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第4章 調査研究の成果と今後の指針

 

これまでの1年間の調査研究を通じて、私たちは「ケアする人のケア」という問題に取り組みながらあらゆる視点から「ケア」について考え、議論し、たくさんの人とともに意見を交換してきた。

最後に、これまでの研究の成果として、「セルフケアと祈り」「ネットワークづくりとプログラム開発」「ケアの文化」の三つについてまとめる。

 

1) セルフケアと祈り

「ケアする人のケア」は、ケアの必要な人を前にして自分自身の価値観や生き方が大きく揺さぶられている人の苦悩を、単に誰かが取り除くことではない。絶え間なく揺さぶられることで疲れ切った心と身体を、他の誰かに頼って回復させることは根本的な解決とはならず、生きていくことをむしろ不安に感じることになるからである。

ケアや介護といった営みに積極的に取り組み、誇りをもっている人であっても、人間は弱く時に壁にぶつかることがある。そのときには共に考え、何らかの方法を自分で見つけられるようにサポートできる体制が必要となってくる。

私たちの研究の重要な視点は、「何らかの方法を自分で見つけられるようにサポートしてくれる」体制、すなわち、ケアする人の「セルフケアのケア」を支援するという点である。

では、「セルフケア」とはどのようなことか。

「ケアする人のケア研究集会」において、ヘルパーをしている若い参加者の男性から次のような発言があった。

「利用者や友達、家族など、相手の気持ちを聴くことで、自分の中にそれを取り入れることで自分自身を新たに知ることができる。そして新たに知ることは、自分自身をもつということで、自信につながるのではないか。その自信は、自分を好きになれるということにつながって、結局、それが自分自身をケアすることにつながる」

セルフケアとは、気分転換や休息だけにとどまらず、その時間の中で、自分自身を見つめ直すこと、あるがままの自分を認め、自分自身を好きになっていく、すなわち自己尊重感を高めていくことと深く関係していると言える。

では、セルフケアができるためには何が必要なのか、「セルフケアのケア」とはどのようなことなのか。

委員会で何度も議論されたキーワードの一つに「祈り」がある。苦悩を超えて自分の力で成長していこうとする人に寄り添う姿勢には、聴くことや待つこと、何もしないということも含まれるが、こういった姿勢の積極性は、祈りの積極性にも似ていると言える。

つまり、その人が自分で乗り越えようとするとき、自分の力を発揮しようとするときに必要なのは、寄り添っていく他者、見守りながら祈る他者を感じられることではないだろうか。

調査をすすめるなかで、ケアする人の口から共通して出てきたことは、誰かが傍らにいてくれることの必要性である。愚痴を言う相手であったり、自分のことを本当に理解してくれる人、自分に対して「いるだけでいい」と言ってくれる人、そういった他者の存在である。それは、自分の存在価値や自分の生き方を、他者の見方や判断にゆだねることではない。ケアする人が、自分で考え、自分に対する信頼感を高めていくこと、そのことを見ていてくれる人の存在が必要だということである。その「他者」は必ずしも人間である必要はなく、動物や自然、芸術、あるいは「もう一人の私」なども含まれる。

 

 

 

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