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そこで、最近の観光目的に就航する旅客船は、航海士にとっては比較的新しい航路に就航するとか、深喫水船が航行したことのない航路に就航することが決して珍しいことではなくなった。当然、同じ状況が、コンテナ船や一般貨物船にも生じている。最新の旅客船は、1,000ないし2,600人あるいはそれ以上の旅客と、1,000人にものぼる乗組員を乗船させていることから、一旦事故が起きれば、多数の人命喪失とか、あるいは負傷者を出す結果を招くことになる。コンテナ船や一般貨物船にとって、事故は、乗組員を危険にさらすことになるし、燃料油、貨物油、または有害物資を流失させることで環境に損害を生じさせることにもなる。これらの船舶は、その船長とか水先人に、船体沈下量についての情報が伝わるようになるまでは、基本的にQE2と同じ危険にさらされた状況にある。

 

船体沈下現象に関する情報の作成と船内掲示…1968年以降、世界の海運業界は、貧弱な操縦性能の船舶が招いた、人命、財産、そして海洋環境を危険にさらす、問題点に対してIMOの席上において適切な資料を提供するとか、注意を呼び掛けるとかの努力を重ねてきている。この永続的な努力は、進展してIMO決議A.601(15)“操縦性能の情報の作成と船内表示”(決議)に結集した。安全委員会は、船舶の操縦性能や船体沈下の特異な現象について、形態に関係なく、全船舶の運航者に教示するための止むことのない努力の一つとして、この決議へと進展したことを注目すべき成果であると評価している。事故防止のため、早急に必要とされていた、この種情報が、ざーと調べただけでも目に入るアルビナス、機船ウェルパーク、フォート・カルガリーの比較的低速船の場合も含めて、QE2の船体沈下現象がらみの乗揚で、再び脚光を浴びるようになった。

IMO決議は、実際に適用するにあたり、海運業界全体が経験による知識を得るために広く活用する意図をもった勧告書である。決議A.601(15)は、1987年の国際的賛同を受けて採択されたとの事実に加え、IMO決議は、船体や航路の安全を改善することを目的とすると宣言している。安全委員会は、この決議が実際に運用されていないことを懸念している。そのため海運業界は、決議を実際に適用するにあたっての知識を未だ得ていないのである。この状況は、かなり先まで続くように思える。安全委員会は、この決議が国際規則か、SOLAS条約によって強制されないで、単に、勧告文として留まり限り、その成果は上がらないと考えている。QE2の乗揚事件は、きっと、海運業界の安全に対する認識を高め、決議A.601(15)に関連した安全取締り員の配置や同項を実施することの必要性の認識を高めるであろう。

安全委員会は、決議の内容を実施することが、海運産業を必要以上に苦境に陥れるものではないと信じている。決議は、船体沈下量を、単に、推定で求めるようにしている。この船体沈下量の計算は、経験的な公式や過去20から30年の年月を経た研究によって発展させてきた実験的な資料を使って達成されるものである。

 

 

 

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