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もし、航海士達が“NA”灯浮標での転針直後か、あるいは、出航前の水先人/船長の話合いの中に入るかして進路に就いて討議したなら、乗揚の危険度が増大していることを判断できたであろう。

安全委員会は、自分の航海計画に十分な経験を積んできた船橋当直者達を引き込むことを嫌がったことに関心を持つのである。水先人は、船橋当直者の航海技術に信用を置いていたのは明白であり、船橋当直者がどんな些細な計算違いも見つけ出すものと考えていた。しかし、水先人が、発航前に予定全体を船橋当直者に納得させることに失敗したので、船橋当直者が水先人の決めたことを効率的に監視も確認することもせずに終わったのである。水先人の運航予定にこの船橋資源を加えることで利点が生じるのは、明らかである。そして、もし、本船の水先人が、BRMの概念に詳しかったら、きっと船橋当直者に予定を承知させたであろう。

BRMの概念は、1970年代の初頭に、航空機事故における操縦士の失敗の裏にある複雑な問題を研究することに始まって、発展してきたものである。その研究で、操縦士個々の技能よりもむしろ、乗務員間の共同作業とか乗務員同志の意志の疎通、決断力または指導力とかの、他の要素が、表面に表れない原因となっているのが分かったのである。航空乗務員の実務における心理学的問題点についての論文(注34)で、ロバート・L.ヘルムライヒ博士は、失敗を減少させるために乗務員の行動修正に効果をもたらす手段としての訓練計画の有効性と限界とについて解説している。博士は、“最高の効率性が、生死を分けるような決定的状況にあるときに、限界のある個人の能力に頼ろうとする考えを変えることで、結果として、より適合性のある行動科学的策略と、これに順じた行動とが生じることになるであろう。”と記している。船橋資源管理の訓練は、個人が仕事場に持ち込む態度の変化と、生まれついての人間の特質をより緊密で効率の良い就労環境を切り開く方法とを示すのである。

安全委員会は、海運業界が航海当直の適切な管理についての伝統的な姿勢を再評価する必要性を呼び掛けてきた。ハワイ州、ホノルル付近で発生した、油送船乗揚事件についての最新の報告書(注35)で、安全委員会は、

近代的運輸組織の管理体制は、団体管理の形式をとる単純な階級組織から長年月をかけて発展してきたものである。そこでは、一団の中で様々な段階の経験と高度の技術を修得した一人あるいは数人の者が、複雑な運航体系を手際良く処理、監視できる者となって、その専門的知識に対して指令権を与え、それ以外の者全員で、指令内容を遂行するとする形態のものである。当委員会の本件調査の中で、我々は、しばしば、航海機器の故障や調整の欠陥、意志疎通の欠落、作業割振りの失敗を見てきた。

 

 

 

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