日本財団 図書館


船体損傷は、乗組員、旅客に対する危険もさることながら、船体を浸水、沈没あるいは転覆の危険に曝すことになる。IMO規則は、全旅客船にに対し、船体を二重底構造とすること、相当程度の船体損傷に対しても安全を保つことのできる復元性を持って建造することを求めている。この建造条件は、QE2が発生した損傷に十分に対抗することを可能にしたし、旅客を安全に退船させることを可能にすることにしている。もし、二重底が破損していたなら、結果は、もっと重大なものであったろう。

 

船体沈下現象に影響を与えた船長及び水先人による船速決定結果…船長と水先人は、QE2の運航予定に合わせるよう、相談の上ほぼ25ノットの速力を選択した。先述したように、24ノット速力では、4フィート半ないし8フィートの大きな船体沈下が、推測されている。

表2では、水深40フィートにおける船体沈下量と速力との関係を計算して示す。

 

表2--船体沈下量と速力との関係

057-1.gif

 

QE2の水先人と船長は、いつもは、船体沈下の現象に気付いていた。実際には、4フィート半から8フィートもあったのだが、二人とも2フィート以上の船体沈下はないと思っていたと証言している。多数の船舶運航従事者は、多分、QE2の船長あるいは水先人が船体沈下量を2フィートと踏んだことに異論を持たないであろう。制限された水域で、10から12ノットあるいはそれ以下の速力で航行中に経験する船体沈下量を基準にすると、その値は一般的なものだからである。

船舶運航従事者の高速航行中に生ずる船体沈下現象に対する不適切な理解は、その要因の複雑さにあると考えられる。航海中、喫水計あるいは一般的に使用されている計器類を用いても、船体沈下量を船内で正確に計測することは不可能である。何故なら、船底下の深度が減少しても、普通、喫水そのものには、変化が生じないからである。船舶運航従事者は、船体沈下現象が発生しても、それを目にすることはできないし、一般には、本件のように事件後の分析で推論するだけで終わるのである。また、船体沈下現象は、減速につれて減少し、速力が停止した直後には、全く、なくなってしまうのである。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION