3.3 人材評価法
人材評価は、大別して、技能評価と全人格的な人材評価の2つに分けられる。
造船所に対する面接調査では、技能検定を行っている企業はなく、人材評価に関しては、賞与、昇給時の考課の関係で、ほとんどの企業が何らかの考課基準を有している。
協力会社でいえば、技量評価も人材評価に関しても、親方、ボーシンが仕事振りから判断していて、特別な技量・評価基準を有している企業はなかった。
以下、今後の雇用流動化をみこし、技量評価や人材評価法についての試案を述べる。
(1)技量評価、技能検定
この例としては、「国家技能検定制度」があり、133職種について各都道府県の職業能力開発協会が前後期(4月、10月)の毎年2回実施している。
技能検定制度とは、「職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)に基づいて実施されているもので、働く人々の有する技能を一定の基準によって検定し、その技能のあることを証明する、技能の国家検定制度」である。
残念ながら、造船業に適合できそうな職種は、修繕船関係で左官、塗装、仕上げ、鉄工の4職種にすぎない。参考までに技能検定職種を添付資料7に示す。
造船にそのまま適合はできないが、等級については下記のように7等級が規定されていて、参考になる。
・ 管理者または監督者:1級技能検定合格後5年以上の実務経験
・ 1級:上級の技能労働者、12年以上の実務経験
・ 2級:中級の技能労働者、3年以上の実務経験
・ 3級:初級の技能労働者、1年以上の実務経験
・ なお、等級を区分しない職種では、「上級の技能労働者(職種により、5年または3年以上の実務経験)」として「単一等級」がある。
以上のほかに、主として外国人研修生を対象とした
・基礎1級: |
基本的な業務を遂行するために必要な知識、技能を有する技能労働者、8ヶ月以上の実務経験。 |
・基礎2級: |
基本的な業務を遂行するために必要な知識、技能を有する技能労働者、4ヶ月以上の実務経験。 |
が制定されている。これらの検定試験には、学科試験と実技試験があり、合格すると特級、1級、単一等級は厚生労働大臣名で、2級、3級は都道府県知事名の合格証書と技能士章が交付される。
造船に適合した技能検定がないこと、将来の造船業界での雇用の流動化を考えると、技能を統一的に評価できる全国的な技能認定・資格制度の創設が望まれる。
造船技能資格制度は、造船特有のすべての技能職を対象とすべきであるが、特に、下記職種は高度技能保有者が非常に少なく、技能伝承が急務であるので、早期に制定すべきと考えられる。
・ 造船現図
船体線図のフェアリング、鋼板板割り(シームランディング)、曲面・部材展開、曲げ型(木型)作製
・ 船台鉄工職:船台での位置決め作業
・ 撓鉄
鋼板のプレス機械、ガストーチを使用した曲面成形加工、及び型鋼の曲げ加工。
・ 機械仕上げ
甲板機械、機関室内の諸機械の据付、芯だし、運転・調整
・ 造船配管
船内各所への配管(管取付)、合わせ管の取付、諸管試験・調整
さて、技能レベルの定量的判断・評価方法は、いくつか考えられる。
[1] 技能検定試験
実務試験(例えば、ガス切断、溶接、クレーン運転、玉掛など作業等)の実技試験
[2] 講習・実務訓練
公的な職業訓練所、あるいは委託機関で講習・実務訓練を行い、修了証書を交付
[3] 資格テスト認定作業所での実務作業観察による技能レベル認定
造船所で実際に実作業に携わらせて、その作業振り、作業結果(品質)、完成までに要した時間を計測し、項目ごとに例えば3段階(優秀、普通、努力を要すなど)で採点して、それらの総合結果から、技量レベルを認定する。
[1]の例としては、各都道府県の職業能力開発協会や(財)安全衛生技術試験協会(厚生労働大臣指定試験機関)等が実施している各種技能検定試験があるが、先述したように、造船に適合した職種がない(少ない)ので、これに造船業の職種を追加する方法が考えられる。
[2]については、現在実施されている実技試験がクレーン運転士、クレーン運転士(床上運転式限定)、移動式クレーン運転士、デリック運転士、揚貨装置運転士、ボイラー溶接士(特別、普通)に限られているので、職種を追加する必要がある。
[3]は、全国の造船所を技量認定作業所に指定することで、試験に伴う時間と費用を節約できる利点がある。反面、資格を認定する評価者(試験官)の資格や認定をいかにするかの問題もある。しかし、現在の情勢を考えると、本方法が最も実用可能性が高いと思われる。この場合、民間資格ないしは公的資格となる。
