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(II) 緩衝型船首構造による油流出低減対策

三菱重工業(株) 北村欧

 

1. まえがき

1989年にアラスカ沖で発生したエクソンバルデスの座礁事故以降も相次いだ、タンカーからの大規模油流出事故が海洋環境に甚大な影響を与えた結果、タンカー構造規制(ダブルハル構造化又は同等効果を有する構造化)が発効した。しかしその後も一定期間、シングルハル構造タンカの就航が継続する一方で、衝突事故によるダブルハルタンカーからの油流出も生じている。この状況の下、流出油防除体制の拡充と共に、タンカーからの油流出を低減する技術の研究と基準化を検討するWGがRR76に設けられ平成10年度から3年間活動してきた。WGでは具体的に、座礁・衝突事故時に損傷タンクから油を健全なタンクに緊急移送する「強制油移送装置」及び、衝突時に衝突船がわが大きく破壊する事により被衝突船の船側構造破壊を少なくする「緩衝型船首構造」についての検討を行った。

「強制油移送装置」の検討では、重力で油タンクから空のバラストタンクに貨油を強制移送する配管を試設計した。その結果、シングルハルタンカーでの想定破口面積1m2の条件下で、500φ程度の強制移送配管により約30%の仮想流出量削減が期待される事が判った。但し、最近になって(Erikaの折損事故を契機として)現存シングルハルタンカーのフェーズアウトの促進が決まったので、本件の国際規則化提案は慎重に議論すべき状況となっている。以下では、残る1件の「緩衝型船首構造」に焦点を当てて検討内容を紹介する。

 

2. 緩衝型船首構造の検討

船舶の衝突事故の特徴は、一般的に「衝突船」が相対的に小型であっても「被衝突船」の船側構造に大規模な破壊が生じる事にある。相対衝突速度が比較的に遅くても、少なくとも船側外板に破口が生じて浸水或いは貨物・貨油の流出に到る場合が多い。相対衝突速度が早いと二重船側構造をも貫通する場合がある。結果的に人命・貨物・船舶の損失及び海洋汚染を招じ易い。この理由は、船体構造強度(寸法)が衝突船及び被衝突船の質量・運動エネルギーに比較して小さい事及び、相対的に衝突船の喫水線下に突出したバルバスバウ強度の方が船側構造強度よりも高い傾向にあり、船首構造が船側構造に深く貫入するからである(図2-1から図2-5参照)。ただし、バルバスバウの形状・構造寸法/様式及び被衝突船の接触部強度の組合せによっては、バルバスバウにも圧壊及び曲り変形が生じる場合もある。(図2-6参照)。

一般的に被衝突船の広大な船側を一様に補強する耐衝突防護対策は経済性面から限界がある。一方で喫水線下のバルバスバウ形状・構造様式は多種多様であり強度のバラツキも大きいので、圧壊強度を実用的(効率的で効果的)に制御する余地があるものと考えられた。なお、喫水線上の船首上部構造の強度は、相対的に船側構造と同等またはより低い傾向にあり大規模に圧壊してエネルギーを吸収する(緩衝する)場合が多いので、新たな検討の必要性は少ないと考えられる(図2-5及び図2-6参照)。そこで緩衝型バルバスバウを大型船に採用した場合の、タンカーの耐衝突防護に与える効果把握を詳細・簡易解析で行った。

 

 

 

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