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そして海上交通のグローバル化は陸上よりも大きく進んでいるので、海上交通を国と国との間の「国際交易」と考えるよりも、それ自体が周辺地域を結びつけるものという観点からみるべきであり、そのような意味で世界のいろいろな海をみるべきである。

海洋はまた多くの資源の宝庫である。しかし最近まで海洋は海岸における製塩などのほかは陸上でいえば狩猟採取段階に当たる漁業の場として利用されてきたに過ぎなかった。それは誰のものでもないところにある資源を、ただ拾ってくるだけの活動に過ぎなかった。最近水産資源の枯渇が心配されるようになって、ようやく海洋資源に対する沿海国の権利が200海里水域という形で規定され、また各種の水産資源の保護もいわれるようになった。しかし海洋の資源をどのように管理し、有効に利用すべきかについての議論はまだようやく始まったばかりである。陸上の牧畜に当たる養殖漁業もまだ規模が小さく、原始的な段階にとどまっている。海洋中の生態系を利用して、再生可能な資源である海洋生物をどのように管理するかについての研究はまだ始まったばかりである。このような問題は沿海国の利益の観点からではなく全人類の共通財産としての海洋という視点からなされねばならない。

海洋については生物資源だけでなく、海水中に含まれる鉱物、あるいは大洋の海底の資源なども問題である。それについてもまだ未解明の部分が多い。

海洋資源については、その存在の解明や資源利用の技術的方法とともに、その利用についての国際的ルールの確立が必要である。それは国際法の新しい領域を開くことになると思われる。

海洋の社会科学的研究にとって必要なことはデータの整備である。社会に関する基礎的データを与える統計は原則として陸上の国家を単位として作られている。漁獲の統計にしても漁業者が本拠を持つ陸上の国ごとにまとめられている。そこから例えば特定の海域における漁獲量を推定することは不可能でないにしても著しく困難である。国ごとの統計を寄せ集めて作られた国際統計から、海洋における人間の社会的活動の総体を把握することは困難である。国家という枠組みを越えて地球を一つの全体として把握したグローバル統計の一環としての海洋統計の体系を確立する必要がある。

国家の枠組みを越えた海洋社会科学を確立すること、そのための学際的研究を推進することを提案したい。

 

 

 

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