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1.2 中小造船業の経済環境と経営の特徴
 わが国の中小造船業は、近年のデフレ圧力と長期にわたる円高があいまって船価低下傾向に歯止めがかからず、ますます厳しい経営を強いられている。
 中小造船業は、諸々の経済環境の影響を大きく受け繁閑が激しいだけでなく、高度かつ広範囲の人間依存型の職種を必要とする特徴がある。
 前者に関していえば、世界の荷動きと経済情勢の判断によって、先行きの工事量に大きな差がでてくる。したがって、すべての職種を固定的に雇用するのは大きなリスクとなる。
 一方、後者については、必要職種が多いだけでなく、受注した船種、サイズにより必要とする職種と人数に大きな差(職種繁閑差)がでるので、期間別、職種別人員を適切に過不足なく確保するのが難しい。
 さて、船価が下落すると、企業はより一層のコストダウンを迫られることになる。従来のように、多くの職種を固定的に抱える余裕がなくなるので、受注した船種、サイズにより必要な職種を、必要な人員だけ、必要な期間に限定して雇用できれば、競争力の面で大きな利点となる。これこそ、わが国中小造船業の経営合理化策の主流となっている「完全下請け化」である。
 昨今の中小造船会社が一般的にとっている合理化策は、次のとおりである。
[1] 完全下請け化指向、下請け依存率の拡大
 直接作業を全面的に構内協力会社に一括して外注する。これによって、本社従業員をギリギリまでスリム化し、固定費を削減する。これは、他産業、特に流通業界における正社員のパートタイマ、派遣社員への置き換えに相当する。
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図1.1(1) 従業員数の推移(普通会員)
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図1.1(2) 従業員数の推移(賛助会員)
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図1.2 本会会員会社における本工比率の推移
 図1.1に本会会員会社における平均従業員数の推移、図1.2に本社・協力工比率の推移を示す。
 両図から分かるように、下請け依存率は、普通会員にあっては、おおよそ70%前後で推移しているので、完全下請け化は、以前からの経営方針であることが分かる。平成13年度でいえば、普通会員の本工比率は29%であるが、工程進捗や管理などの間接作業が主となり、直接作業者が減る傾向にある。
 一方、比較的規模の大きな賛助会員は、平成11年を境に急激に本工比率を下げてきている。これらのことから、わが国造船界は、直接技能者を固定的に雇用するというこれまでの経営方針を転換し、完全下請け化に移行したものと考えられる。
 ただし、この施策をとるには、協力会社従業員(協力工)が地域内に豊富に存在することが条件である。造船集積地から離れた地区では、残念ながら、本工、協力工を問わず各職種とも固定的、継続的に雇用する傾向にある。
 さて、普通会員の平均年齢についていえば、平成9年を境にじわじわと上がりつつある(図1.3)。そして、平均勤続年数は、この6年、平均年齢の上昇分だけ伸びている(図1.4)。








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