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一般的なセンスからすると、漁業者にとって大切にすべきはずの干潟を掘削してまで、不法係留のプレジャーボート対策に漁港を拡幅する代償を払う必要があるのか、不景気な時代に小人数のレジャー目的の設備に1億円もの税金を投入するのか、高度利用は本当に必要なのか、などが理解されにくい。さらに、掘削区域の周辺には、希少な塩湿地に生育する植物が見出され、専門家は天然記念物級であると述べている。

これに対し、町、県の行政側は、漁協や漁港周辺の住民の意見調整をし、町議会を通った計画であるから、この計画は遂行されるべきと考えている。また、漁港計画に植物まで配慮しなくてはいけないとは思わなかったし、干潟もこれぐらいは掘削してもよかろう、15年間待った事業なんだから、と考えている。

しかし、計画自体の周知が徹底していなかったため、事業直前に植物や干潟生物の研究者や環境保全志向の市民からのクレームが表面化した。漁港事業にどこまでの意見を、どのように反映させればいいのかを悩んでいる。これらがメディアで報じられるような「大問題」にならなかったとしても、従来型の漁港計画の過程を踏んでいるだけでは、多様な意見に対応することが困難である。同じ土木事業でも、河川や道路の計画などでは、周辺住民との合意形成が盛んに行われるようになったが、漁港事業ではその経験が浅いために、今後も対応に苦慮する例が頻発されると予想される。情報開示、多様な意見の集約といった時代に突入し、漁港担当者に求められる資質も変化していると考えられる。

 

(2) 絶滅危惧生物の保全と内湾の管理:

大分県杵築市の守江湾内の漁港、港湾、護岸事業守江湾は瀬戸内海別府湾奥部に位置する小湾である。数多くの水生希少生物の棲息地として有名である。特にカブトガニ、アオギスは絶滅危惧種であり、その種を含む河口や干潟の生態系の保全を配慮した沿岸環境の管理計画が望まれている。湾に流入する河川の改修事業や下水道整備事業では、下流域の干潟への影響も含め、行政や専門家による検討が進められている。

しかし、その最中にも、埋立や港湾整備などが進展し、保全策と地方都市の経済発展を目指す開発行為との両立が困難となっている。各漁村集落の前浜に漁港を整備した結果、湾の閉鎖度を高め、水循環を分断する結果となった。さらに漁協の赤字を解消すべく海砂利採集が行われたが、漁場環境を喪失した。今後の沿岸管理に関して、地域社会がどういった選択をしていくのかが注目される。

 

 

 

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