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それ以外の東南アジアは、セデス流に言えば、インド化された地域として知られている。今日でもイスラーム化されている島嶼部や半島部の基層にはヒンドゥー・大乗仏教の影響が根深く残されている。

加えて、イスラーム文化自体も西インドのグジェラート地方の商人によってもたらされたのである。

東南アジアにもたらされた外来文明の主要な要素を要約すると、つぎの四点になろう。

1)文字・文章

2)組織宗教(専業の聖職者、書かれた経文、教団組織)

3)哲学(抽象的思考方法、たとえば他者の存在を認識すること)

4)王権の概念

これらについて、まず北方の中国から東南アジアにもたらされた外来文明について述べてみよう。

 

(4) 中国文明の“陸路”による影響

ベトナム人たちは、紀元前111年以来、約1,100年間にわたり、漢族の南進・侵略に抵抗し、中国の支配と戦ってきた。その過程で、もともと軟構造をもっていたと思われるベトナム社会に、中国文明を積極的に導入し、結晶化を進め、社会の硬構造化を果たしながら、抵抗運動を続けてきたのである。とくに中国に隣接している北部地方においては中国文明の影響は強く、社会の構造に及んでいる。

ベトナム社会を考える上で、最も注目すべきことは、中国的王権の概念を導入したことであろう。天と皇帝と民衆の関係が明確化されたことは、その後の国造りにきわめて意義深いことであった。しかも、漢字や漢文、さらには四書五経のような中国古典を基盤とした支配の原理や哲学などもこの地域の統合に貢献したといえよう。そのような儒教的伝統に加えて、道教や大乗仏教などのいわゆる三教もベトナムの文明化に大きな役割を果たしたと思われる。

もっとも、このようにしてベトナム北部に形成された“小中国”型国家システムも、メコン・デルタのような東南アジア的地理的空間への影響には限界があった。

 

 

 

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