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行為地説の論拠としては、行為地において物的・人的証拠を最も容易に収集できることがあげられているが、証拠の収集については行為地よりも結果地の方が容易な場合が多い。また、行為地説に対しては、仮に犯人が行為地国以外の国に逃亡した場合、犯罪人引渡しについて条約前置主義を採用する国との間で引渡条約が締結されていないときや、犯人の現在する国が自国民不引渡しの原則をとるときは、行為地国への引渡しが行われないこともあり得るという難点をかかえると批判されている(4)

第二の「結果説」は、構成要件的結果が発生した場所をもって犯罪地とする見解である。前述の国境を越える銃撃事例の場合、結果説によればBが死亡したオランダが最終結果の発生地なので犯罪地ということになる。もっとも、Bがオランダで死亡したことは偶然的要因によるものであり、ドイツで負傷した段階でAの殺人の実行行為による法益侵害が現に発生しており、ドイツの法秩序は侵害されているのでドイツも中間結果の発生地であり、それも結果の発生地として犯罪地とされている(5)

しかし、結果説に対しても、仮に犯人が結果地国以外の国に逃亡した場合、犯罪人引渡しについて条約前置主義を採用する国との間で引渡条約が締結されていないときや、犯人の現在する国が自国民不引渡しの原則をとるときは、結果地国への引渡しが行われないこともあり得るという行為地説に対するのと同様の批判がされている(6)

そこで、この両説の欠陥を補うものとして登場したのが遍在説である。遍在説は、狭義の行為が行われた場所および結果の発生した場所を犯罪地とする見解である。これによれば、前述の銃撃事例の場合、ベルギーもドイツもオランダも犯罪地ということになり、同一事件について三つの国の刑法が適用されることになる。遍在説は属地主義を拡張適用するものであるといってよい。遍在説は一般に大陸法系の諸国でとられている立場で、ドイツでも我が国でも判例・通説のとるところとされている。

これに対し、アメリカでは、属地主義(遍在説)の範囲を超えて、国外で行われて行為であっても、内国の秩序に対して「実質的な効果」(substantial effect)を現実に及ぼすものであれば、国内犯として内国刑法を適用し処罰できるとする「効果主義」がとられていると指摘されている(7)

 

 

 

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