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4.4 技能資格認定制度及び教育制度の試案
(1)モラール・技能向上のための教育・資格取得
 職業能力開発法(昭和44年法律第64号)に基づいて実施される技能検定科目中には、造船業に該当する科目も含まれているが、受験希望者がほとんどいないために実質休止となっている科目が多い。受験希望者が出なかったのは次のような理由による。
[1] 実技試験、学科試験が遠隔地で行われ、しかも別々の月日であるため、相当日数職場を離れることになる。
[2] 実技試験の内容が、造船所で実際に携わっている作業内容と乖離している。
[3] 検定資格を取得していなくとも日常の作業遂行に支障をきたさない。
造船の作業に必要なクレーン運転・玉掛といった構内作業全般の安全にかかわる職種に関しては、第三者機関による法的資格取得が義務付けられているので、そうした作業に携わる本工・協力工には造船所・協力企業が費用負担のうえ資格を取得させている。さらに溶接技能に関しては、船級協会が期限付・等級付資格付与制度を確立しているので溶接職種の本工・協力工に資格取得及び現に資格取得しているものには上級資格取得を奨励している。
 法的に義務付けられている資格や受験者が長期に職場を離れることなく取得可能な資格に関しては、造船所・協力企業は従業員に資格を取得することに前向きに臨んでいる。
 船舶建造にあたっては、日本船籍船舶については船舶安全法に基づいて船舶構造・設備に対してJG及びJGの委嘱を受けたNKが検査を行うことになる。
 検査基準に基づく検査においては、検査対象(例えば船殻ブロック)の技能の巧拙は問題でなく基準に合格していればよい。したがって造船所及び協力企業は特に必要とされない資格取得には消極的な対応になる。
 もっとも注文者(船主)の立場からは、単に検査基準を満たすだけでなく、「出来栄え」についても注文するので、あまりにも拙い技能では、手直し・取替えといった要求が出されることになり、その意味では技能の巧拙は造船所自体の評価に直結している。造船所のいわゆるWORKMANSHIPは、顧客の評価を左右するので受注の成否にもかかわる重要なキーポイントである。こうした見地から本工・協力工の技能向上のための教育、より高度の技能資格取得の推進は、長い目で見れば造船所の業績向上、将来の発展にもつながるのである。
 造船業の数多い職種の技能検定、資格付与について、上述の現行法の精神を汲み取り、かつ造船業の実態を加味した実用的な制度を策定して、造船所及び協力企業に働くすべての本工・協力工が自ら積極的にチャレンジして、技能レベルの向上へと意欲を増進することになれば、職場のモラール向上へと直結し、造船業の前途に曙光を見出す契機ともなるであろう。
(2) 技能士の国家検定制度について
 これについては第6章で述べているが、参考のためより詳細に記述する。
 技能士とは、働く人々が持つ技能を一定の基準に従って検定し、公証する制度である。技能を修得する意欲を高めるとともに働く人々の地位の向上を図ることも目的としている。現在133職種の検定がある。
受験資格 ●年齢・性別 制限なし
  ●学歴・他 原則として検定を受ける職種についての実務経験が必要となる。
試  験 ●検定職種ごとに実技試験と学科試験が行われる。
  ◆実技試験 実際に物の制作・組立・調整などを行い技能の程度を評価する作業試験、または原材料・標本・写真などを提示し、実際的な判別、判断などを行う要素試験、または現場などにおける実際的・応用的な課題を表・文章などで問うぺーパーテストにより行われる。
  ◆学科試験 当該技能の裏付けとしての知識、作業の遂行に必要な正しい判断力及び知識などの有無を問う。
試験地 ◆各都道府県
職種と等級区分 第3章の表6.7 技能検定職種一覧を参照
技能審査: 技能審査とは技能検定制度を補完するもので、民間の技能評価体制を整備することを目的としている。公益法人などが行う技能の審査のうち基準に適合し、技能振興上奨励すべきものについて、申請に基づき厚生労働大臣が対象職種ごとに認定している制度である。
  ●鎌倉彫技能師 ●箱根細工技能師 ●井波木彫刻士 ●村上木彫堆朱彫刻士 ●金融渉外 ●印刷営業士 ●POP広告クリエーター ●テラー●翻訳 ●料飲サービス士 ●産業カウンセラー ●事務専門士 ●圧入施工技士 ●葬祭ディレクター ●CADトレース技士
これから分るように
