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この法律は、その後、1960年代後半に発生した油送船の幾つかの乗揚海難による重大海洋汚染及び環境破壊事件に適用されている。この規則は、PWSAの実効を高めるため--すなわち、航路と船舶の安全及び“国家の主要な施政方針である、”海洋環境保全の両方を促進するために公布されたものである。

高速力航行中の船体沈下現象の情報は、未だ、航海者が使用できる状況下におかれてなく、基本的には、水力学研究者の用に供されているだけである。一般的な浚渫基準値は、港湾あるいは浚渫関係の当局が、安全航行のため(注23)、水路に必要な水深を決定するときに使用する目的で開発されてきたものである。船体沈下現象に体してどれだけの余裕をもたせるかが、船底下の安全水深を決定するのに重要な問題点となる。ケープ・コッド運河を管理する合衆国陸軍工兵隊の担当技師が、同運河の通行管制係員向けに1966年に刊行した航行指針では、船体沈下のために採られる余裕深度を1フィート半から2フィートと精しく記している。しかし、この基準値は、5ない12ノットの低速力を基本にしていて、概してこれより高速で航行する船舶には利用できないし、様々な船体形状の船舶による船体沈下量の差異については考慮されていない。

 

船長及び水先人の船体沈下に対する知識…QE2の船長と水先人は、長い乗船体験から、浅海域では船底下水深が減少(船体沈下現象)することに、おおよそは気付いていた。両人ともヴィンヤード海峡航行時のQE2の船体沈下は、1フィート半から2フィートであろうと考えていたと証言している。一船の船長とか現場の水先人り船体沈下現象に関する知識は、一般に、浅水域における低速力での操船中に実務経験から得られるものである。一方、前述の資料から得られる、本船が24ノットの高速航行中に発生する船体沈下予測量は、約4.6ないし8フィートになる可能性を示している。

 

船体沈下現象による海難事件の前例…安全委員会は、海洋汚染と重大な金銭的損傷を招いた、同現象に関連した多くの海難事件例を知っている。同委員会は、1984年に、ルイジアナ州カメレオン近郊のカルカシュー運河入口において、“[英国籍]油送船アルビナス(注24)が乗り揚げた原因は、船首トリムを増加させた過大速力”であると断定した。この事件では、船体に大破損が生じ、10,000トン(約3,000,000ガロン)の原油が流出した。ほぼ3,000トンが、テキサス州の海岸線に押し寄せたのである。原油排除と陸上施設の修理に推定2,000万ドルを費やした。安全委員会は、速力10ノットで航行中、アルビナスの船底下深度が船首で約4フィート減少したと推定した。

専用船ウエルパーク(注25)が、1977年8月14日アルゼンチン共和国ラ・プラタ川を8から9ノットで航行中、アルビナスの乗揚と同じ船体沈下現象で、沖合に突き出た砂洲に乗り揚げた。

 

 

 

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