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同時に、安全委員会は、船長が自船の航行模様を監督しなかったことも、本件発生に大きく関係したと断定した。本船船長は、事件発生当時在橋していたものの、自らが航行の指揮をとろうとする意図を全く示さなかった。水先人によれば、船長は、水先人が在橋している間、自船の運航のことよりも、最近買い求めたパーソナル・コンピューターに夢中になっていたのであった。それもさることながら、水先人と当直航海士は、濃霧の中を航行しているのに、それぞれの運航方法に従っていて、まるで、別々の航海をしてるように見えたのである。両人は、運航についての相談も作業内容を一致させることもしなかったのである。

イギリス貿易省は、1978年8月に、英国商船の船主、船長、航海士及び漁船の船長、次席船長(注39)に向けて船舶通報M.854号を発行したとき、事件発生前に錯誤の発見を可能にする基本的な運航上の日常作業が欠けている点に触れた、水先人の運航に関しての簡潔な文書を発表した。船舶通報M.854では、“...水先人の意図は、その船舶の船橋当直者に十分に理解され、受け入れられる”ものであること、“...水先人は、航海計画について情報を交換し、以後、その内容に従うこと”を推奨している。

この船舶通報は、完全な航海計画をたてるのを求めることに本意がある。その計画には、時により、水先人を加えるものとしている。しかし、M.854で示されているこの計画の手本は、短い航路の航海計画に、容易に、当てはめられるものである。その航海中は、水先人は雇用人であるが、船長/水先人協議の重要な担当者である。しかしながら、船舶通報各通は、安全運航の指針である。

注38 海難抄報--パナマ共和国籍旅客船バーミューダ・スター乗揚事件。1990年7月10日マサチューセッツ州バッザード湾で発生。(NTSB DCA90MM043。1993年2月12日採択)

注39 英国漁船の船内職務系列の中で、上から二番目に位置する人間のことである。

 

安全委員会がシノーサ、バーミューダ・スター、あるいは、その他の事件の調査から得た結論は、乗組員集団として、運航上の成果を上げるため、当直航海士同志や水先人、当直航海士間の意志疎通の領域や度合いを拡げたり、高めたりする必要があることを明らかにしている。安全委員会は、IMOやコースト・ガードが船橋資源管理訓練のための基準や教科内容を開発すべきであり、そして、これに基づいた訓練を船長、航海士、水先人の必修とすべきであると考える。安全委員会は、航海当直に船橋資源管理訓練技術を効果的に組み入れることが運航の安全性を飛躍的に高めると考えるし、水先人と航海士はこの訓練を受けるべきであると考える。更に、安全委員会は、海運業界が船橋資源管理訓練教科科目を立案する際には、航空業界が発展させてきた航空機の操縦室資源管理訓練を参考にすべきであると考える。

 

 

 

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