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船長、一等航海士そして水先人が飲酒をする可能性について、安全委員会が利用できる唯一の情報は、コースト・ガード訪船係員の、水先人も船長を含んだQE2の船橋担当者の誰もが飲酒で酔っ払った兆候を見せていなかったという目視による観察だけである。

注42 C.M.ズボースキー著“アルコールの吸収、発散及び消去:高速道路における安全性の現況”アルコール研究ジャーナル付録。第10 98-108頁1985年7月10日発行。

 

安全委員会は、毒物検査試料の採取が極めて遅れていた、別の何件かの海難事件を調査したことがある。

例えば、合衆国籍油送船エクソン・バルデッツ(注43)の乗揚に関連した毒物検査試料の採取の遅れは、際立ったものであった。本件、乗揚時の船舶交通センターの当直職員が、検査を受けたのは事件発生後約14時間してからであった。エクソン・バルデッツには、毒物検査用の資材が揃っていたにもかかわらず、船長、三等航海士、見張り員それに操舵係は、事件から11から12時間が過ぎるまで検査を受けていない。

この事件に関して安全委員会が調査したところ、コースト・ガードが、毒物検査試料を採取するため、援助の準備をしていなかったことが判明した。安全委員会は、エクソン社が検査の必要があることを承知していて、これを満たすため、エクソン・バルデッツには検査用資材を所持させていたことが分かったし、また、コースト・ガードは毒物検査用試料が採集されなければならないことに気付いていても、それを実施するために、範囲とか方法とかについての指導書がなかったことが分かったのである。

合衆国籍漁船シー・キング(注44)が転覆、沈没したあとコースト・ガードは、本船の操船者から毒物検査の試料を得ることが出来なかった。本船の船主は、操船者に33CFR95の規定による毒物検査に従うよう指示することに思い至らなかった。そして、コースト・ガードは、操船者を罰することができなかった。商業目的の漁船員は、免許がなくても操船ができたし、連邦規則は、検査を拒んだ無免許や無資格の合衆国乗組員に対して罰則を与えることを許していない。利用できる情報がなかったことで、安全委員会は、薬物や酒類が本件発生の要因となったかどうかを決定することができなかった。

本報告書は、コースト・ガードが職員に向け、乗組員の毒物検査に責任を持つ本船の船主に通知するため、あるいは、必要な手続としての毒物検査試料の採取を手助けするための指導書を準備していなかったと結論した。

 

 

 

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