けられるあらゆる過程において、物流は不可欠な社会基盤としての役割を果たしている。情報化の進展に伴う生活スタイルの変化や本格的な少子高齢化社会の到来等により、消費者向けを始めとして、物流は、今後、更に少量化、多頻度化の傾向を強めていくと考えられるとともに、労働市場の変化が見込まれる。このような我が国社会の変化に対応し、物流活動の効率化を進めていくことが必要であるとともに、一方で、国民の日常生活を支える観点からは、災害に強く、安定的な物流サービスの提供を確保することも必要である。また、特に都市部における生活活動との調和を図る観点からは、街づくりにおいて物流の円滑化にも配慮した取組が必要となっている。








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