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5. 水溶液系の化学平衡

海洋は一大電解質溶液系であり、そこに溶存する化学種の挙動は溶液化学として興味ある対象である、しかし35‰という塩分濃度と19‰というクロリニティを示しこれは主として塩化物イオン濃度であるから、通常の希薄溶液の理論を適用することはできず、デバイ・ヒュッケルの理論の適用も十分でない、ひと頃、これを解決するために等張溶液の取扱いが行われ、イオン強度一定の下における電解質の溶液論の展開が行なわれた。

また溶存しているイオン種も単イオンでなく、種々の錯体を形成する場合も多く、またイオン対として表現される場合も多く、これらは錯体化学の分野とも密接な関係がある。さらに多くのイオンが実は単イオンではなく、有機配位子を配位した有機態であることが明らかになり、海水という溶液系の取扱いはいよいよ複雑になってきている。例えば、陸上生態系の森林から流出した、フルボ酸鉄、あるいはフミン酸鉄が沿岸の海藻類を育てるのに必須であることも明らかにされ、陸水と海洋水との合流の問題も環境問題として取扱われるようになってきた。溶液系の平衡からは主成分濃度の説明はできても微量成分の説明ができない。これに関しては中央海嶺からの熱水の噴出があり、最近冷水プリュームもあるがこの量が不明のため十分な取扱いはできない。熱水から生成する黒鉱鉱床に近い海底の鉱物資源の利用は次の時代からのものであろう。現状では経済的な採算が取れない。

 

6. 海洋における生物の活動

海洋における生命活動は地質時代には大気の組成を決めるのに重要な役割を果たしており、現在でも光合成により大気中の二酸化炭素バランスに大きな寄与をしている。海洋中の鉄の存在が光合成に大きな因子をもつことが南極海の調査と南極の海洋水を用いる実験からも明らかとなった。海洋におけるクロロフィルの分布は海洋の一次生産のアクティビティを示す指標になるが、最近これらのデータ整理も行なわれている。

一次生産は、それ以後の海洋生物の生活の大きな問題であり、現在7000万t〜1億トンという年間世界水産物の収量は今後の人口増加による人類のタンパク資源の確保といった点で重要である。水産資源、人口漁礁の開発など今後の課題は多い。

海洋中のケイ酸塩、硝酸塩などの微量成分は生物の活動に依存するところが大きい。

 

 

 

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