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属地主義(遍在説)では、国外で行われた行為を国内犯として処罰するためには、構成要件的結果が国内で発生する必要があるが、例えば麻薬その他の規制薬物の輸入のための共同謀議や所持が国外で行われた場合は構成要件的結果が国内で発生しているわけではないので、属地主義(遍在説)では処罰できないことになる。そこで、内国の法秩序に相当程度の有害な効果を与えるものであれば、効果主義に基づいて処罰できるというのである(8)。しかし、効果主義は、属地主義の拡大であり、内国刑法の適用範囲が拡大し本来の属地主義に基づく相手国の刑事管轄を不当に侵害することになるという批判がなされている(9)

ドイツでは、1940年以来積極的属人主義がとられていたが、その後、属地主義の原則に戻ったとされている(10)。現行ドイツ刑法は、3条で「ドイツ刑法は国内で行われる所為に適用される。」と規定し、犯罪地決定の基準については遍在説をとることを明文で規定している。すなわち、同法9条1項は、「所為は、犯人が作為を行った場所、もしくは不作為の場合には作為を行うべきであった場所、又は構成要件に属する結果が現に発生した場所、もしくは行為者の表象によれば結果が発生するはずであった場所の、いずれにおいても行われたものとする。」とし、行為地、結果地のいずれもが犯罪地であることが宣言されている。また、2項は、「共犯は、(正犯)行為が犯された場所のほか、共犯者が作為を行った場所又は不作為の場合には作為を行うべきであった場所もしくは共犯者の表象によれば(正犯の)作為が行われるはずであった場所の、いずれでも行われたものとする。国外犯の共犯者が、国内で(共犯)行為を行ったときは、行為地法により(正犯)行為に刑が定められていないときでも、共犯につきドイツ刑法が適用される。」と規定し、正犯の犯罪地のほか共犯自身の行為地も共犯の犯罪地になるとこと、さらには国外で行われた正犯行為に国内で関与した共犯については、行為地法によれば正犯行為が可罰的でない場合でもドイツ刑法の適用があることを宣言している。

このようにドイツ刑法は、犯罪地の決定基準をめぐる学説の争いを、遍在説を採用することにより立法によって決着をつけているが(13)、同様の立法例としては、フランス(14)、スイス(15)、イタリア(16)、オーストリア(17)などの各刑法典がある。これに対し、我が国では犯罪地の決定基準については依然として解釈に委ねられているのである。

 

 

 

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