・ ほとんどの技能について技能検定制度がある。また級も単一等級だけでないものが多い。
・ 造船に関係するものはあるが、特有なものはない。
・ 試験内容が相当高度である。その例を添付資料8の技能士資格試験項目の例に示す。特級になると係長、課長補佐や課長程度の試験になる。
・ 以前船舶艤装技能士(2.1.特級)があったが平成5年以降なくなった。なくなった理由は受ける人がいなくなったということである。
受ける人がいなくなった理由として、試験が難しい。資格取得しても給与、昇格などでそれだけの待遇が期待できないことが推測される。
 また実際的な面で考えると、この資格を取得しても実際の作業面でそれに見合うだけの技能面での効果が期待できないことなどである。
・ したがって、実用的な資格制度を考える場合、より容易な学科試験で、より時間的に短い簡単な実技試験で資格を取得できるよう考慮する必要がある。
・ その後国家検定制度への移行を考えるべきである。
(3) 資格認定制度(試案)
[1]資格認定制度の条件…次のような条件で試案を作成した。
・ 国家検定制度より学科試験、実技試験が簡単であること。
・ 認定のために特別の時間を要しないこと。
・ 実際の作業に即した資格であること。
・ 資格者が公平に評価されること。
・ 本工だけでなく協力工にも適用できること。
[2]資格認定制度(試案)
・ 添付資料2(1)の技能評価表を基に資格を認定する。
技能評価表は本工及び協力工全員個人別に作成する。この表は流動化対策にも活用する。
・ 技能評価表は個人の技能知識、安全知識、人事考課面は省略した。
・ 国家検定制度とは切り離し、中小型造船工業会が認定する制度とする。
・ 資格は次の3種類とし、それぞれの認定要領による。
国家検定制度は技能士であるが、これは技能者とする。
1級技能者:技能評価表の特級に該当する者を対象に次の試験を行う。
学科試験…次の教材から出題される問題に解答する。レポート形式とする。
教材 財団法人 日本小型造船工業会 通信教育造船科講座
・ 造船現図指導書(現寸型・定規、現図展開、数値現図)
・ 船体工作法
・ 船体工作法 学習指導書
・ 艤装
社団法人 日本舶用機関整備協会 1・2・3級機関整備士指導書
問題例 添付資料9に示す。
実技試験…職制の証明で免除する。
公的資格他…「職種別必要資格・技能」による作業に必要な資格は取得していること。
認定書…日本中小型造船工業会から交付する。
2・3級技能者:技能評価表で各作業の技能を表示するだけで、特に今回は認定書も交付しない。今後試験制度を整備する。
・認定職種は技能評価表の職種区分とする。ただし2つ以上の職種を同時に認定してもよい。
(4)教育制度(試案)
 添付資料4の訪問先別調査結果に見られるように新入社員向けの初期教育を因島造船技術センターで行っている造船所もあるが、生活習慣指導と玉掛やフォークリフトなどの一般的な資格取得に大いに効果がうかがえるが、いわゆる先手、中堅、熟練者を対象とした造船業特有の技能の向上、継承を目的とした実際的な教育が強く望まれるところである。
 そこで次のような試案を提案する。
[1]学科の巡回講座
・ 国家検定試験レベルヘのアップを目指して、造船の基礎的知識の習得を目的として地域別に学科の巡回講座を行う。
・ 講師は中小型造船工業会が認めた講師とする。
・ 受講者の資格は自由とするが1・2級技能者を主に対象とする。
・ 期間はできるだけ短くする(各職種最大2日程度)。
・ 教科書は前述の教科書を主体とし、最新の技術を補足する。
[2]実技の巡回指導
・ 希望により1週間程度の、OBによる現場に密着した実技指導を行う。そのために実技指導を行うOBを職種区分別に中小型造船工業会に登録しておく。
 なお各造船所ともできるだけ造船所のOBを活用して実技指導を行う。
・ 職種は各造船所の希望による。
 特に撓鉄作業や曲りブロックの組立・位置決め作業等は早急な教育を必要とする作業である。
[3]ビデオによる教育
 技能内容のビデオ編集は、すでに中小型工業会で撓鉄作業について実施したところであるがそれをさらに拡大して上記[1]・[2]で実施した教育指導内容をビデオに編集し、それに基づいて各造船所が独自に教育する。
 ビデオ編集に関して、特に実技に対しては作業のマニュアル化や図解化を行い、理解しやすいよう工夫する必要がある。








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