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4.2 人材活用への対応
(1) 本工・協力工の評価
 「人材の評価」については、その内容等が前第3章で取り上げられている。造船所の管理・監督者の主たる業務は、工程の現状を的確に把握して、工程を円滑に進捗させることにあるが、その過程において本工・協力工が安全第一を旨として与えられた工事をスムースにこなしているか否かをチェックするとともに、仕事ぶりを注視して夫々の「技能」を見極めている。見極められた技能は、本工に関しては、人事考課の基礎となり、協力工については、所属する協力会社へ支払う協定金額査定の基準になる。
 協力工の査定においては、通常3〜5にランク付けがなされ、造船所の作業長・課長・部長の三者で査定決定をするケースが多い。造船所が査定結果を協力工所属の協力会社の社長へ知らせるというケースが混在作業の行われている造船所に見られるが、造船所の査定結果は、ほぼ妥当なものとして受け入れられるとのことである。直接作業をほぼ100%協力会社に請け負わせている造船所では、査定結果を協力会社側に伝えていないところが多数であるが、そこでは、協力工を独自に協力会社が評価しているはずである。本工・協力工全ての「技能」レベルを把握しておけば、工事量の山谷による作業量の調整、さらには工事内容による人員配置・配分にも効率的に活用できる。技能面の強みと弱みを把握していることで今後の対策の資料ともなる。
 某造船所で第一次査定者(作業長)から見て、好ましい人物が高い評価を受けるとのことであった。しかし「人に好かれる」ことは、その人の貴重な財産であり「自分は高く評価されている」という自覚は、仕事へのモラールを高め、ひいては技能向上に直結する。人が人を評価するのは非常に難しい。しかしながら昇給・賞与の基準を策定するために考課査定を行って格差を付けることは経営として必然の要請である。そこで配慮するべきは評価される人を徒らに萎縮させることなく公正な評価がなされているという認識を持たせるような考課査定の内容方法を確立することである。その一助として某造船所で実施しているが、考課査定の基準・内容を事前に公表しておくことは意義があると思う。
(2) 高年齢層の再雇用
 造船所の各労働組合は、労働条件改定要求として、定年年齢の引き上げに取り組んでおり、漸次現在の60才から1才ずつ引き上げて2013年4月1日以降は満65才とするように要求している。しかしながら造船所としては、現時点で定年年齢の引き上げには応じておらず、定年到達者の再雇用を既に制度として確立しているところが多いという実態にある。
 制度の趣旨を本工に引当てて見ると次のようになる。
(対象者)
・ 定年退職者で本人が希望し、会社が必要と認めた者
・ 会社が必要とする職務を遂行する上で必要な知識・経験・技能・公的資格を有すること
・ 職務を遂行しうる健康状態にあること
(従事する業務と役割)
・ 原則として定年前の職務を継続することで中堅層不足に対処
・ 若年層に対する技能伝承、育成指導
(再契約)
・ 雇用年限は一年間、ただし必要とすれば一年間さらに延長
(再契約年齢の限度を決めている会社が多い)
(賃金・賞与)
・ 在職老齢年金・高年齢雇用継続給付金を受けながらの就労を前提とし、賃金・賞与を含めた合計が退職前収入の80%程度となるように取り決める。
 定年到達前に将来の生活設計を立てている者が多いのか、再雇用される者は、正確にはデータが公表されていないが約50%程度と推測される。そうであれば大手造船所を含めて、毎年相当数の人々が、長年の経験、優れた知識・技能を有しながら、造船業に再雇用されていないのが実情である。
(3) 不足する中堅層の対策
 本会会員会社の平成13年年齢別本工構成(図4.1〜図4.3参照)を見ると、30才代・40才代・50才代の人員比は、ほぼ1:2:3、すなわち30才代1人に対して、40才代2人、50才代3人と高齢化が進んでおり、特に普通会員のグラフが示すとおり、55才〜59才の層が40才代層にほぼ匹敵しているいびつな状況であり、このまま放置すれば数年を待たずして中堅層の不足によって円滑な工事の消化・工程の進捗に支障を来し、造船業の継続自体に深刻な事態を招来するのは必至である。
 かかる事態の回避に向けて、中小型造船工業会が中核となり、プロジェクトチームを結成して会員会社から意見を出して貰い、早急に具体策を取り纏めることが必要である。
 その具体策を各造船所が自らの独自性を加味して実施に移すことが望まれる。いわゆる人材の流動化に伴い法的規制に抵触しないか否かの確認、単身赴任が必要となるケースでの企業間の取り決め等々の全体にかかわる対策は、中小型造船工業会が所掌し指針を提示することになろう。
