日本財団 図書館


介護は本来、家族の中だけ、あるいは施設の中だけでなされるべきものではなく、共同体の豊かなつながりの中で行われ、育まれる行為ではないだろうか。

私たちは以上のような問題意識から、ケアを介護に限らずに、人間の苦悩に寄りそう文化という視点で普遍的に議論を進めてきた。

 

2) 問題意識 〜ケアする人をとりまく現状と「ケアする人のケア」〜

それでは、具体的にケアする人の置かれている状況とはどのようなものか。私たちは、ケアする人を、1]介護を担う家族、2]福祉の仕事に就く人たち、3]ケアに関るボランティアの3つに分けて考えた。

まず、家庭で障害のある子供や寝たきり老人を抱える家族については、世話で心身ともに疲れ切っているが、休暇をとれる仕組みがないに等しい。そのため、体をこわすだけでなく、介護疲れからストレス障害に陥ったり、介護虐待に陥るケースもある。

このような問題に対しては、例えば、障害児をもつ親への精神的サポートといった側面からは大学などの機関で研究がすすめられているが、実際にサポートするためのシステムを作ろうとするときには、現場サイドからの問題提起や現場の経験が大変重要になってくる。

また、福祉の仕事に就く人たちについては、介護保険の導入に伴って在宅介護へと移行するにつれ、ホームヘルパーや訪問看護など、見えにくいところでの活動が増えたことにより、利用者との間にトラブルが発生している。例えば、利用者との摩擦や訪問先でのセクハラなどの問題、あるいは介護の技術についても相談できる相手がいないために、ケアする人が問題を一人で抱え込むことが多い。そして、ケアを担う多くの人は、充分な教育や指導を受けないまま、福祉の現場で介護の必要な人たちと直に触れ、厳しい労働条件のもと低賃金で働いている現状がある。

さらに、ボランテイアについては、一般的に行われるボランテイアの養成講座では、車いすの押し方やボランティアの社会的役割などは学べるが、活動に行き詰まったときに必要な問題解決力、疲れたときの活動の停止の仕方などをトレーニングを受ける機会はほとんどない。また、ボランティアを受け入れる側にとってもコーディネートの重要性は議論されているが、ボランティアの力をいかに効率良く引き出すかに留まっており、ボランティア自身の疲れや行き詰まりといった問題が取り上げられることは少ない。

特に最近は、自らが抱えている問題を解決するために活動を始めるボランティアも少なくない。彼らは傷つきやすい状態で、直接援助することに携わるので、ボランティアを必要とする人やボランティアの受け入れ先がともに傷つくというケースもある。

このような問題提起をもとに、ケアする人がどのような状況におかれているのか、ケアする人のケアができるためにはどのようなサポートが必要かを明らかにする目的で、アンケート調査、ヒアリング調査をすすめることにした。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION