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4.3 雇用流動化への対応
(1) 若年層確保のためのPR、造船業以外の人への関心向上策
 造船業−特に中小造船業は地域と密着、共存する産業であり、本工及び協力工はほぼ通勤可能圏内に居を構えており、地域社会に雇用の場を提供している。
しかしながら、地域社会からあるいは縁故という形での若年層の採用が、昨今の少子化、若年層が製造業を敬遠し勝ちといった背景下において、次第に困難になりつつある。
 こうした理由のほかに、地元高校の造船科が海洋科に改変され、全国の高専・大学から船舶工学、造船工学が消えていくことも遠因であり、さらには不況業種という過度の報道、造船業に従事する関係者自身の自己卑下が若い世代から夢を奪っている面もあるのではなかろうか。
 造船は、海運と共に日本経済を支える主要産業であるから、造船で働く者は、もっと自信と誇りを持つべきである。 世は正にPRの時代である。製造業では自動車・電気製品など、テレビコマーシャルが製品知識を与えてくれ、あまりコマーシャルに登場しない製鉄業は鉄板、鉄骨などが目の当たりに触れることで感覚的に理解される。しかし、顧客が特化していて一般消費者とはあまり関連のない造船は、地元でも「塀の中の工場で何をしているのかよく分らない」といった声が上がるくらい、確かに分りにくい産業ではある。PRの手段として業界全体で造船業及び造船周辺の情報を取り纏めたインターネットのホームページを開設しアピールすることを考えるべきである。中小造船業では若年及び中堅労働力を必要としていることを強調するが、造船業の紹介、どんな仕事(職種)が必要とされるかといった解説も当然含まれた内容になっている。ホームページにアクセスしてみると次のような情報が掲載されている。
○ 世界の造船業とそこに占める日本造船業の地位
・  各国別の建造量の説明
○ 造船業の特徴
・  造船は、自動車・電機といった見込大量生産ではなく個別受注少量生産であること。
(そのために生産着手に先立って、顧客との事前打ち合わせが必要、どんなことを打ち合わせるのか。)
・  造船はコストの70%近くの製品を国内で調達する組立産業であること。
(組立産業には数多くの仕事(職種)がある。仕事に携わる人々は、自分で考えてそれを実行して仕事を完成する。完成した製品には、個々人の創意工夫、技能レベルが直接反映するといった魅力ある産業である。)
○ 造船の工程/建造の方法
・  起工、進水、引渡のほか主要な工事内容を織り込んだ線表が掲載されている。
(進水は、家を建てるときの棟上げに相当するので、進水式をおめでたい行事として、その前途の活躍を祈念した「餅まき」をする顧客もいる。)
・  船台建造/船渠建造の違いと夫々に配慮されていること。
○ 環境と造船
・  海洋汚染防止の観点から船舶に装備されている内容、設計上の配慮
 こうした情報は期限を切って、次回は○月○日に内容を入れ替えるという手当をする。内容に興味を持ち造船所にアプローチしてきた若者には、さらなる情報提供を希望すれば来社してもらって、要すれば工場案内などもする。
 こうしたホームページは内容については業界で取り纏めるにしても、各造船所・協力会杜が夫々独自にPRするという方向を探るべきであろう。そうすればよりきめ細かなPRが可能となってくる。
○ 地元高校に開設されたことの通知及び掲載されている内容を取り出してコピーを提供。
○ 地元の広報誌で取り上げてもらえるのであればホームページ開設アドレスの掲載を行ってもらい、地元の人々に造船業への理解を深めてもらう。
○ 進水式の予定日時なども掲載して見学希望者に申し込み方法なども知らせる。
 造船業に直接関係のない地元の人々に対して、造船に関心・興味を持ってもらう最も効果的な方法は進水式への招待であろう。地域によって差異はあるので一概にはいえないが、進水式見学を一企業の行事とせずに港湾協会、商工会議所等にも役割分担してもらえば、一企業の私的行事ではなく公的行事と見なして地区消防音楽隊、地元高校ブラスバンドなどの参画が可能となってくる。招待した幼稚園、小学生の前でテレビマンガの主題歌、ドラえもん等を演奏してもらえば、子供達には進水式が思い出深いものとなろう。また、顧客の国歌と日本の国歌の演奏も式典の中で行われるが、顧客にとって海外で自国の国歌を生演奏で聞くことは、心に残り感銘でもあろう。
 開かれた造船所こそ地域社会から関心を持って迎えられる。
○ 工場見学は基本的に申し込まれたら受け入れること。
○ 夏休みに希望があれば高校生の現場実習を受け入れること。このためには法的な制約がないか受け入れに当たっての留意事項等を事前にチェックしておく。
 造船所が地域社会との共生に努め、開かれた造船所へと絶えず志向してこそ、地域の若者が愛着をもち、そこで働く喜びを見出し、優れた技能・知識を身につけて造船所の将来を背負って立つ原動力になることが期待できる。
(2) 他造船所からの採用/協力会社との連携
 中堅層の不足をいかにして回避するかの具体的対応策は、造船所・協力会社が一体となって取り組むべき緊急の課題である。協力会社においては、新聞広告、ハローワークを通じて未経験者であっても人物本位に選考し、職場に投入、教育訓練を行い、協力工として採用しているケースもあるが、協力会社の意向としては即戦力を補充したいといった強い希望を持っている。ここでクローズアップされるのが他造船所を定年退職した人材の流動化である。各造船所ではある程度再雇用制度を設けているが、毎年相当数の定年退職者が再雇用されていない実態は既に先述したとおりである。これら再雇用されていない「業界の共有財産」である貴重な人材を洗い出し、再度業界のために活躍できるような仕組みが必要である。このため、個々人のプライバシーに意を払いつつ、一層掘り下げた実態調査(下記内容)となるよう中小型造船工業会で工夫実施して、各造船所・協力会杜が人材確保のための受け皿となる制度・仕組みを確立してゆくことが望まれる。
[1] 他業種へ再就職しているのか
[2] 家業を継ぐといった形で再雇用を望まなかったのか
[3] 特に理由はないが退職した
[3]については、更なる調査が必要である。
[1] 健康に自信がなく年金生活で満足している
[2] できれば造船業で働いてもよい
[2]については、60才はまだ体力的に問題はないし、現在の生産現場では重量物運搬の如き作業はないので、本人の経験・知識・技能を生かして働いてもらうことに向けて話し合いをすることになる。たまたまUターンを考えていたので郷里へ帰って、そこからの通勤が可能といった雇用主にとっても好都合があるかも知れない。また、社宅を提供してくれたら単身赴任で一定年限働くという人もいよう。
 入社すれば即戦力として自らの経験・知識・技能を生かして活躍してもらえるし、併せて後進の指導、後進への技能伝承といった期待もできる。
 入社に当たってネックになるのは、造船所は知っているが、協力会社は知らないということで二の足を踏むことがないかである。かかる場合には造船所が一定年限の雇用を保証するといったサポートが必要になろう。在職老齢年金を受けてもらって就労するとなれば雇い入れる協力会社にもメリットになる。
 このようなシステムを導入するにあたっては業界団体たる中小型造船工業会の定款上許されるのか、また一種の職業紹介であるから現行法規に抵触しないのか、その見極めを事前に行って問題点をクリアにしておく必要がある。
(3) いわゆる「外国人」労働者
 これは日本に限らず諸外国も同様であるが、就労目的の外国人には入国を認めていない。したがって、現在の日本には原則として外国人労働者はいないのである。
 外資系のホテル、銀行などで働いている外国人は、事前申請で(その者の仕事は日本人には委ねられない役割であることを説明して)許可を受けた人々である。同様のことは日本人が海外事務所に駐在するといったケースにおいても事前申請して許可を受けているのである。
 日本人の職場・仕事が外国人に奪われることのないよう国策としての法的規制であり、現在日本が就労ビザを発給して、日本国内での就労を認めているのは、日系人(ブラジル、ペルーなど)だけである。これは日本からの移民の子孫に対する特例であって、受け入れる際には雇用年限を含めた条件を明確にした労働契約書の締結、その忠実な履行が要請されている。
 日本語学校で日本語を習得する目的で就学ビザを取得して入国する外国人に対しては、学費稼ぎのためのアルバイトを「生きた日本語の勉強」として大目に見ているようである。道路工事現場や飲食店などで多くの外国人が働いているが、観光ビザで入国して不法就労しているケースが多いといわれている。
 中国人を「研修生」として受け入れる制度が一時期盛んであったが下火になっていると思われる。日中両国の公的機関の取り決めに沿った「研修」を実施することが義務付けられ、単に生産現場で労働させるだけではなく教育訓練も必要である。グループでの研修生受け入れで質的に技能に差があっても「研修手当」に差は付けられず研修期間の変更もできない。
 造船所が必要とする時期に必要な労働力を海外に求める、ということは現在の法規制のもとではできない相談である。しかしながら将来労働力不足が顕在化するのは必至であるから、海外労働力を単なる「使い捨て」としてではなく、技能移転という見返りを相手に与えるという大局的見地から、業界全体としての論議を深めておくべきであろう。








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