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二等航海士は、顕著な陸上の物標をレーダーでとらえて船位を測定し、水先人による運航模様を見張っていた。QE2が、予定進路線から離れたとき、二等航海士は、一等航海士にこのことを報告しているし、一等航海士は、続いてこの針路変更の件を船長に報告して注意を促した。船長は、予定進路線に戻す考えを水先人が実行するよう、一等航海士を通じて伝えたのである。この二等航海士(航海担当)から始まった伝達手段は、情報の正確性を厳格に保持することや伝達内容に対する責任の所在のことを考えた上で、許されるとしても、伝達の輪の中で、各関係者間を次々に伝わって行くのには、時間を必要としたのも事実である。更に大事なことは、伝達の輪が、水先人の運航活動と本船航海士の運航動作を分離させたことである。こうして、船橋内の誰もが、水先人が現在行おうとしている考えを判断できなかったし、ブラウンズ・レッジ礁の南方に向けることで予定進路線に戻そうと急激に針路を変えた、その水先人の意図を考慮する時間もなかったのである。

この伝達の輪では、同じ具合に、船長が二等航海士の船位測定結果を直接見ることも妨げていた。船長は、進路線が水深39フィート地点を通過することに気付いていなかったと証言している。また、二等航海士は、乗揚前にこの状況を誰にも伝えなかったと述べている。これは、進路線を明らかに自分だけで評価していたからである。安全委員会は、この情報の伝達過程は二等航海士が水先人による新しい進路線では水深39フィート地点を通過することになるのを誰にも知らせなかったことから生じたのかどうかについて結論を出していない。もし、二等航海士がこの情報を水先人にはもちろん、船長に伝えていたら、進路変更によって生じた乗揚の危険性は、予見されていたであろう。

 

運航体制における船橋内諸資源管理…船橋資源管理(BRM)では、一つの事態から関連して発生する船橋内の情報を在橋する全員に通知する必要があるとしている。そうすれば、船橋当直者がそれぞれの立場から提供する最善の情報を基に、船長が最終決断を下すことができるのである。船橋資源管理に、航海計画が含まれるのは当然のことである。水先人が、船舶に赴いた際には当水先区の知識や特殊な状況を、情報の一環の中で運航従事者全員に対して示さなければならない。

効率的な船橋資源管理における問題点の一つは、その場において必要とされる船長、水先人間の協議の内容と質である。現在のところでは、嚮導の開始に先立っての、本船の状態や操縦特性を簡単に聞き取る程度のものでしかない。航海予定の詳細を聞き質すことや嚮導中にも船舶についての情報を聞き出すことはしないのである。それ以上に大事なのは、協議が、単に、船長と水先人だけのものとなっていることである。そのため、両者で航海計画について十分に話し合っても、他の船橋当直従事者には、その内容が分からないで終わる事態となる。

 

 

 

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