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また、漁港整備事業が、土木業という産業として当該地域の経済振興にも影響している。よって、漁港事業の在り方は、地域環境の自然面・社会面の双方で、より重要性を持ってきている。

しかしながら、従来型の漁港事業の方法論では、解決出来なかった問題も顕在化している。例えば、自然環境保全との本格的な両立や、情報開示、地域の合意形成の下での事業推進などでは、考えるべき要素が多様化しており、従来の思考法や方法論では対処できていないようである。

過去の漁港事業をめぐる諸問題は、対象療法的に対応されてきたように思われる。

しかし、個々の事例を丹念に検証し、複数の例を比較することにより、問題のパターンが発見できる。それをもとに思考や検討を重ね、次回からは、よい意味で戦略的な事業計画が進められる可能性は高い。漁港事業者にとっては、当然、トラブルは未然に防止したいであろうから、問題解決の方策は、漁港関連分野のどこかの誰かが研究してくれたらいいのではないか、と考えるのは自然である。ところが、漁港に関する総合的視野からみた問題解決型の研究は、日本国内の研究機関でほとんど行われていない。個々の技術的、基礎的研究は行われているが、いずれも現実問題があまりに複合的であるがために、研究対象としにくいことも理由のひとつであろう。その結果、漁港事業者や漁港技術者にとって、「学問」はいざという時に頼りにならない、不用な存在ではないかと思えてしまうのもいたしかたないことであろう。

では、漁港についての問題解決的な総合的学問領域は存在しないのであろうか。現実には、漁港という対象物が、土木学、水産学、社会学など諸学問領域の狭間にあるために、専門家が生まれにくく研究例が少ない。その結果、現行の学校教育のシステムでは、漁港が取り上げられにくく、土木や水産分野の人材は漁港について無関心になってしまう。

具体例を以下に示した。いずれも、漁港の問題解決に必要な学問分野は、単一分野ではなく、「超領域的」なものである。最終的には、「漁港学」ともいうべき分野が必要であろう。

 

2. 具体例

(1) 環境保全運動と漁港計画:大分県速見郡日出町小深江漁港拡幅事業

漁港整備事業は、地元の強い要望を受けて計画され、議会の決議や承認などの過程を経て承認、予算執行、事業遂行、というプロセスを経る。その際、「民意」をどのように反映させるかは問題が生じやすい要素となる。本件の場合には、行政側からすれば形式上の過程を踏んでいるから問題がないと考えるが、事業の内容に納得できない民側からは様々なクレームがついている。

 

 

 

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