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海は海外overseasという言葉にも表されるように、国の「外」と理解され、そしてごく最近200海里漁業権の問題が生ずるまで、海洋の大部分は公海open seaとして、誰のものでもない開かれた場所とみなされていたのである。そこで社会科学が国民国家をその対象の基本単位とみなす限り、海に対する関心は周辺的なものとならざるを得なかったのであり、そして海洋に生きる人々は、マリノフスキーやマーガレット・ミードのような、国民国家以前の「未開社会」を対象とする文化人類学者の関心領域としかならなかったのである。

しかしこのことは誤りであったとはいわないまでも不適切であったというべきであり、海洋そのものを人類の活動の場として、正面から社会科学的に取り上げる必要があると思う。グローバル化の中で世界がますます一体化しつつある現在、国家という枠組みを越えて地球をみるとき、地表の70%以上を占める海それ自体として正面から取り上げて、人間社会にとってのその意味と役割とを科学的に研究する必要性が増している。

海洋に関する社会科学も、いろいろな面から考えられる。すなわち海洋政治学、海洋経済学等である。

海洋は古くから人々の交渉の場であり、また勢力争いの場であった。古くから海洋勢力と陸上勢力とは政治的覇権を求めて争った。海のギリシャと陸のペルシャ、海のフェニキア、カルタゴと陸のローマ、海のイギリスと陸のフランス等はそれぞれの時代における西ヨーロッパの覇権、そしてヨーロッパ内における覇権国の地位は海洋を支配することによって獲得された。「7つの海」を支配したイギリスは「Pax Britanica」を確立し、世界にまたがる大英帝国を建設することができた。イギリスに代わったアメリカも、太平洋、大西洋を支配して超大国としての地位を得て、大陸帝国としてのソ連と対抗し、冷戦で勝つことができた。「海を制するものは世界を支配する」というのは少なくとも近代においては、真理であった。現在、空の交通の発展に伴い、海の重要性は忘れられようとしている。しかし冷戦が終結した後新しい世界情勢の中で、世界政治における海洋の意義を軽視してはならない。新しい時代に向かって世界政治における海洋についての展望を開かねばならない。

海洋は古くから交易の通路として、人々と人々、国と国とを隔てるものであると同時にまた結びつける場でもあった。人間の国際的な交通の比重が海から空へ移った現在合でも、物資の運搬、交易路としての海洋の重要性は少なくなっていないのみか、技術の発達とともにその重要性は増している。海路の船による運搬が、陸路や況や空路による運搬に比べてはるかにコストが低いことは今も昔も代わりはない。そして技術の発達による、その速度、確実性、安全性ははるかに増大して、今や大洋も内海のようになっている。

 

 

 

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