・ 地域社会に対して、あらゆるルートを駆使し、「造船業は、自己裁量によって仕事を各人が完成させる特異な魅力ある産業である」ことを強く訴え、雇用の掘り起こしによって中途採用の道を開いてゆく。
・ 既に実施している定年退職者の自社による再雇用制度を、中堅層不足の補完という観点から見直して、より実効ある制度にしていくとともに、技能の二極化、一人作業が常態となっている未熟練技能グループヘの技能伝承、指導・育成の指導者として、技能向上への貢献を果たしてもらう。
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図4.1 平成13年年齢別本工構成(普通会員十賛助会員)
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図4.2 平成13年年齢別本工構成(普通会員)
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図4.3 平成13年年齢別本工構成(賛助会員)  
 なお、「定年退職者の再雇用」に当たっては、次のことに留意すべきである。
[1] 雇用される者は原則として定年到達時と同じ職場で働くことになる。その場合再雇用される者が例えばグループリーダーであったとすれば、かつての部下で新たにグループリーダーに昇進した者の下で働くことになる。割り切って仕事ができるのか、新旧グループリーダー及び周囲の者との人間関係が円滑にいくための施策が予め準備されていなければならない。どうしても人間関係がうまくいかない場合には再雇用者の経験・知識・技能を活用できる他の職種で働いてもらうこともあり得る。
[2] 雇用希望者がUターンなどで帰郷して、近郊の造船所で働きたい意向を持っているというケースヘの対応策を確立しておくことが必要である。このケースは「流動化対策」の中で検討することになる。
(4) 若年層の育成
 某造船所幹部は、顔を見る毎に協力会社社長に「若手を育てて下さいよ」といい、協力会社社長は、「あんなに繰り返しいわれたら(協定単価がどうのこうのという前に)やらんとしかたがありません。現に若手を先手として一人指導員(経験者)を付けて仕事を覚えさせています。」という。恐らく、先手として働く若者は自分に対する周囲の期待・配慮を痛く自覚して、与えられた仕事に真摯に取り組むであろうし、与えられる指導員の助言のすべてが将来一人立ちして仕事を進める時の心の糧になるであろう。
 多くの造船所では「止むを得ず」「好むと好まざるとにかかわらず」ある程度技能の見極めを付けた後、職種によっては一人で仕事をやらせているとのことであったが、こうした人々の定着率が芳しくないという声も少なくなかった。
 一人作業の生産現場には、造船所の管理・監督者が顔を出して仕事ぶりを注視し、必要に応じて適切な助言を与える。「自分はこの仕事をやらされているのではなく、まかされているのだ」と感じさせ、毎日顔を出す管理・監督者の「定期便」を心待ちさせるような雰囲気が職場には絶対に必要である。生産現場で不安全軽率な行動を発見したら、心底その者を思って叱りつける。足場に不備があれば直ちに担当者を呼んで矯正する。働きやすい職場を心掛けて整理整頓を自ら実践する。こうした管理・監督者の一挙一動を職場で働くすべての人々は見ているのである。安全第一を社是とする張りつめた生産現場に、親子ほどに年齢の離れた若年層との間に良好な人間関係を構築することこそ、管理・監督者に課せられた大切な責務である。
 会社の創立記念日などの機会を捉えて、若年層との意見交換・懇親会を開き、そこで提起される建設的な意見は即実行に移す。会合に出席する上層部は、すべての若年層の氏名を憶えており、懇親をとおして相互の一体感を育み、彼等の会社への帰属意識を高めていくことも欠かせない配慮である。
 若年層が「自分は期待されている」「自分は企業のために役立っている」と感ずれば、自らの技能をより向上させようと努力し、自分の仕事に誇りと愛着を持っていれば、多少の無理をいわれたとしても仕事を成し遂げて額に汗した充実感に浸る時、「ものを造る」造船業に魅力を見出すことになろう。
 若年層に何ヶ月か指導員を付け、指導員との人的交流の中で自ずから技能を身に付けさせる。そうしたOJTを職種ごとに定型化して、若年層教育期間、指導員の資格等も一定の基準を設定すれば、かかる若年層育成に対して公的な助成ができるような施策は考えられないのであろうか。
 人材活用の一環として、造船所・協力会社のOB活用も視野に入れておきたい。








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