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3-3-2 複合系・複雑系について

学際的研究がある時からしきりに強調されるようになった。分化・深化を錦の御旗に学問分野が発展してきた歴史的経緯の中で、細分化された最先端の研究分野では、全体の中でそれがどのように位置づけられ、どのように流れていくのかが認識できぬ研究者が出てくるような事態が発生してきた。気付かぬうちに、隣接科学に踏み込んでいる、というケースも少なくない。

そもそも、研究分野は、研究者の勝手な都合でつくり上げてゆく性格のものであり、それが学問分野として認められるときもまた、他から区別し易い独立的分野であることなどの強調をふまえた人為的分類の発想が先になる。したがって、古典的・伝統的な分野分類に収まらない性格の“新分野”が狡さと開拓されると、それらをどこに所属させるかが問題になることもしばしば出てくる。

具体的には、学会発表を考えたとき、何学会に提出したらよいのか、投稿編をどれにしようか、といった戸惑いに始まり、講演時のセッション分けで思わぬところに配分されて困ったり、という事例が少なくない。論文提出例はもちろん、プログラム作成担当者側も大いに悩む場面である。

現代的課題をとり上げたシンポジウム、フォーラム、ラウンドテーブル、コロキウム等では、いわゆる異分野に身を置く研究者が一堂に会して討論に花を咲かせ、実り多い成果をもたらす例が増してきているのが最近の学会事情の共通性といってもよい。先端化という観方は、かつては細分化で達成されると見做されていたが、今日的センスでは、いくつかの既存分野に跨がる研究の広がりを持った新分野をも含めて考えるべき時代となっている。

このような事態が発生すると、学際研究は必然的に複合系としての研究対象を持つことが多くなり、多様な組合せが生じて研究分野の活性化に大きく貢献することになる。旧来の総合研究とか総合調査の実態は、正直なところ、いくつかの異分野の人々からのレポートを一くくりにし、内容的融合が達成されていなくても、多手法というニュアンスで学際的とか総合的、と主張するケースがまま見られたものである。分化・深化を旨としてきた研究者集団の仕事として、ある意味で必然の結果といって過言ではない。

複合系と認識される研究は、一般的に言って、基礎科学領域でよりも、当然応用的あるいは自然史科学的領域においてはるかに多くなる。海洋科学、地球科学、生命科学等がその代表的存在であることは言うまでもあるまい。含まれるアイテムが多彩であり、研究手法も多岐に亘るからである。つまり、「複合系の科学」という認識は、いくつかの分野にまたがるものとしての定義なのである。

 

 

 

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