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中世(400-1200年)はギリシャ・ローマ文明の滅亡にともない、いわゆる科学的創造の空白時代で、この時期に海洋に関係ある事項としては僅かに北方の民族ノルマンの活動あるのみである。イタリアの文芸復興は14世紀に始まるが、中世の封建制度を打破するのに遠洋航海術の果たした役割は大きい。コロンブスの大西洋横断(1492年)、バスコダガマのインド洋航海(1497年)、マゼランの世界一周航海(1579-1522年)も優れた航海技術なしには、とうてい不可能である。この時代の特筆すべき事項は航海用コンパスの創作(1302年)とレギオモンタヌスの航海暦の作製(1471年)がある。

16、17世紀は崩壊する封建社会につづき、資本主義社会が発展しはじめる下地ができる。そして世界貿易の発展はこの時期に行われたメルカトルの世界地図作製(1569年)などがその基礎となっている。世界最大の海流であるメキシコ湾流がヨーロッパ人の眼にふれ、その科学的記載が行われ始めたのもこの時期である。18世紀に英国の産業革命により、市民社会の全様相が変革され産業資本が発生する。英国人ハリソンによるクロノメーターの発明は航海術に大きな影響を与えるようになる。キャプテン・クックの大航海(1768-1780年)は従来の単なる地理学的探検より一歩進んで様々な科学的調査を行った点、後の海洋大探検が行われる下地となった。

19世紀は高度資本主義の時代に入り、文明社会の交通、通信手段である汽車、汽船、電信機が発明された。1858年には早くも欧州と米大陸を結ぶ大西洋横断の海底電線が完成した。この海底電線の敷設にともなって海洋、海底の調査が盛んに行われるようになった。英国を中心にヨーロッパ諸国は世界の海洋の調査に乗り出し、海洋物理、化学、生物などで多くの新知見を報告した。中でもダーウインの測量船ビーグル号による世界周航(1831-1986年)、隊長トムソン指揮のもとのチャレンジャー号の世界周航(1872-1976年)、モナコ大公アルバート一世の大西洋、北氷洋調査(1987年)、ドイツのヘンゼンによるナチュナル号によるプランクトン探検航海(1889年)、ノルウェー人のナンセンによるフラム号による北極探検などが有名である。ダーウインの「種の起源」(1859)で集大成された進化思想によって生物学研究も活発となり、ここに海洋学が誕生するようになる。後発の米国もアガシー指揮のもと、アルバトロス号で大西洋、太平洋の調査(1883年)を実施した。日本では調査船などによる大航海はまだないものの和田雄二は1893年に海流瓶による最初の海流調査を実施している。19世紀には米国のモーリーにより「海流及び水温の世界分布図」、「北大西洋水深図」、「海の自然地理学」、フランス人ツーレーにより「海洋学(静力学・動力学)」が刊行された。

 

 

 

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