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第4章 人材活用及び雇用流動化への対応
4.1 生産現場の実態
 造船所で直接生産に携わるのは、造船所の本工及び協力会社の協力工であるが、造船所構内での入退場管理、構内作業にあたって安全等諸規則を遵守することにおいては、本工・協力工とも同等である。両者間には一体感が醸成されている。直接作業をほぼ100%協力工が請け負っているケース、本工・協力工が混然一体となっているケース等、造船所によって協力工の比率・作業態様に差異はあるが、協力工の存在なくして生産自体は成り立たないのが造船業の実態である。
 かつて造船業の生産現場では、経験豊富で、高度の技能・知識を備えている先輩が、比較的経験の浅い技能・知識を十分に習得していない後輩に対して「やって見て、やらせて見て、後を見る」というOJTの指導者として、技能の維持・伝承、ひいては後継者の指導・育成を実践してきた。今日造船業は、低船価受注を余儀なくされるために、本来は後進の育成・指導に当たるべき経験豊富な高度技能を保有するグループを生産現場に投入し、彼等が効率的に直接作業を推進することで、徹底したコストダウンを実現し、厳しい経営環境を克服してきている。一方、経験の浅い技能・知識の不十分なグループは、一応の技能の見極めを受けた後に、口頭による指示で、「一人でやりなさい」といわれ、一人作業に従事しているケースが多く、生産現場では、目先の工事に追われて、彼等に対する技能の維持・伝承、指導・育成を考える余裕がない状況である。
 このように、昨今の造船業の生産現場では、高度技能を保有するグループヘの依存度がますます高まり、彼等の技能レベルをさらに一層向上させている反面、経験の浅い未熟練グループには、適切な育成・指導が見送られているため、彼等の技能レベルは足踏み状態になっており、いわば技能の二極化が顕現してきている。
 経営合理化の見地から、生産現場への機械化・自動化のための設備投資は当然のこととして実施されてきているが、労働集約型組立産業たる造船業では、作業は究極において技能者個々人に依存し、その出来栄えは技能者の技能レベルに大きく左右される。技能者個々人は与えられた作業をいかに効率的に完遂させるか、常に自ら考え、判断し、それを実行に移しており、かかる自己裁量の余地・領域が存在する造船業であるからこそ、疎かにされている技能向上のための指導・育成が不可欠である。技能レベルが向上すれば、より広範囲・より高度の作業が与えられ、そこでは自己裁量の余地・領域が拡大され、「もの造り」に直接携わる自分を発見し、造船業で働く魅力と喜びを見出すことになる。
 少子高齢化社会、若年層が製造業を敬遠しがちであるという背景の中で、造船業には、早急に具体的な解決策を確立すべき課題は少なくない。
・ 過去に定期採用を見送ったため、現在の人員構成の歪みにどのように対処してゆくか
・ 二極化している技能グループ間に橋を架けて、技能の維持・伝承、ひいては後継者の指導・育成にどう取り組むべきか
・ 定年退職する高齢者を業界全体の中で再雇用するための仕組みをどうするか
造船経営に携わる人々は、これら課題の緊急性を真摯に受け止めて、現在造船業で働く人々のすべてが協力会社で働く人々も含めて業界全体の共有財産であるという認識の下で、業界の実態を踏まえて人材の活用、人材の流動化のために効率的な具体策を取り纏めて実施に移すべきである。かかる対応こそ日本経済の円滑な運営を支えてきた造船業を活性化し、今後とも継続してゆく基盤となろう。








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