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船橋資源管理は、水先人、船長、それに、それぞれの航海当直を構成する乗組員全員との間で、不適切な情報が交換される事態となるのを防止する、実務上の問題点を問いかける管理体制の見本を提供するものである。本件にあっては、BRMから、各時間割における船橋当直者全員が、もっと積極的に情報交換をすべきであったこと、本船の状況、性能、全般的な状態に気付くべきであったことを学ぶことができるであろう。船橋資源管理を行っていれば、当直者達が運航上の決断に寄与できるものを見つけることができたであろう。また、BRMは、本船航海当直者が伝統的な船橋当直手法によるよりも、緊急時の対処をもっと効率的なものとすることを可能にしたであろう。QE2の水先人と船橋当直者の行動は、船橋資源管理の意味合いから検証され、その結果、それから逸脱している幾つかの事態が明らかになった。

船橋資源管理は、船内での運航活動に対する管理に、どちらかを選択するか判断材料を提示している。安全委員会の調査では、水先人が予定進路を変更しようとしたとき、本船に重要な結果をもたらせた諸要因に、水先人も船長も気付いていなかったとの結果が出た。この欠陥は、状況認識に対する古来からの解釈(注33)、即ち、効率的な船橋資源管理に対する基本的な要求に関連している。状況認識の逸失についての、解決の糸口の一重要点は、計画あるいは予定していた進路線からの離脱にある。安全委員会は、水先人による“NA”灯浮標地点での針路変更の意図を船長が十分に理解していないことに対して、注意を喚起するものがなかったと断定した。進路線を変更するとの決定は、変更理由、あるいは、水深が減少していく海域に接近している意味合いを完全に評価しないまま、元の進路線に戻ろうとする結果となった。

また、安全委員会は、水先人、船長、それと、各船橋当直者間での情報交換方法を改善することが絶対に必要であると確信した。船長が水先人の意図を確かめずに想像で判断し、水先人は、自分が実際に考えている内容を船長に知らせるまでもないと考えていたのが明らかである。水先人は、航海を遂行する上での航海士達の能力には全幅の信頼を寄せていたと述べている。水先人は、二等航海士が本船の進行状況を監視し、それを船長に報告していたことを知っていた。水先人は、ナビゲーターが計画したものよりも、むしろ、自分自身で考えたやり方で運航することを選んだと述べている。船長は、水先人が入航進路の反方位線を経由するものと想像していたと証言した。こうして、水先人が考えていたような、本船の運航手順は、船長にも船橋当直者にも伝わっていなかったのである。

調査結果から得た証拠では、船長は、水先人がどの進路で下船地点に向かうのか十分に理解していなかったこと、及び、水先人が“NA”灯浮標のところで針路変更を考えたことが判明した。安全委員会は、もし、船長と水先人の問で適切な意志の交換があったなら、船長がブラウンズ・レッジ礁の南方を通過する進路線に戻るよう水先人に提言し、船長と航海士達は安全運航の観点から、計画予定進路線に戻るか、戻らないか、その意味合いを討議したと確信している。

 

 

 

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