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ところが、犯罪の国際化が進むにつれて刑事管轄権の競合が起こると、どこの国の管轄権を優先すべきかという調整の問題が生ずる。もっとも、自国の法律に照らして被疑者を現実に逮捕するという執行管轄権や、被告人を裁判にかけ処罰するという裁判管轄権については、原則として、犯人が自国領域に存在する場合に限られるので、二国以上の管轄権が競合するという事態は起こりにくい。これに対して、どのような行為を犯罪として処罰の対象とするかという立法管轄権については、各国に認められている自由の範囲が広いだけに、競合の問題が生じやすいといえる。

この刑事立法管轄権について、今日、世界の諸国は、いわゆる属地主義をその基本原則として採用している(1)。我が国の刑法も1条1項で「この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。」と規定し、属地主義を基本とすることを宣言している。属地主義とは、もともとは、犯罪その他の違法行為が自国の領域内で実行された場合に、これを理由に、実行者の国籍のいかんにかかわりなく、この行為・事実に対し自国の国内法令と管轄権を及ぼそうとする原則である(2)

この属地主義の根拠としては、第一に、主権の及ぶ範囲の領域内で犯された罪については、その国の主権に基づいて刑罰権を行使し、それによって法秩序の維持を図ること(主権国家の法秩序の維持)、第二に、犯罪地国では、犯行の目撃者や被害者がいるとか、犯行を裏付ける物的証拠が存在するなどの理由により、犯人を訴追し、訴訟を遂行するための証拠の収集が容易であること(証拠収集上の利点)などの点が指摘されている(3)

 

(2) 犯罪地の決定基準

属地主義にあっては「犯罪地の決定」が重要な意義をもつ。その判断基準として、通常、三つの学説の対立があるとされている。

第一の「行為説」は、狭義の行為(Handlung)、すなわち、行為者が身体の挙動をした場所が犯罪地であるとする見解をいう。例えば、犯人Aが殺意をもってベルギーで、ドイツにいるBに対して国境を越えて銃撃したところ弾丸はBに命中し負傷したが、被害者Bは治療のためオランダに行きそこで死亡したという事例の場合、行為説によればAの実行行為が行われベルギーだけが犯罪地ということになる。

 

 

 

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