表3.5に、本部会の今年度の大きな目的である船殻作業の必要知識と技能(案)に関する作業要件書の試案の一部を示す。対象とした船殻の直接作業職は、現図、NC切断、鋼板手切り、型鋼切断、鋼板曲げ、型鋼曲げ、廃材・整理、小組立鉄工、小組立溶接、大組立鉄工、大組立溶接、船台鉄工、船台溶接、船台木工、グラインダ、歪み取りの計16職種区分である。
(注) 作業要件書の全文は、添付資料1に示す。
なお、作業要件書では、資格を1〜3級の3等級に分け、それぞれの基準レベルを次のとおりとした。
[1]3級:当該作業にかかわる用語の意味と工器具の取扱について所要の技能を有していて、上位技能者の指示で作業ができるレベル。換言すれば、上位技能者が指示した作業内容が理解できることを必要最小限の技能としている。
鋼板曲げ職を例にとると、
・ 条押しプレス、ローラベンダ、ガストーチ、曲げ型・金矢・矢盤木など撓鉄作業に使用される治工具類の用語の意味と現物の取扱ができ、
・ 加熱用のガストーチを一定速度で移動でき、
・ テンプレート(曲げ型図)を使用してユニバーサル治具が設定できる。
[2]2級:単独で当該作業を施工することができるレベル。
上記と同様、鋼板曲げ職を例にとると
・ 横曲がり、縦曲がり、捻れ板の加熱位置を求めることができ、
・ これらの曲げ形状を、単独で線状加熱して仕上げることができること
[3]1級:当該作業の計画、他作業との調整、及び適切な配員ができるとともに、作業結果の評価ができ、不具合の補修作業ができるレベル。
鋼板曲げ職を例にとると
・ 横曲がり、縦曲がり、皿型、鞍型、捻れの鋼板の加熱位置を求めることができ、
・ 単独で線状加熱、仕上げ加工ができ、
・ あわせて、下位技能者の行った曲げ精度をチェックして、曲りが過不足の場合、その修正曲げ加工ができる。
・ さらに、一品展開図、曲げ型を見て作業量が見積できて、適切な配員ができることなどが作業要件として上げられる。
なお、作業要件書は膨大なので、表3.5には一部を示すにとどめるが、全体は添付資料1に示すので、是非参考にされたい。
(注) 本要件書作成にあたっては、訪問調査先の内部資料を参考にさせていただいた。ここに記して感謝します。
なお、協力工に関しては、技能評価の参考資料として、表3.6のような書式の職歴を雇い入れ時に把握しておくことも重要であろう。
表3.5 現図作業 作業要件書(試案)(一部)
No. |
必要知識 |
項目 |
1級 |
2級 |
3級 |
1 |
現図作業法一般 次に揚げる事項について所定の知識を有すること |
  |
  |
  |
(1)主な船種の船体構造の特徴について所定の知識を 有すること ・バラ積み船 |
常 識 的 知 識 |
常 識 的 知 識 |
常 識 的 知 識 |
・油送船 |
・化学製品油送船 |
・コンテナ船 |
・フェリー |
・RORO船 |
(2)船殻構造図、工作図、施行要領図、一品図、部材リスト等 造船で使用される図面の内容について所定の知識を 有すること ・図面に記載されている線の種類、寸法、溶接記号、 工作法記号について十分理解できること |
十 分 な 知 識 |
十 分 な 知 識 |
常 識 的 知 識 |
・社内工作基準 |
・社内設計基準 |
(3)造船現図についての所定の知識 ・線図フェアリング技法 |
詳 細 な 知 識 |
十 分 な 知 識 |
常 識 的 知 識 |
・外板/ロンジランディング |
・外板展開法の種類と特徴 |
・部材一品図作成手順 |
・曲げ型図作成手順 |
(4)造船撓鉄についての所定の知識 ・曲がり形状の種類 |
常識 的 知識 |
常識 的 知識 |
常識 的 知識 |
・撓鉄作業方法 |
(5)切断についての所定の知識 ・ガス切断の原理 |
常 識 的 知 識 |
常 識 的 知 識 |
常 識 的 知 識 |
・ガス切断に使用する工器具 |
・ガス切断作業法 |
・プラズマ切断、レーザ切断の原理 |
  |
(6)船殻ブロック組立手順について所定の知識を有すること ・組立に使用する治具、工具知識 |
十 分 な 知 識 |
常 識 的 知 識 |
  |
・小組立方法・手順 |
・皮材の接合方法・手順 |
・平板ブロックの組立方法・手順 |
・曲がりブロックの組立方法・手順 |
・仮付け溶接作業 |
・変形及び歪みの防止方法 |
・寸法測定方法と測定工器具の使用方法 |
(7)溶接についての所定の知識・溶接方法の種類、 用途及び特徴 |
十 分 な 知 識 |
常 識 的 知 識 |
  |
・溶接継手の種類および特徴 |
・溶接作業に使用する工器具の種類および使用方法 |
・開先の種類および形状 |
・溶接作業の方法 |
・溶接欠陥の種類および防止方法 |
・歪みの防止方法 |
(8)金属材料の種類、性質及び用途についての所定の知識 ・軟鋼(構造用鋼材) |
常識 的 知識 |
常識 的 知識 |
  |
・ステンレス鋼 |
・アルミニウムおよび合金 |
(9)防錆処理についての所定の知識 ・ブラスト処理 |
常識 的 知識 |
常識 的 知識 |
  |
・鋼材に使用される塗料の種類と塗装方法 |
No. |
必要技能 |
項目 |
1級 |
2級 |
3級 |
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(1)1級:次に揚げる1〜5の全ての作業で、1級の作業が行える こと (2)2級:次に揚げる1〜5の作業のうち、2つ以上の作業で2級の 作業が行えること (3)3級:次に揚げる1〜5の作業のうち、1つ以上の作業で3級の 作業が行えること |
  |
  |
  |
1 |
線図作成・フェアリング |
  |
  |
  |
・CADまたは現尺/縮尺現図で工事用正面線図が作成できること |
○ |
○ |
○ |
・正面線図作成の段取りができること |
○ |
○ |
  |
・正面線図作成作業の計画、他作業との調整、適切な配員 ができること。また、作業良否の判定が的確にできること。 |
○ |
  |
  |
2 |
外板および一品展開 |
  |
  |
  |
・CADまたは現尺/縮尺現図でシームおよびロンジのランディング が行えること |
○ |
  |
  |
・CADまたは現尺/縮尺現図で外板展開が行えること |
○ |
○ |
  |
・CADまたは現尺/縮尺現図で船体部品の展開ができること |
○ |
○ |
  |
・外板および一品展開作業の段取りができること |
○ |
○ |
  |
・外板および一品展開作業の計画、他作業との調整、適切な配 員ができること。また、作業良否の判定が的確にできること |
○ |
○ |
  |
・正面線図から部品型紙が作成できること |
○ |
○ |
○ |
3 |
曲げ型作製 |
  |
  |
  |
・部品型紙に基づいて、撓鉄用曲げ型の作製ができること |
○ |
○ |
○ |
・曲げ型作製作業の段取りができること |
○ |
○ |
  |
・曲げ型作製作業の時間見積ができること |
○ |
○ |
  |
4 |
現場型取り |
  |
  |
  |
・船体外板、部品の現場型取りができること |
○ |
○ |
  |
・現場型取り作業の段取りができること |
○ |
  |
  |
・現場型取り作業の計画、他作業との調整、適切な配員が できること。また、作業良否の判定が的確にできること |
○ |
  |
  |
5 |
計測テープ作成およびブロックマーキング |
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  |
・正面線図から計測テープまたは寸法を写し取れること |
○ |
○ |
○ |
・計測テープまたは寸法表に基づいてブロックに仕上マーキング ができること |
○ |
○ |
  |
・ブロック仕上マーキング作業の段取りができること |
○ |
○ |
  |
・計測テープおよびブロック仕上げマーキングの計画、他作業と の調整、適切な配員ができること。また、作業良否の判定が 的確にできること。 |
○ |
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  |
表3.6 職歴書様式の例 履歴書
(2)人材評価
従業員を、技量だけでなく、全人格的に評価する人事考課項目として多くの企業で採用されている項目は、下記のとおりである。
[1] 成績考課
考課期間における仕事の質と量を評価する。
[2] 情意考課
組織における規律の遵守(規律性)、業務遂行に対する責任感、周りとの協調性、仕事に対する積極性、さらには安全規則の遵守(安全性)などを評価する。
[3] 能力考課
仕事を進める上での知識・技能の程度(知識・技能)、仕事に対する理解や判断能力(理解・判断力)、周りと意思疎通するコミュニケーション能力(表現力)、創意工夫して仕事を遂行しているかどうかを評価する創意工夫力、そして部下あるいは後輩への指導・育成能力などを評価する。
これらの項目は、通常、5段階(極めて優秀、優秀、普通、やや劣る、かなりの努力が必要)制で評価するのが一般的である。3段階では、現実には差をつけにくい。