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国際海事機関(IMO)及び合衆国コースト・ガードの両者が、この情報を作成し、掲示することを目的として行った作業を次に要約して示す。

1968年以降、IMOは、船内に掲示することを目的とする、操縦性と船体沈下現象の情報に関する基準表を制定する作業を続けてきた。IMO加盟各国政府代表者による徹底的な技術解析と討論ののち、“船内に準備し、表示する操縦性”についての決議A.601(15)(以後“決議”と言う。)が、1987年11月19日にIMOにおいて採択された。船舶の操縦性の情報に加えて、決議は、実験で得られた種々の速力における、船体沈下予測量を示した表示板を操舵室に掲げることを勧めている。更に、決議は、可航制限水域内のものは当然として、外洋、浅海における水深と喫水及び速力に関連した予測船体沈下量が記載された操船用小冊子を船内に準備するよう勧めている。IMOは、少なくとも長さ100メートル(約328フィート)以上の全船舶及び船舶の寸法に関係なく新造の化学物質運搬船と天然ガス専用船とに、この情報の表示を自国の船主に奨励するよう、各加盟国政府に対して要求してきている。しかしながら、強制であるIMOによる海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS)に書かれた要望と違って、IMOの一決議は、単に勧告だけのものである。一般的に見て、IMOの長期戦略は、実践的運用をとおして十分な経験が得られたのち、決議をSOLAS条約に組み入れることである。決議は、1987年に採択されたのだが、未だ、SOLAS条約に組み入れられていないし、安全委員会は、IMOが近い将来に組み入れる計画を持っているかどうかも承知していない。

1990年1月にコースト・ガードは、IMO決議A.601(15)への注意を促すため、“操縦性の情報”と題する、航行及び船舶点検についての文書(NVIC)7-89を発行した。そこには、操船者に向けての操縦性と船体沈下の情報を表示すための標準型式について、船主と運航会社に対する指導内容が記されていた。コースト・ガードのNVIC集は、業界に向けての指導内容を示していたが、規則と違って、拘束力を持つものではない。

一方、コースト・ガードは、1984年11月28日発効の規則を既に公布していて、その33CFR164.35(g)項で国内、外を問わず総トン数1,600トン以上で合衆国領海内で運航されている全船舶に対し、操縦性能を示す情報を操舵室に表示することを求めている。しかし、コースト・ガードの規則は、IMOが決議を採択する前に制定されたので、この規則には、船体沈下についての情報を掲げることを定めていない。また、同規則は、決議に沿っていないし、決議を参照もしていない。その結果、IMO決議に勧告されているにも拘らず、通常、船体沈下の情報は、船内に表示されていない。このため、QE2船内には、それぞれの船舶で独特な、操船者や水先人に向けた船体沈下の特性を示す情報が表示されていなかった。

前述したコースト・ガード規則の権限は、1972年(合衆国公法12-21及びその他の条項。)のポート・アンド・ウォーターウェイ安全法(PWSA)によって公認された。

 

 

 

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