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安全委員会は、船舶の船体沈下現象についての文献(付録C参照)は、普通、海運会社に利用され、主に、浅海域、運河あるいは港に向かう河川を航行する船舶に注意を呼び掛けるときに使用されるものであることに気付いた。このような水域では、船舶がふくそうし、速度制限があり、航路も、当然、曲折していることが多いこと、あるいは、他の理由で必然的に速度を落さざるを得なくなることから、一般に、船体沈下現象は、それほど深刻な問題にはならないのである。そこでは、速力を12ノット程度として航行するので、その結果として船体沈下は、多くの船舶運航従事者が経験するように、2フィートか、それ以下に限られるのである。また、あちこちの水路においては速力を下げ、船底を砂地や泥土にこすらせた状態で航行することがしばしばある。このような状態は、低速力で、航路の水底が柔らかで、船長や水先人が、その水域の航路事情を良く分かっているのであれば、通常、危険ではない。QE2の航行条件は、高速力、岩場の海底、そして滅多に大喫水船が通航しない航路であるなど、全く異なったものであった。

高速航行中に船舶が経験した、異常な、大船体沈下現象についての情報は、水力学学界の外部には広く伝達されていない。しかし、QE2の乗揚が示したように、高速力航行を売り物にする船舶が、古い感覚では浅くはないと思われ、速力制限がないと思われている水域を、しばしば、高速で運航することがある。それでもなお、船体沈下現象は、船舶が高速力で航行すると、本件で見られるように、このような水域を浅い海域に変えてしまうのである。そこで、特に、高速航行時における、船体沈下に関する情報の欠如が、危険を招くことになるのである。

安全委員会は、もし、船長と水先人が、浅海域では大船体沈下現象が起きることがある得るとの、船舶運航者からの情報が入っていたら、深海域を通る進路を選んで速力も減じ、それで、事件を防いでいたであろう。船長と水先人は、QE2がヴィンヤード海峡を通過する際には、経験から大ざっぱに考えていた2フィートの3倍も超える沈下量が生じるとの知識があれば、大変な利益を得ることとなったであろう。このような情報は、船長と水先人が協議するときに、安全航行の結論を出すための不可欠な知識となった筈である。安全委員会は、船体沈下について役立つ情報の欠落が、船長と水先人が船底下深度を過大推定したことの原因であると信じる。

世界の商船隊には、コンテナ船、旅客船とか、非常に多くの高速船が存在している。この種の船舶は、標準的に15から27ノットの速度で就航している。定まった大西洋横断航路に就航するだけであった、昔の定期旅客船と違って、最近の観光目的の航路に就く旅客船は、お客の要望と経済的な要請で、ある地域から別の地域まで海域をいろいろに変えて就航するようになった。

 

 

 

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