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一方、分野のかかわり方にかかわらず、本質的に内容が複雑であり、旧来の分化した研究分野も手法を動員しても解けない学問領域や対象が存在する、という捉え方も生まれてきた。いわゆる複雑系と呼ばれるものである。物理学やシステム科学で複雑系という場合には、大方は以下のような特性を持つ系と考えられている。

(非線形性の強いもの

大数を扱わなねばならない領域

非可逆性のもの

非兵衡系、開放系であるもの

ブラックボックスの多いもの)

複雑系と見られる研究対象は、正直なところ、その“難解さ”、“曖昧さ”等の故に、突込んだ仕事には不向きと考えられ、後廻わしにされてきたきらいが大きい。自然科学分野に限られることなく、“不透明”な領域を多く含む社会現象についての科学にも当然多くのアイテムが存在する。

フォン・ベルタランフィが一般システム論を築き、近年ゆらぎとかファジーといった“曖昧さ”へのアプローチが重要視されるに及んで、複雑系への認識は急速に高まってきた。最近では一種の流行り言葉のきらいさえあるかに見える。複雑系の文字を付した出版物の氾濫がそれを物語っていよう。一頃の“システム”流行りに近い。

複雑系の科学は、今のところその方法論の確立にまでは至っていないが、全体性とか総合性が巨大科学、マクロサイエンスで非常に重要であるという認識が、地球環境問題のような現実の課題が登場してきている現代において大いに高まったのである。

学問の動きの中でのspecializationが、研究分野の分化・深化でほぼ達成された段階で、他の極をめざすgeneralizationが統合・総合の手法が見出せないまま、“放置されていた”事態への反省が始まったことは科学史にとっては大変重要な“事件”(event)と解すべきであろう。

複雑系という実現の中には、学問分野といった固苦しいことではなくても、現実に要素が極めて多く、それらの難関を簡単に捉えることが困難なもの、という単純でありながら正しい認識があり得よう。再び、海洋・地球・生命・社会といった研究対象の例にとれば、それらはまさに“混沌”に近い複雑性を内包した「メガシステム」的存在を見て何ら不思議ではあるまい。

複雑系の研究は、こうして、学問論としても、問題解決を迫られているプラクティカルな課題としても大変重要であり、注目されるべきものであるといってよい。

 

 

 

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